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空の色   2

 フルンとアシュリーにも魔晶石を持ってもらって、まだ結晶になりかけの魔晶石を踏み砕きながら結界に向かう。

 このふたりが魔晶石を持つとレア武器のように見える。

 イケメンはいいわよね。たぶん本当に大根を持っても格好いいんでしょうよ。


「数はこれだけでいいのか?」

「成功するかどうかわからないから、今回はこんなもんで充分よ」


 私たちの後に続く騎士たちの顔は緊張と警戒、あとは恐怖で強張っている。

 人間が住んでいる場所まで魔獣が来ないように見回りをするのは、さっき通り過ぎてきた廃村までで、結界のこんな近くに来ることは彼らでも滅多にないんだって。


「……あれが結界?」


 あっれー、イメージとぜんぜん違う。

 てっきり超特大の魔法陣や、ブラックホールみたいに真っ黒な洞窟があるんだとばかり思っていたのよ。

 でも実際に目の前に現れたのは、墨絵の世界のような切り立った崖に作られた両開きの巨大な扉だった。


 山……なのよね?

 どこまでも垂直に伸びた崖は、雲に遮られて頂上が見えない。

 扉の高さは建物五階分くらいかな。

 両開きの青銅色のごつい扉で、同じような材質の巨大な閂で閉じられ、更に鎖で幾重にも留められている。


 魔法のある世界でこれはないでしょう。

 それに見た目的にとても警備が甘そう。あっという間に破られそうだ。

 結界強化って鎖を増やせってこと? それとも扉を頑丈にするの?

 はっきり言って、かなりださい。


 女神ってばネットで異世界小説ばかり読んでいて、こんな結界しか思いつかなかったんでしょ。

 もっと近未来風のSFっぽい結界にするとか、扉の両側に銅像を置いたり彫刻をするとか、魔法がかかっていますよってエフェクトをつけるとかさあ、何かなかったの?


「クレイグ、誰でもあの扉の前まで行けちゃうの?」

「行くやつなんていない。よく見てみろ。もう扉が僅かにだが開いているんだ。そこから強力な闇属性の魔力が溢れ出している。あそこまでむやみに近づいたら、間違いなく魔素病になってしまう」

「どのくらいの時間で? まさか、すぐに体が変形するわけじゃないでしょう?」

「それはそうだが、一時間もかからずに痣は出ると思うぞ」


 僅かでも開いているのに、その段階で止まっているということは、私にわからないだけで魔法で防御されているのよね?

 魔道省も結界近くまで来ていたせいで魔素病になった人がたくさんいたんだもんね。


「先にこれを片付けよう。邪魔だわ」


 遠くに結界の見えるこの位置までくると、私の身長まである魔晶石もかなりある。

 水晶に覆われた洞窟のように、地面も岩も崖も魔晶石で覆われていてるのに、結界の扉の周りだけ岩がむき出しなのがいっそ不気味かもしれない。

 魔力が強すぎても魔晶石にはならなくて、ある程度薄まった私のいる位置くらいが一番大きくなっているんだと思う。

 だったらこの辺の、まだあまり育っていない魔晶石は魔力を吸って砕いてしまって。


「代わりにこの魔晶石を、地面にぶっ刺す! あれ、地面が硬くて刺さらない」

「ここに刺せばいいのか?」

「また面白いことを始めたね。こっちのも刺せばいいんだね」


 クレイグが魔晶石を地面に刺すのを見て、アシュリーもフルンも同じようにしてくれた。


「ある程度育った魔晶石をこっちに持ってきたほうが、早く大きくなるかもしれないでしょ?」

「そんなに魔晶石が必要なのか?」

「よくぞ聞いてくれました」


 フルンの質問に得意げに胸を張った。


「結界を強化する時には魔力はいくらあっても足りないと思うのよ。魔獣がいつ襲ってくるかわからないなら強化魔法を切らせるわけにはいかないでしょ。だから私の周りに魔晶石を積み上げておきたいの」

「なるほど。魔力を補充しながら戦うのか」

「そうよ」


 時代劇の映画で、地面に何本も刀を刺しておいて、刃こぼれや血のりで刀の切れ味が落ちた時に、新しい刀に持ち替えて戦うシーンを見たことがあるのよ。

 魔力がなくなったら魔晶石から魔力を吸って、砕けた魔晶石のエフェクト付きで戦う巫子って格好良くない?


