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破戒神官ヴァレン ~遺跡の街の復讐者~  作者: 火輪
一章 岩の腕のティラニウス
4/17

岩の腕のティラニウス 三




 ▼ ▼ ▼




 当然というか、内部は薄暗かった。

 しかし盗人の先達が備え付けたであろう魔術的な光を放つ燭台がぼんやりと通路を照らし、内部への進行に支障は少ない。


 通路の高さは人の背丈二人分、広さは八人ほど横並びできる程度か。

 両側の壁も床も天井も、みな切り出した石を組んで作られている。


 シェリーはフードを下ろし、首から上を晒した。

 視界が狭いのはいかにもまずく、事ここに至れば不埒者の視線を気にして顔を隠す必要も薄い。


 束ねて一本に編まれた白金の長髪は、傷みと汚れで艶が失せている。

 首尾よく稼いで戻ったら、入浴して身を清められる所があるかヴァレンに聞こうと心に強く決めた。


「古代の墳墓、と聞いていたけど」


「はい。身分高き何者かとその一族、そしてそれに仕えていた者たちが葬られた、巨大な共同墓所と推測されています」


「一本道なの……? この通路」


 シェリーの訝しげな呟きは無理もない。

 二人が歩いている通路は本当に直線の、一本道なのだ。

 左右に幾つか分かれ道はあるものの、勾配による高低差すら無く、入口から真っ直ぐ中心部へ進むが如き通路が長く続いている。


「そうです。中心部の『垂直大空洞』まで続いています」


 言われて先をよく見れば、なるほど遠くに光が見えた。

 とはいえかなりの距離がある。走ればすぐに着くだろうが。

 しかし、普通に歩いているだけで足音が反響して聞こえるような通路で、ことさらに大きな音を立てるのは憚られた。


 そしてその警戒は、すぐに正しかったと確信する。


「───構えて下さい。来ました」


「……!」


 ヴァレンは足を止め、左手の盾を構えつつ静かに告げた。

 シェリーはすぐに応じ、腰間の刺突直剣を抜き放つ。


 カシャカシャと硬質だが軽い音が複数近づいてくる

 音の主はさほど待つこともなく、脇道から姿を見せた。


 それは、三体の歩く人骨だ。


「【骸骨戦士】……!!」


「敵は全て亡者です。古代の魔術により、ここで果てた墓荒らしが命無き兵隊となって生者に襲い掛かってきます」


 肉無き亡者は武装していた。

 右手には刃渡りの短い曲剣。左手は無手が二体、小盾持ちが一体。


「前に出ます。まずはご覧下さい」


「ええ。任せ───」


 た、とシェリーが言い終えたと同時に突撃するヴァレン。

 足音が響き、三体の骸骨戦士が気づき、虚ろな眼窩を二人に向けた。

 踏み込みは高速。あっという間に距離が詰まり、そして。




 盾が、骨と衝突した。




 バラバラになりながら吹き飛ぶ三体分の人骨。

 骸骨たちは剣を構えることもできなかった。


(シールドバッシュ……!)


