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女神に悪役令嬢にされたので代理復讐していたら、公爵家が嫁にしようとしてきます  作者: 風間レイ
聖女と巫子

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空の色   1

 神獣省が用意してくれた馬車は私の希望通りに見た目は質素だけど頑丈で、シートだけは最高級に座り心地がよかった。

 本当は馬に乗りたかった。

 国境に行く時に懲りてはいたけど、馬に乗ったほうが運動になるじゃない。

 この五日間、ラングリッジ公爵家の敷地から外に出してもらえなかったから、そろそろちゃんと運動したい。


 広い敷地内を自由に動き回っていたから閉じ込められていたわけじゃないんだけど、ただ痩せた私を見た全員が、しばらくゆっくりしてくれと心配してくれてしまうので、これは自分で思っているよりやばいかなって思っておとなしくしていることにしたのよ。

 ちょっと魔力吸収をして、ちょっと素振りをして、ちょっと腕立て伏せと腹筋をして、あとはぐうたらしていた。

 おかげですっかり元気いっぱいで顔色もよくなった。


「中は広いんだな」


 今日はようやく結界の前まで連れて行ってもらえることになったので、これから出発するところなの。

私の隣にフルンが乗り込んで、向かいの席にアシュリーとリムが腰を落ち着けて、馬車の周りをクレイグが指揮する騎士団が取り囲んでいる。


 結界に近付くと魔獣と遭遇する危険があるけど、眷属がいるから騎士団は来なくても平気ではあるんだよね。

 でもさ、私が帰ってきた時に大喜びで出迎えてくれて、今日も俺達が守りますよって言ってくれている騎士に、来なくていいよとは言えないじゃない。


「転移で移動すればいいのに」


 私に付き合って馬車に乗ると自分で言ったくせに、背もたれに腕を伸ばして足を組んだアシュリーは不満そうだ。

 

「途中で街の様子を見たいのよ。アリシアが現れて、希望が持てるようになって変化があるかもしれないでしょ」

「きみが魔力吸収した時に希望なら持っただろう。何を今更」


 聖女登場ってこの国が滅びるかどうかの一番の転換点でしょう?

 なんでそんな興味なさげなの?

 みんな、もう少しアリシアに興味を持とうよ。


「サラスティアは今日もアリシアのほうに行ったのね」


 結界を見に行く時くらいは戻ってくるかと思ったけど、彼女はずっとアリシアや大神官と行動を共にしている。

 二日前に神獣様のところで会った時には、忙しいとは言っていたけど楽しそうだった。


「あいつは世話を焼くのが好きだから、聖女はちょうどいい相手なんだろう」


 腕を組んで目を閉じていたフルンが、ちらりと私のほうを見た。

 もしかすると私が不満に思っていると勘違いしたのかもしれない。


「レティはフルンを頼りにしているからな」

「俺だけを頼りにしているわけではないだろう」

「まあそうだけどさ、レティは自分の力でどんどん世界を広げていろんな人と親しくなっただろう?置いて行かれた気分だったところに、育て甲斐のありそうな子が現れてくれたから、今は大神官や聖女の世話をするのが楽しくてたまらないんだろう」


 前にもそんな話をしたことがあったわね。

 サラスティアは、私がいなくちゃ駄目なんだからって思える相手が好きなんだな。

 それってダメ男を好きになるタイプだよね。

 

「アリシアにいろんな土地を回って来いって言いだしたのは私だから、サラスティアが協力してくれるのはありがたいわ。大神官もアリシアもサラスティアに鍛えてもらって、周りの人にも神聖力で感謝されて、神殿の評判があがるならいいこと尽くしよ」

「どうかな? 神殿の手伝いをして苦しんでいる人たちを手助けしてくれって、巫子がサラスティアにたのんでくれたおかげでこの土地に来られたんだって、聖女が率先してきみの良さを宣伝して回っているようだよ?」


 いい子や。

 いい子だけどそこは自分の評判をあげるために動こうよ。

 私はもういろんなところで恩を売りまくっているから、神獣様側だけが感謝されても困るのよ。

 女神の立場を考えて。


「ああいう子は、僕は苦手」

「え?」

「レティは好きだよ。きみは強くて前を向いて生きていて、いつも公平というか正しくあろうとするだろう?」

「ないない。私だってずるいところもいやらしいところもたくさんあるわよ。レティシアを殺そうとしたやつらが処刑されたと聞いた時も、ざまあ見ろって思ったわ」

「うん。そういうところがあるからきみは好きだ。でも少し甘いんじゃないかい?」

「甘い?」


 何が?