「痛そうだな」


 クレイグのそういう突込みはいらないから。


「フルン、もう少し結界の傍に行きたいからついて来てくれる?」

「待て」


 フルンに話しかけているのに、クレイグが血相を変えて腕を掴んできた。


「だからさ、許可なく独身女性に触ってはいけませんって何度も言っているでしょう?」

「結界に近付くなんて言うからだろう。危険だ」

「闇属性の魔法も吸収したら無属性に変えちゃうのに?」

「う……それは」


 それでもまだクレイグは、私の腕を離さないで助けを求めるようにフルンを見た。


「心配するな。危険だったら転移で戻る。それより俺たちから離れるんだ。おまえたちこそ警戒を怠るな。いつ魔獣が現れてもおかしくないぞ」

「アシュリーも一緒に行くの?」

「僕の扱いひどくない?」


 傍に近付いてきたアシュリーにおでこを突かれた。


「いやだって、クレイグたちが心配かなって」

「自分の身も守れないようなやつらしかいないのなら、結界強化なんて出来ないだろ?」

「たしかに」


 眷属に甘えてばかりもいられない。

 それに忘れていたけど、眷属は私以外の人間をあまり守ろうとしないんだった。

 結界強化の時も、たぶん私を最優先で助けようとするはず。

 だから騎士たちには強くなってもらわないと。


「強化魔法をかけていくわ」


 全員に集まってもらって、かけられる魔法を必要ないものまで全部かけた。

 これでもまだ魔力に余裕があるけど、まあしかたない。


「よしよし。これで実験できるわ」


 ぱたぱたと結界まで小走りで近付いた。

 横のほうからうなり声が聞こえたようだけど、今の私では魔獣の相手は無理だから騎士たちに任せよう。


「うわ、魔力が濃い」


 向こう側が見えないくらいのほんのちょっとの隙間からでも、こんなに魔力が溢れてくるの?

 それも、今まで触れた魔力と比べて桁違いに強力な魔力だ。


「空中の魔力は吸収できなくても、こんなに濃く噴き出してくる魔力ならいけるんじゃない?」


 腕を伸ばして扉に触れようとしたら、さすがにフルンに腕を掴まれた。


「何をする気だ!」

「さわるのは危ないわね」

「レティシア」

「怒らないでよ。こんなに強い魔力があるのよ? 無属性にして神獣様に届けたいじゃない」

「は?」

「こいつは驚いた」


 え? そんなに驚くようなこと?

 使えるものはなんだって賢く使わなくちゃ。


「きみの体は大丈夫なのか? 人間の扱える魔力の濃さじゃないよ」

「そうなの? じゃあちょっとだけ」


 本当はもう吸収しちゃっているし、無属性に変換しちゃっているんだけどね。

 特に体調に変化はないような。


『おもしろい。まさかそんなことを思いつくとは』


 おや、女神だ。

 ちょっとひさしぶりじゃない?


『やっぱり聖女より、こっちのほうがおもしろい。いいわよ。そんな無謀なことをしてまで神獣に魔力を届けようという意気込みを買ってあげる』


 おお、ありがとーー。

 いいところに来てくれて助かるわ。


『最近のあなたは、ぐだぐだ考え込んでいてつまらなかったのよ。恋愛ってそんな面倒なものなの? あなたなら好きな相手はどんなことをしても振り向かすのかと思っていたのに、本当に聖女に譲ろうとするなんて』