 盾を用いる戦士にとって、シールドバッシュは馴染みの技だ。

 肩から腹まで隠せる中盾では視界が塞がれるという難点こそあるが、軽い相手は吹き飛ばし、軽くなくとも衝撃で体勢を崩しつつ、盾を構えたままにできるのが強みである。


 ではあるのだが……


「……今の、何?」


「ごく普通のシールドバッシュですが」


「いや、どう見ても体当たりよね今の。シールドバッシュって、こう……盾で殴りつけるような技だったと思うけど」


 ヴァレンのそれは盾を鈍器として使うものではなかった。

 盾を構えつつ、自分の体重と突進力をぶつけるような、例えるなら破城槌の如き質量の暴力であった。


 結果、衝突したのは一体だったが、吹き飛びに巻き込まれる形で一体が、もう一体はあろうことか、かすったような当たりであるにもかかわらず、その衝撃でバラバラになった。


「たかが体当たりであんな破壊力の───」


「お待ち下さい。まだです」


「───ッ! 骨が……!」




 空空カラカラと音を鳴らし、骨たちが一か所に集う。

 そして見る間に再び人の形を取り戻していく。




 ───無限復活。

 不死の怪物、亡者系統の化け物の最も厄介な点がこれだ。

 個々の能力は脆弱でも、死なない体と無限の持久力がどれだけ恐ろしいかは語るまでもない。


 ヴァレンは集まる骨に向かって再度踏み込んだ。

 薄暗い中、目敏く腰骨を見つけるや、踏み込む勢いもそのままに、粉と砕けよとばかりに全体重を込めて足を落とす。


フンッ!!」


 猛々しい呼気とともに、腰骨が一つグシャリと砕けた。


「狙いは骨盤です。いかに不滅の骸であろうとも、人骨の構造上、ここを砕いてしまえば復活を大幅に阻害できます」


 言う通り、目に見えて復活速度が遅くなった。

 骨盤が砕かれた一体は上半身と下半身が繋がらず、もがいている。

 もう二体はほとんど元の形を取り戻し、起き上がろうとする所だった。

 それを見て取るや、ヴァレンは腰から武器を抜いた。


 メイスである。

 殴打部分はひし形の出縁フランジが付いた一般的なものだった。

 しかし一つ、大きな特徴があった。


(柄が……短い?)


 そう、短い。

 通常のメイスの半分ほどしかない寸詰まりであった。

 恐らくは、遺跡内で天井が低かったり、部屋が狭かったりする場合が多い故の工夫であろうと思われる。


シィッ!」


 駆け込みつつ、右から左へ横薙ぎに一払い。

 神霊術を付与しているのだろう。淡い青の燐光が舞った。

 手前の亡者の曲剣が弾かれて大きく体勢が崩れる。

 間髪入れずにもう一撃。左から右への一薙ぎは命中。頭蓋が砕けて散った。


 ここまで一動作。一呼吸二連撃。


 そこからもう一歩の踏み込み。

 手前の人骨が崩れ落ちるのを待たず、体で弾き飛ばしながら。

 そして槍の如き突き込み。

 メイスの先端が二体目の頭蓋を砕く、と同時に、瞬時に引き戻す。


 引き戻しつつ、復活した最後の一体、盾持ちに向き直る。

 動きに迷いも無駄も無い。


(……素早い。あの体格で、なんて速さ)


 正直を言えば、シェリーの中では侮りがあった。

 教義を捨てて没義道に堕ちた破戒神官などという存在に、まともな実力などあるものか、と。


 だがシェリーは認識を改めた。

 よく考えれば、見渡す限り悪党しかおらず、何も知らずに宿を求めた客の部屋に押し入って狼藉を働くことを慣例とするような街で、荒事や危険な探索を生業としている者が弱者であろうはずがないのだ。