「王宮でレティシアを迫害していたやつらも、額に印をつけたというのに放置したままだった」

「あれは忙しすぎて後回しにしていたというか、忘れていたというか」


 自分が被害者じゃなかったというのもあるし、やらなくてはいけないことが多くてそれどころじゃなかったというのもある。

 神獣様の力を取り戻すのが最優先でしょ。

 アシュリーといいクレイグといい、そこを気にするとは思わなかったわ。


「でも彼らは陛下が粛清してくれたんでしょ? 法にのっとって裁かれたのなら私が何かする必要はないわ」

「きみのいた世界では法律が大きな意味を持つようだが、この世界では身分制度のほうが優先される。身分の高い者は低い者に何かしても、だいたいのことは許されるんだよ」


 あ、そうか。だから王太子は好き勝手やっていられたんだ。

 ……え? でもクレイグは廃嫡されたり修道院にいれられたりしたって話していなかった?

 それは妥当な処罰だと思っていたんだけど。


「ほら、甘い」

「でも陛下とハクスリー公爵が協議して、必要なら裁判して……」

「裁判って、レティが王太子をぶっ飛ばしたやつか?」


 フルンに鼻で笑われた。

 確かにあれは私の知っている裁判じゃないわね。


「僕はけっこうクレイグが気に入っているんだよ」

「アシュリー? 話が飛びすぎてない?」

「まあ聞きなよ。彼ってぱっと見は騎士道精神を重んじて、度量があって、わかりやすい性格に見えるじゃないか。でもさ、最前線で病気に侵されながら魔獣と戦って、魔素病になった仲間が何人も非業の死を遂げて、父親も殺さなくてはいけないほど追いつめられた中で騎士団を率いてきた男が、そんな単純な性格のわけがない」

「それはそうでしょうね」

「きみは国王が粛清をしたって言っただろ?」

「ええ」

「違うよ。二度ときみに手を出す気にならないように、ひとりひとりきっちり落とし前をつけてきたのはクレイグだよ」


 は?

 はーーーー!?


「そうなの!? ねえ、フルン」

「そうだ」


 私が被災地で忙しくしていた時に、クレイグはそんなことをしていたの!?


「動く前に私にも話してほしかったわ。自分の落とし前は自分でつけるわよ」

「だったら、もっと早く行動するべきだったね」

「それは……そうだけど。予想より早く天候を回復できるって聞いたから、私に嫌がらせしてきた貴族やマクルーハン侯爵の領地は、他が晴れても曇りのままにしようって話があったじゃない。それで復讐になると思ったのよ」


 なるよね?

 領地経営が破綻するんだから。


「それは神獣様の復讐のためにするんだよ」

「アシュリーのけち。私と神獣様の復讐を兼ねてくれればいいでしょう!」

「粛清はクレイグの復讐でもあったのかもしれない」

「え?」


 フルンが呟いた言葉を聞いて、私はアシュリーの膝を叩こうとした手を止めて振り返った。


「きみを迫害していたやつの誰かひとりでもきみの心配をしてくれていたら、きみはもっと早く魔力を取り戻せたかもしれないし、クレイグともっと早く出会えていたかもしれない」

「……ん?」

「そうすれば王太子に殺されかけることもなかったかもしれない」

「んん?」

「きみを傷つけたやつは全員許さないと、クレイグは言っていた」


 クレイグは処罰とか関係なく、私を傷つけたやつらへの復讐をしたってこと!?

 

「あいつは絶対レティを守りたいと思っているからな。逆恨みをするやつがいて、後々きみを害することがないように、徹底的にやつらを潰しておきたいと言われれば、僕だって喜んで協力するよ」


 アシュリーがすごくいい笑顔で言ってくれちゃっているけど、だからさ、私は自分の復讐は自分の手でやるし、逆恨みだってはねのけてみせるわよ。


「いいじゃないか。きみがいなければ前国王夫妻と王太子はまだ好き勝手していたはずだ。彼らを処刑出来たことをクレイグは感謝しているんだろう。前国王とオグバーンが余計なことをしなければ、神獣様の力が弱まることはなくて魔素病なんて存在せず、多くの部下の命が失われることもなかったんだぞ」

「……そうね」


 前国王やオグバーンを処刑するのは、クレイグにとっての復讐にもなったのか。

 フルンに言われるまで、そんなこと考えてなかった。


 初めてクレイグたちと話をした時、彼らは藁にも縋る状態だったっけ。

 すっかり魔獣化してしまう前に、自害するか仲間が殺すしかないって話していた時、クレイグはどんな顔をしていた?

