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女神に悪役令嬢にされたので代理復讐していたら、公爵家が嫁にしようとしてきます  作者: 風間レイ
悪役令嬢奮闘記

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裁判? いいえ、代理復讐です   4

前回、連載を再開すると書いておきながらひと月が過ぎてしまいました。

すみません。

今度こそ連載再開します。

 手にしっくりと馴染む。

 日本で愛用していた木刀とまったく同じ感触だ。

 使い慣れた武器を手にして、すっと心が凪いでいく。


 もしあのまま怒りに任せて突っ込んでいたら、返り討ちにあっていたかもしれない。

 相手は男ばかり六人もいるんだ。

 魔道士の攻撃は大丈夫なはずだけど、ふたりの近衛が厄介だ。

 彼らはプロ。実戦のない私より数段強いかもしれない。


「女神様が武器を?」

「素晴らしい、神聖力を感じるわ」

「どういうことだ?」


 目の前で奇跡を見せつけられた貴族達は、私が武器を手に王太子に近付いているのに止めようとしない。

 女神が王太子をぼこぼこにするのを許したってことだもんね。

 このタイミングで魔法の檻を消してくれたイライアスは、出来る男だわ。


「そんな細い体で俺に勝てると思っているのか!」


 怒鳴りながら王太子は腰の剣を引き抜いた。

 そういえば、魔法の檻に閉じ込めたから没収しなかったのね。

 いいでしょう。かかってきなさい。

 ふっと鼻先で笑ってやったら、王太子は青筋を立てて切りかかってきた。

 隙だらけのど素人の動きだ。

 だけど、体格がいいだけあって腕力が馬鹿に出来ない。

 がしっと木刀で剣を受け止めた衝撃で、骨がきしんだ。


 この体じゃなあ。

 フルバフをしていても、こんな衝撃を何度も受けたら腕が使い物にならなくなってしまう。

 でも大丈夫。

 男と女の力の差は日本にいた頃から痛感していたことだ。

 日本の武道には、体が小さな人が大きな人に対抗するための技がたくさんある。

 相手の力を受け止めなければいいだけのことよ。


 上から力で私を押し潰そうとした王太子の剣を、横に移動しながら木刀を引いて受け流す。

 私が腕力で勝てないので逃げようとしていると思ったのか、王太子は笑いながら再び剣を振り上げた。


「そんな棒切れ、真っ二つに切ってやろう」


 いいの? 女神のくれた武器なのに?


「うおりゃああああ」


 力任せに振り下ろした剣を、今度は最初から受け流した。

 馬鹿みたいに勢いをつけたせいでよろけた王太子の剣に、木刀を滑らせながら懐に飛び込んでいくと、黒板をチョークでこする音が苦手な人が鳥肌になるようなキキキキという音が響いた。

 王太子もこの音が苦手だったようで、一瞬無防備になった。

 ここですかさず顎に下からジャンピング頭突き!


「うぐっ!!」


 舌を嚙んだ王太子は口を押さえて背を丸めた。

 思いっきり顎の骨にぶつかった脳天が痛いけど、今は畳み込まなくてはいけない。

 涙目になりながらも怒りの形相で睨みつけてきた王太子に、遠慮なく木刀を打ち込んだ。


「痛い! やめろ!!」


 そっちから仕掛けてきたくせになにを甘えたことを言っている。

 肩や背に遠慮なく何度も木刀を打ち込む。

 

「このっ!」


 木刀を掴んで止めようとしたみたいだけど、馬鹿め、こっちはフルバフがかかってるんだ。動きの早さが違うのよ。

 こちらに伸ばした腕の下から脇腹に木刀を叩き込んだら、あばらが何本か折れたみたいでその場にうずくまった。


「ぐわ……助けろ……何を見ている……」


 そう言えばそうよね。

 近衛は何を茫然としているの?

 魔道士も、突っ立っているだけじゃいる意味がないでしょう。


「この野郎!!」


 逆上したんだろうね。

 それか雑魚だと思っていたレティシアが、物理で王太子を叩きのめす様子を見て恐怖でパニックになったのかな。

 ここは王宮の裁判場よ。

 高位貴族や国王夫妻がいる場所だというのに、ランドンが炎の魔法で攻撃してきた。


 でも大丈夫。

 ランドンに向けて開いた掌を向けて腕を伸ばすと、私に襲い掛かってきた炎はランドンと私の間の空中で淡い光になって、掌に吸い込まれていった。


 女神に聞いておいてよかった。

 本物の炎にこんなことをしたら大火傷になるけど、魔力によって作られた炎は魔力に戻して吸収して、無属性に変換出来るのよ。なんてチート。

 もちろん水も風も何でも来いよ。


「魔力なしって私をさんざん馬鹿にしてくれたけど、魔法が役に立たない魔道士って、魔力なしと同じで役立たずよね」


 言いながら、木刀を片手にずんずんと近づき、


「ひいいい」


 情けない声をあげながら、顔の前に両手をあげて後退るランドンのみぞおちに木刀を打ち込んだ。


「うげええ。ごほっ。げほっ」


 叫び声をあげながら倒れ込んだランドンは、両手で口を押さえて咳き込んでいる。

 そこをやられると、一瞬呼吸困難になるのよね。

 さて、次はそっちの魔道士たちだ。


「レティシア!」


 クレイグが焦った様子で叫ぶのと、近衛のひとりが背後で剣を振り上げるのとほぼ同時だった。

 さっと身を屈めながら横に飛び、中腰のままくるりとターンして床と水平に木刀をふるう。

 足払いされた形になった近衛は、びたんと床に倒れ込んだ。


「ぐおおお」


 訓練を積んでいるはずの近衛が、そんな叫び声をあげるの?