 おもむろにシェリーは前に出た。


「……? シェリー殿。何故───」


「───かしこまらないで。シェリーでいいから」


「ではシェリー。何故、前に?」


「そこの盾持ちは私がやる」


「……お待ちを。私は武器に神霊術【武装祝福】を付与しているからこそ不死の亡者を滅することができるのです」


「見ていてわかった。殴る時に神霊術の淡い残光が見えたから」


「貴女の得物はお腰の刺突直剣でありましょう。

 的が隙間だらけの骸骨戦士に、刃を突き込む武器は───」


「───いいから、見てて」


 言うが早いか姿勢を低くして踏み込むシェリー。

 突撃と同時に放たれた、下段、上段の二連穿。


 一穿目は大腿骨。体勢が崩れて盾が下がる。

 二穿目は頭蓋骨。盾の上から覗いた急所へ。


 淡い燐光が尾を引きながら迸った剣閃に頭蓋を貫かれた骸骨戦士は、一瞬ビクリと身を震わせると、糸が切れた操り人形の如く崩れ落ちて骨の山となった。


「どう?」


「……お見事。なるほど、技量の素晴らしさもさることながら、その得物、儀礼にて祝福がほどこされた上質の武器でありましたか」


「ええ。この地で稼ぐなら、不死の亡者への対抗手段は必須と聞いたから」


「良い選択であると思います。なればこのまま進みましょう」


 砂と化して散っていく骸骨戦士の骨を見送りつつ、二人は奥へと歩を進めた。

 そうして到着した通路の最奥は、ぷっつりと道が途切れていた。

 そこに広がっていた空間に、シェリーは思わず息を呑んだ。




 穴だ。縦坑あなであった。しかも広い。

 庭付き民家の三軒や四軒は丸々収まってしまうほどに。




「こんな大穴が……これがさっき言っていた『垂直大空洞』?」


「はい。遺跡の天頂部から最下層まで、完全な吹き抜けです。

 この広く深い垂直坑道により、遺跡の内部にも空気が行き渡っているのでしょう」


 見上げてみると、はるか上に青空が見えた。

 この大穴は、この遺跡を縦に貫通しているのだ。


「……どこまで深いの? この穴」


「今いる階層を一として、上層、下層、ともに九階層までです。

 トライドラの住人たちは、この大穴を単純に『大口』と呼んでいます」


 言われてみれば、得体の知れない化け物の大口にも見える。

 この遺跡自体を巨大な化け物と見立てれば、なるほど言い得て妙だった。


「通路で戦闘になった際、亡者たちはこの中央部───『大口』へ追い込もうとします。お気を付け下さいますよう」


「……わかった。気を付ける」


「結構。では、少し戻った所の脇道から下へ向かいます。

 採取依頼の出る品は採れる場所がほぼ決まっていますので、ご案内致します」


「ええ。お願い」


 そこから先はおおむね順調であった。

 石と土と暗闇に包まれた古代墳墓の探索は単独であれば一苦労であろう。

 他の盗掘屋たちと出くわすこともあったが、幸い何か諍いが起きる事も無かった。


 それよりも、シェリーが閉口したのは遺跡に巣食う敵、亡者であった。


 現れ方も実に厄介な、もっと言えば、悪辣な出現の仕方が多かった。

 亡者たちは脇道や壁の仕掛け、隠し通路などの、意識的にも物理的にも死角になっている場所から、ほとんど不意打ち気味に湧いて出てくるのが常だった。


 かてて加えて【骸骨戦士】に【屍人亡者】といった亡者系統の敵は、一対一なら脆弱な相手だが、一度に五体、六体、時には十体以上の大集団で現れ、嵩に懸かって攻めてくるのだ。


 彼らが手にする武器は錆と刃毀れだらけの曲剣や手槍などで脅威度は低いものの、それが四方八方から襲ってくる上に、通常の攻撃手段で倒してもやがて復活して、再度襲ってくるとなれば、個人の力量云々ではどうしようもなくなるであろうことは想像に難くなかった。


 とはいえ、前衛に盾を構えたヴァレン、後衛から飛び出すシェリーという連携に慣れてきたこともあり、二人は危なげなく進むことが出来た。


 途中何度か、悪質な落とし穴の罠にシェリーが肝を冷やす場面もあったが、下部三階層まで順調に潜り、崩れた納骨堂やら、地下水の染み出た場所やらを巡り、依頼の品を袋に詰める作業を続けた。