 私は自分のことで手一杯で、彼らのことまで深刻には受け止めていなかった。

 異世界から突然やってきた私にとってあの頃はまだ、彼らの苦しみも悲しみも絶望もどこか他人事だった。


「フルン、わかってないなあ。クレイグは愛するレティを守りたいんだよ。感謝しているかもしれないし恩も感じているかもしれないけど、あいつはレティに惚れてるんだからさ」

「そんなことはわかってる」


 ……わかってるんかい。

 もうすっかり眷属まで公認ってこと?


 いや、今はそっちの話より、クレイグや騎士たちの苦しみを他人事のままにしていたってことが重要なのよ。

 ずっと傍にいたのに、彼らが私の前では明るく振る舞っているのもあって、気にしていなかった。

 でもここで私が、気付かなくてごめんなんて言うのは、後ろめたさを解消したいだけで彼らにとっては意味がない。

 彼らは共に戦う仲間なんだから、もっと真剣に彼らと向き合うしかないのよね。


「よし、慰霊碑を建てよう」


 今初めて、日本のいろんな場所に慰霊碑がある意味がわかった気がする。

 ちゃんと亡くなった人の名前を刻んで、彼らも戦ったのだということを残したい。


 あ、私が勝手にやっちゃ駄目ね。

 クレイグに相談しよう。

 そうよ。クレイグか陛下が建てたほうがいいわよね。


「イレイヒってなんだ?」


 なんと。この世界には慰霊碑はないのか。

 どう説明すればいいんだろう。

 

 結界に一番近い廃村に到着するまで、慰霊碑の説明をすることになってしまった。

 ちゃんと伝わったのかはわからないけど結界の傍にそういう物があれば、次に結界の力が弱まった時に、今回のようなことになるのを少しは防げるかもしれないというのは賛成してくれた。


「ついたぞ」

「なんとなく空気が重い感じがするわね」


 アリシアたちがしばらく潜んでいた廃村は、想像以上に悲惨な状態だった。

 魔獣との戦闘が何度も行われたせいでほとんどの建物が倒壊し、燃えた跡が残っている家もある。

 雨風をしのげそうな建物はごくわずかだ。


 村を通り過ぎてしばらく行くと、ひび割れた地面に小さな魔晶石がぽつぽつと出現し始め、徐々に数が増えていった。

 冒険者や騎士が歩く場所は踏み砕かれた魔晶石が積もり、踏み固められている。

 結界に近付くにつれて魔晶石が大型化していて、やがて魔晶石の草原のようになってしまった。


「あっちは魔晶石の森のようね」


 結界近くまで行く目的のひとつのために、この辺の魔晶石を使おう。

 私の腰あたりまで育った魔晶石を引き抜こうとしたら、無意識に魔力を吸ってしまって粉々に砕けてしまった。


「あー、みんなにバフをしたのを忘れていた。魔力が減っていたんだ」


 この辺りはいつ魔獣が襲ってきてもおかしくないから、フルバフをかけたんだった。


「何をやっているんだ?」

「あ、フルン。あなたもこのくらいの長さの魔晶石を何本か持って。アシュリーは?」

「向こうでクレイグにイレイヒの話をしていた」


 あの男、なんで勝手に話すのよー。

 なに? そんなにクレイグが気に入ったの?


「ほっとこう。何本持てるかな。失敗した時のことを考えると、あまり取らないほうがいいかも?」


 これけっこう重いのよね。

 片手に一本しか持てないか。


「レティシア、聞いたよ。イレイヒを……」

「なに?」


 片手に一本ずつ魔晶石をがっしりと掴んで仁王立ちしている私は、大根を両手に持った農家のおばさんにそっくりだったと思う。

 感激した様子で話しかけてきたクレイグが、ぶふっと変な音をたてて、慌てて口を押さえて背中を向けた。


 くそう、魔晶石でぶん殴ってやろうかな。

 何が悔しいって、同じように魔晶石を持っていてもクレイグはおかしくないってことよ。



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