 もうその話は言わないでよ。

 自分でも情けないって思っているんだから。


『結局、クレイグをどう思っているの?』


 女神、あの結界のデザインについて聞きたいんだけど。


『……』

「レティ? 具合が悪いのか?」


 アシュリーに心配そうに覗き込まれた。

 話はあとにしよう。


「ううん。大丈夫みたい。クレイグたちに話をしてから神獣様のところまで連れて行って」

「本当に出来るのか?」


 私を心配してはいても、強い魔力を届けられれば早く神獣は回復するんだから、フルンもアシュリーも期待するよね。

 あの球体の中でずっと動けずにいる神獣を見ると私だって心が痛むんだから、彼らはもっとつらいだろう。


「出来る。体調も大丈夫。今回はそれほど魔力が減っていなかったしね」


 だから安心してほしくて笑顔を向けた。


「それならいいんだが」

「心配性ね。私だって自分が大事だから、無理そうだったらやめているわよ。みんなも心配しているみたいだから戻りましょうか」


 私ってば忘れていたわ。

 過保護なのは眷属だけじゃなかった。

 不安そうに待っていたクレイグの元に戻り、結界から溢れ出す魔力を直接吸収したことを話したら、クレイグだけじゃなく騎士たちまで無謀すぎると顔色を変えた。


「何をやっているんだ。きみにもしものことがあったらどうするつもりだ! フルン様もアシュリー様もそこは止めてください。まずは神獣様に話してから試すべきです」


 クレイグってば眷属まで叱りだしたよ。

 フルンもアシュリーもクレイグに言われてそうすればよかったと思ったみたいで、おとなしく怒られている。


「レティシアがおかしいのはわかっていますが、それでも人間なんです。神獣様が心配な気持ちはわかります。でも彼女の安全を確保するのが先です。彼女に何かあったら神獣様の力の回復もそこで止まるんですよ」

「そうだな」

「つい彼女の勢いにつられてしまった」

「まあまあ、こうして無事なんだし」


 三人で睨まないでくれないかな。

 心配してくれるのはありがたいと思っているよ? それはもう本当に。


「わかりました。これからはもう少し慎重に動きます。で、私はこのまま神獣様のところに飛びたいんだけど、そっちは平気?」

「ラングリッジ公爵騎士団を舐めるな。強化魔法をあれだけかけてもらっているのに魔獣に後れを取るわけがないだろう」


 クレイグはそう言うけど、実際にバフ付きで魔獣と戦ったことがないから不安な顔をしている人もいるわよ。

 でもここは彼の言葉を信じよう。

 彼らが魔獣相手に負けるようでは、結界強化なんて不可能だ。




 ということで、さっそく神獣の神殿まで転移して、採れたて新鮮な魔力を神獣のいる球体に注ぎ込んだ。

 最近は神獣の毛並みがすっかり艶やかになって、尻尾を振ったりあくびをしたり、時には話しかけてくれたり、だいぶ元気になったのよ。


「これはすごい。結界の向こうはこんな魔力が溢れておるのか」


 瞳の輝きも初めて会った時とはまったく違う。

 この様子ならば、モフモフ出来るようになるのももうすぐなんじゃない?


「どう? その魔力なら回復が早まりそう?」

「うむ。だいぶ早くなるだろう」

「おおー、じゃあまたちょっと吸収しに行ってくる」

「待て。前にも話しただろう? 魔力をもらうだけではなく、体内で循環させて自分で作り出せるようにしなくてはいかんのだ」


 ああ、そんな話をしてたっけ。

 人間が自分で魔力を作っているように、神獣も健康になれば莫大な魔力を作りだせるようになるんだよね。

 ただし、異世界から来た神獣の魔力をこの世界の魔力と馴染ませるために、毎日この世界で作った無属性の魔力が必要なんだ。


 つまり、あまりこの世界の魔力ばかりが体に溜まっても、それはそれで健康によくないってこと?

 じゃあどれくらいの頻度で運んできたらいいの?


「まずは三日に一回。それを徐々に減らしていこう」

「それだけ? じゃあ人間から吸収した魔力は?」

「もういらん」


 ま じ か。

 もうそんなに回復していたか。


 でも待って。

 魔力を使うか神獣に渡さないと、魔力吸収出来ないのよ。

 どうしよう。魔晶石って私でも作れるのかな。

 魔道具に魔力を補充して回る? いやそれを職業にしている人がいるからまずい。


「どちらにしても、魔力を渡す方法は考えないといけないのよね」


 結界強化の時に聖女の魔力は、絶対に足りなくなる。

 せめて彼女にだけでも渡す方法を考えなくてはいけないわ。

 神獣の力が弱まり曇りの日が続いたせいで、闇属性の力が強まっているということは、結界の強化も過去にした時よりきっと大変でしょう?


『誰が神獣にしか渡せないって言ったの?』


 はあ!? 渡せるの??

 そういうことは早く言ってよ!




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― 新着の感想 ―
[気になる点] 『結局、クレイグをどう思っているの?」 』が」になってます [一言] 「レティシアがおかしいのはわかっていますが、」 サラッとディスられてない?w それともレティシアも受け入れてる?…
[一言] 恋愛感情自覚しても我が道を行くの変わらないレティさん、そこに痺れる憧れるぅ ↑窘められてたのにそれ言うか レティ〈結界がダサい 女神〈近未来感で自動ドアにでもする? レティ〈近づいたら開く…
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