「……あの落とし穴、落ちた先はどこに繋がってるの?」


「基本的には一つ下の階層に繋がっているだけです。

 落ちた先では怨霊や亡者の集団が待っていますが」


「もし落ちたら?」


「逃げられなければ死にます」


「だと思った」


 依頼の品のうち『銀光蟲』『夢見茸』『薬効苔』の三品は苦も無く集まった。

 しかし『魔蟲糞土』だけはヴァレンも慎重に慎重を重ねての採取となった。

 というのも【暴食蟲】を警戒してのことだと言った。


「【暴食蟲】って何なの?」


「土を捕食しながら掘り進む、ミミズに似た巨大な蠕虫です。

 太さは子供の背丈ほど、長さは大人の背丈十人分ほどもあり、凶暴です。

 体の両端に一つずつ、太さと同じ大きさの吸盤状の円口腔があります。

 ヤスリのような硬質で鋭い歯が何百も並んだ口で、何でも食べる悪食です」


「会いたくはないわね……」


彼奴きゃつは強敵です。準備無しに挑んで良い相手ではありません。

 自然発生した生物ではなく、失伝した古代魔法技術によって、人工的に生み出された魔生物と推測されています」


 言いながらヴァレンは作業用皮手袋をはめた手で『魔蟲糞土』を掬う。

 シェリーが広げた麻の大袋が満杯になるまで入れていく。


「『魔蟲糞土』は【暴食蟲】が穴を掘り進めながら排泄した土と、【暴食蟲】の体表面の粘液が染みた土を混ぜ合わせたもので、植物にとっての栄養素を大量に含み、農作物の生育に抜群の肥料となるのです」