 剣を投げ出して両手で足を押さえながら床を転げまわっている。

 弁慶の泣き所って言われる場所を攻撃したから、かなり痛いのはわかっているんだけど情けないなあ。


「うるさい」


 通りすがりに腰にもう一撃打ち込んでから、もうひとりの近衛に歩み寄る。

 骸骨より少しはましになったとはいえ細い背の低い女の子が、宙に光とともに現れた妙な形の棒を使って、男を何人ものしていく姿はきっとこわかったんだろうな。

 それにさっきクレイグが私に声をかけたのも聞いている。

 私が不利になったらあの男が黙って見ているわけないんだから、勝てる見込みがないもんね。


「うわああああああ」


 目が合った途端、半狂乱で突っ込んできた。

 

「はあ」


 ため息もつきたくなるわよ。

 いくら道場で鍛えていたとはいえ、こっちは日本からやってきた平和ボケした会社員よ?

 騎士が、それも近衛騎士団というエリート中のエリートの騎士が、そんな弱いの?

 身体をちょっと横にひねっただけで避けられてしまう。

 急には動きを止められなくて、床に力いっぱい剣を叩きつけている騎士のお尻を、背後から思いっきり蹴り飛ばした。


「あ」


 バランスを失った騎士は見事な受け身の体勢で床に転がり、回転した勢いのまま立ち上がり、扉に向かって駆け出した。

 逃げられるわけないでしょうが。

 転移してきたアシュリーが扉の前に立ち塞がり、にっこりと笑顔で出迎える。


 前にはアシュリー。

 後ろには私と頼んでもいないのにやってきたクレイグがいる。

 何秒か悩んだ後、騎士は私のほうに駆け寄り、膝をついて床の上を滑りながら土下座した。


「申し訳ありませんでした!」


 私が暴れている様子を茫然と見物していた貴族たちは、この状況で私がどういう反応を返すのか息を吞んで見ている。

 まだ攻撃されていないふたりの魔導士も、これでうまくいけば土下座に加わる気かもしれない。

 でもね、世の中、謝って済むことばかりじゃないのよ。

 かつかつと足音を立てて土下座している騎士に歩み寄り、彼の横に回って脇腹を蹴り飛ばした。


「巫子!」

「なんとひどい」


 戦う意欲をなくした相手に追い打ちをかけた私の行動に、小さな非難の声があがった。

 騎士も被害者のように体を丸め、床に倒れて震えている。


「あら? 無防備だろうが女だろうが、平気で暴力をふるうのが近衛のやり方でしょう? あなた、さっきの映像に出てたじゃない。倒れた私の横腹を蹴ったでしょ?」


 私が気付いていないとでも思っていたの?

 

「見て。私の小さな靴を。あなたは騎士用の踵の厚いブーツを履いているのよ。それで蹴られた私の痛みは、あなたが今感じている痛みよりずっと大きかったわ!」


 私を非難できる人がいるなら出てきなさい。

 フルバフかかっているから攻撃力は同じくらいだとしても、レティシアとこの騎士とでは受けたダメージが全く違うわよ。


「眷属にポーションをもらうまで、息もできず、痛みに気絶しそうになっていたのに、それでも引きずられて馬車まで運ばれたのよ。謝って許してもらおうなんてずうずうしい」


 必要もないのに血を飛ばす仕草で木刀を振り下ろして、見物している貴族たちに向き直った。


「この王宮では弱い人間は暴力を振るわれても我慢するしかないのでしょう? だって、誰も私を助けようとしなかったもの。知ってます? 王子宮の使いには侍女を行かせるなって言われているそうですよ。女の子が王子宮に行くと近衛に拉致されて、集団で襲われる危険があるんですって。王太子も加わっていることもあって、死を選んだ子もいたんですって」


 この話は噂じゃなくて事実で、ここにいる人の中にも事件をいくつか知っている人は多いはず。

 でも全て王妃がもみ消して、王太子は何の罪にも問われていない。


「身分が高ければ、王族なら、何をしても許される国なんですよね? だったら神獣の巫子である私が、この場で彼らを全員撲殺しても問題ないですよね?」


 静かな声で言いながらにっこりと微笑み、すぐに残っているふたりの魔導士の元へ向かう。

 彼らは魔法で抗う根性もないらしく、私が近づく分後退るばかりだ。


「待て」

「信用ないわね」


 止めようとするクレイグに小声で答え、アシュリーがいるためにそれ以上逃げられなくなった魔道士たちの元に向かう。


「少し話を聞かせて。場合によっては無傷で帰してあげるわ」

「え? あ、はい!」

「おお」


 希望を見出したふたりは、先を争うようにその場に跪いた。


「あなたたちは魔道の塔の魔道士よね?」

「はい」

「そうです」

「魔道の塔が調べた魔道ランクが違っていたと、騎士が文句を言っていたわね?」

「……」

「ラングリッジ公爵騎士団の騎士たちの中にも、こちらで計測した魔道ランクと魔道の塔が調べたランクが違う人が何人もいたわ」

「そ……それは」


 顔を見合わせて言い淀んでるんじゃないわよ。

 殴られたいの?