 二袋詰めたところで一つを背負い、もう一方をシェリーに渡す。


「これで引き揚げましょう。もう昼を過ぎて大分経ちます。

 夕方から夜にかけて亡者や怨霊のたぐいが増えるので、危険度は桁違いです」


 よく見ると、シェリーが手渡された方は少し軽めに詰めてあった。


「……」


「……何か?」


「……別に。なんでもない」


 ───シェリーには目下、新たな悩みが生まれつつあった。


 このトライドラは、悪党たちが集う街だという。

 異論は無かった。この街の『初日の洗礼』など正に外道の所業だ。

 街の住人たちの目つきや風体は、ろくでなし以外の何物でもない。

 きっと見た目通りの悪党であり、この街はそんな悪党たちが蔓延はびこる街なのだろう。


 だからこそ、シェリーはいぶかしみ、そして悩んでいた。

 このヴァレン・イゴーという男との距離感に。


 この街に住み着いている以上、ろくな人間ではないのだろう。

 破戒神官などという存在が、善人であるはずがないのだろう。

 警戒するべき悪党の一人であることは、間違いないのだろう。


 しかし、だ。


 今のところ、不埒な悪意や身の危険を殆ど感じない。

 それどころか、女の荷物を軽くする気遣いなどしてみせる。


 軽口の一つも叩かぬ寡黙なこの背中は、どこまで信じていいのだろうか、と。




 ▼ ▼ ▼




「……嘘。それじゃ、三大国に出回ってる『魔蟲糞土』の流通元って」


「そのひとつはトライドラです。もっとも、流通元がここであることは国家によって秘匿されているのでしょう」


「そんな、どうして悪党達の街を潤すような真似を、各国が……」


「ここは色々と思惑が絡み合う街ですので」


 街へと戻る道すがら、シェリーはヴァレンと会話に時間を費やした。

 それは単に情報を整理するためだけの時間であって、決して親睦を深めるようなものではなかったが、陰鬱な古代墳墓からの帰り道で気を紛らわす程度の効果はあった。


「このままヒドラ商会の受付と換金所へ向かいます。

 お疲れであれば、砂色のカラス亭で一息入れてからにしますが」


 外に出た瞬間から吹き付ける砂交じりの強い風。

 シェリーはすぐにフードを被りながら言う。


「いい。先に身軽になりたいから、その後にする」


 無事に遺跡を出た二人は、ひとまず依頼の品の納品に向かうことにした。


 目的の場所は、出発前に寄った看板の裏に見えた、白い石造りの建物だ。

 薄汚れた無頼漢たちが屯するその場所は、酒場であり事務所であった。

 頭が五つある蛇を象ったレリーフが上に据えられた建物を横目に見つつ、中には入らず、外にしつらえてある受付に寄る。


 周囲の無法者達とは違う商人然とした格好の中年男は、長く伸びた髭を一撫でしながら、フードを被ったシェリーを一瞥すると短く問いかけてきた。


「見ねえ顔だな。新顔か」


「仕事の出来に関係あるのか?」


 シェリーはヴァレン相手に砕けていた言葉遣いを元に戻している。

 いつの間にか地が出ていた態度が再び硬質になったのは警戒の表れだ。


「いいや、無えさ。どこの誰で、何をやってきた奴だろうがな」


「なら早く査定を頼む。さっさと一休みしたいのでな」


「急かすなよ。まず依頼書と品を見せな」


 言われるや、シェリーは受付の卓の上にどさりと音を立てて品を置いた。

 一緒に置かれた四枚の依頼書と見比べつつ、髭の男は品々を検める。

 ヴァレンは袋から品を出して卓に並べるなどして検品を手伝い始めた。

 慣れていないシェリーは手続きを覚えようと、一歩引いてその様子を眺めていた。


 その時、商会の建物の入り口から四人の男が出てきた。

 それをシェリーは視界の隅で気づいたものの、特に顔を向けるでもなく見過ごした。


 気が逸れたその時だった。

 四人の男たちの先頭を歩いていた一人がシェリーを見た。


 やたらと目立つ紫の布を頭に巻いた、細面の野卑な男であった。


 気配を感じさせない歩みでシェリーの背後に近づくや、手を伸ばし───




「ッ!?」


「……やっぱな。上玉じゃねえか」




 ───シェリーのフードを取り払って、その素顔を晒させた。


 慌てたシェリーの顔を見ながら、その男は笑って見せた。

 さも嬉しそうに、どこか嘲るように、にんまりと、下品に。


「ッ! 離せッ!」


「何だよ、つれねェな。もっとよく顔見せろよ、な?」


 頭に紫の布を巻いた男はフードを右手で掴んだまま離さなかった。

 のみならず、シェリーの左腕を絡み取りつつ左手で腰帯を握る。

 シェリーの左後ろを取った体勢で、肩越しに顔を覗き込んでいた。


「こ、のっ……!」


「よっ、ほっ、と、ぅお、危ねぇ」


 その表情は怒りと嫌悪に満ちていたが、あらわになった意外な玉貌に、周囲では息を呑んで視線を注ぐ者が増えていく。


 無理もなかろう。トライドラは悪漢の、男の街だ。

 若く美しい女など『蝶々通りの辻の花』しかいないのだから。


 碧眼に怒りを宿して不埒者を睨みつつ、振り払おうとするシェリー。

 束ねて一本に編まれたシェリーの金髪が、あたかも馬の尾のように揺れる。

 それを愉快そうに、そして巧みに抵抗を殺して動きを封じていた。


 荒事には勿論、体術にも秀でていなければできない芸当である。

 下種な輩ではあるが、その実力は窺えた。

 残りの三人が面白がって寄ってくる。

 にわかにざわつく周囲。


「何だよケニー。どうし……おお? 女かそいつ?」


「ああ、見かけねェ上玉だ……『辻の花』ン中でも見た事ァ無ェ」


「へぇ……お前、客取ってる女じゃねえな。って事ぁ、新顔か」


「女の新顔なんざ、いつぶりだっけな。しかもこんな上玉はよ」


 四人は揃って頭に青や濃緑の布を巻いていた。

 シャハーラーマでよく見られる、髪に砂が入らないように撒く帯頭巾だ。

 しかし、日差しで焼けたその肌は、砂漠の民の褐色とは違う。

 トライドラに吹き付ける砂交じりの風を嫌がって巻いているだけだろう。


「おのれ、下種がッ……!」


「おおっとと、まァまァ、暴れンなよ」


 ケニーと呼ばれたひょうげ者はシェリーを放さない。

 検品中だった受付の男は見向きもしなかった。

 面倒ごとの予感に迷惑そうな顔をしてはいたが。


 シェリーは一向に拘束を振り解けずにいる。

 そんな獲物にケニーが顔をより近づけようとした、その時───




「ぎァッッッ!?」




 ───ケニーは突然の痛みに呻いた。


「っ!? ……ヴァレン?」


 指も甲も傷痕だらけの、大きく力強いヴァレンの左手が、ケニーの右手を握り潰さんばかりに掴んでいた。




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