「それにおかしいわよね。私は魔道具で魔力を抑え込まれていただけで、生まれた時から魔力ランクはSだったはずなの。でも魔力なしって言われていたのはなぜかしら? 測定は魔道の塔がしたのよね?」


 殴るぞっと示すために木刀を構えたら、魔道士たちは慌てて話し始めた。


「身分のあまり高くない者や地方の貴族の子息は、中央貴族の子息が近衛に入隊できるように、ランクを低く告げていたんです。自分の息子を近衛に入れたい貴族には、高いランクの測定結果を買ってもらっていました」

「近衛騎士団はランクA以上じゃなくては入隊できないって決まりは、魔道の塔が儲けるために出来たってことね?」

「いえ……陛下が……その」


 ですよねー。

 王族が絡まなくちゃ、法律を変えられないもんね。


「お金が陛下の元にも流れていたと」

「……はい。あの、どちらかというと王妃様に……」


 助かりたいとここまでべらべらと喋るんだね。

 彼らも貴族の子息でしょ?

 ここに親がいるんじゃないの?

 頭を抱えている人や、怒りに拳を震わせている人、


「ふざけるな! 魔道の塔は何をやっているんだ!!」


 中には怒鳴りだす人までいて大騒ぎだ。

 ごめんね、ハクスリー公爵。

 でも必要な証言が取れたでしょ?


「自分がやられたからやり返す? 神獣の巫子だと名乗る割には品がない。このような場で暴力を振るうなど許すわけにはいきませんな」


 この騒ぎの中、最前列の国王たちのいる側に近い席に座っていた男が、堂々とした口調で話し始めた。

 金色の髪を綺麗にセットしたイケオジだけど、私は髭があまり好きじゃないのよ。

 特に鼻下の髭の先をピンとのばして固めたみたいにセットしているのは、気取った感じの性格の悪いイメージがある。


 あくまで私のイメージよ。

 そうじゃない人もたくさんいるんだけど、少なくともこの男は性格悪そう。


「マクルーハン侯爵は、空間に神聖力のこもった武器が現れたのを見ていないのか?」


 反論したのは大神官だ。


「この状況であのタイミングで武器が現れたということは、女神様が天罰を与えろと神獣の巫子に命じたとは思わないか?」

「大神官様にではなく、なぜ女性の神獣の巫子様に?」

「王太子の被害者の多くは女性だからだろう。そして彼女もそのひとりだ」


 これだけ王族の悪事を並べ立てられているので、マクルーハン侯爵の意見に賛同する者はいない。

 かといって、大神官の意見にも賛同者はいないようだ。


「ここまで王宮が腐っているとはね」


 いた。

 あの男装の麗人だ。


「マクルーハン侯爵、女性の、しかもあんなにか細い巫子が男性相手に戦おうと決断するなんて、どれほどの覚悟が必要だったと思うんです? 先程の映像を見ましたよね。あんな風に川に投げ込まれるなんて。しかも騎士道を重んじなくてはならない近衛騎士団の騎士が、あのようなことをするなんて。そちらを糾弾しもしないで巫子を責めるのは納得できません」

「フレミング公爵、落ち着いてください。ここは裁判場ですぞ。証言をして罪を暴いて罰を受けさせるのが道理でしょう」


 あの人、公爵なの!?

 すごい。女性の公爵がいるんだ。


「よくそんな吞気なことを言っていられますね。この国はもう何時崩壊してもおかしくないってことをわかっていないんですか? 裁判を行え? そんな時間は残されていないんですよ」


 四十代の男装の麗人、かっこいいなんてあほなことを考えていた私の横から、クレイグが証言台近くまで歩み出した。


「何十年も雨の日が続いて作物が育たない中で、国民が飢餓に苦しんでいるのを、まさか知らない方はここにはいらっしゃらないですよね? 自分の領地の惨状に、どうして目を背けていられるんですか? 自分たちが生きていけるのなら平民はどうでもいいんですか? それがカルヴィア王国の貴族のありかたなんですか?」


 クレイグの発言に反論出来る者はいない。

 しかし、自分の行いを責められているような気がするのか、目をそらして沈黙する者ばかりだ。


「まったく、王宮に居座っている貴族は役立たずばかりだな。神獣の巫子に質問があるのだがいいだろうか?」


 そんな中、私がしていたみたいに手を挙げて、フレミング公爵の横に座っていた三十代の男性が、裁判長であるハクスリー公爵に発言を求めた。








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