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ラングリッジ騎士団    2

 私が結界の強化に同行すると言い出したら、クレイグたちは迷惑だと言うんじゃないかって思ってた。

 今にも倒れそうな女の子が、最前線に行くとか何を甘いことを言っているんだって怒られるのが普通よ。

 でも意外なことに、彼らは驚いてはいたけどむしろ嬉しそうだった。

 実はこの世界でも、戦う強い女性が人気だったりするの?


「今度はラングリッジ側にレティの説明をしないとね。彼女はこの世界でただひとり、神獣様と同じ無属性の魔力を持つ子なの。私たちは神獣様の巫子と呼んでいるわ」


 サラスティアがあまりにもあっさり説明したので、クレイグたちは一瞬何を言われたのか理解するのが遅れたようだ。

 瞬きもしないでじーっと顔を見られて居心地が悪くて、拳を口に当てて咳ばらいをしたら、はっとしたように身じろいだ。


「無属性……自然には存在しない属性の魔力でしたよね? 神獣様は我が国を守るために絶えず魔力を使っているので、世話役が代々受け継がれている方法で無属性の魔力を作って、神獣様にお渡ししていると聞いています」


 さすが公爵家の嫡男はよく知っているわね。

 それともこの国では常識なのかな。


「レティはあらゆる属性の魔力を吸収し、体内で無属性に変換し、神獣様にお渡しするスキルを持っているの」


 サラスティアの説明を聞いて、またみんなでいっせいに私に大注目よ。

 カルヴィンまで驚いた顔をしているから、なんとなく気まずい。


「カルヴィン、ごめんなさい。目覚めてから今までバタバタしていて話す機会がなかったの」

「ああ、それはしかたない。でもそんな大事なことを、なんで誰も知らないんだい? 知っていたら魔力がないからって、きみにひどい仕打ちをしなかっただろう?」


 説明はサラスティアに任せたほうがいいのよね。

 だから振り返って彼女のほうを見たら、顎に手を当てて考え込んでいた。


「詳しく話すと長くなるわね。国王のせい……じゃだめ?」

「だめでしょ」


 たぶんこの説明は、これからいろんなところで何回もしないといけなくなるわよ。

 そうして国王のやってきたことをばらして、こっち側についてくれる人を増やさないと。


「そうね。二十年くらい前かしら。神獣の世話役という重要な役目を担っているため、宮廷内で大きな力を持っていたクロヴィーラ侯爵夫妻の魔力が弱まりだしたって噂になったのよ。変でしょ? 本人たちより早く魔力が弱まったことを知っている人がいたのよ?」

「言いがかりだったということですか?」


 ビアーズ子爵に聞かれて、サラスティアはにこりと笑って首を横に振った。


「いいえ。ランクSだった魔力がランクBまで下がっていたわ。その後生まれた長男の魔力もランクBだった」


 カルヴィンのことよね。

 それで彼は家を追い出されるようにして学園の寮に入ったのよね。


「国王は魔力が弱ったことを理由にクロヴィーラ侯爵家を神獣様の世話役からはずし、ちょうど同じころに、魔力の強いものほど優れた人間だという話が、まことしやかに流れだしたの。レティが生まれたとき、世話役ではなくなっていたクロヴィーラと神獣様は会えなかったから、国王に彼女がどういう子なのかを説明し、家族に伝えてくれと頼んだのよ」

「それを誰にも知らせなかったということですか?」


 クレイグは眉を寄せ、机の上に置いていた手で拳を作りきつく握り込んだ。


「レティの叔父にあたるオグバーン伯爵には教えたわよ」

「クロヴィーラ侯爵の代わりに世話役になった人ですね」

「世話役ねえ。彼が無属性の魔力を届けないから神獣様の力が弱まっているのに、神獣様はもう年齢的に力が弱まってしまっているという話になっているんですってね」

「届けていない? じゃあ、今のこの状況はすべて国王とオグバーンが作り出したということですか?!」

「だから言ったでしょ? 国王のせいだって」


 この会話ってさ、不敬罪になったりするのかな。

 だから人払いしたの?

 国王が最高権力者だっていうのはよーくわかってる。

 わかっているんだけど、日本では政治家について好き勝手言えたじゃない。

 その感覚で下手なこと言ったら、首が飛ぶのかな。


「あの、ちょっといいですか?」


 でもわからないことは聞くしかない。


「さっきも言ったように、私は常識に疎いのでくだらない質問かもしれませんが」


 みんな、小さな子供を見るような目で私を見ていない?

 これでもレティシアは十六歳で、カルヴィンと二歳、クレイグとも三歳しか違わないのよ。


「神獣様の力が弱まって、天候は悪化して作物が育たなくなって、結界が弱まるのも加速して、このままだとこの国は滅びるんですよね? それなのに国王が神獣様の力を弱めたのはなぜなのでしょうか?」

「いろんな理由があるだろうが……まずひとつは王権の強化のためだろう。我が国は結界を守り魔獣がこちら側に来ないように絶えず戦ってきたため、近隣諸国から多額の資金を援助されている。しかしその隣国も我が国の国民も実際に守っているのは神獣様と神官たちだと理解しているので、国王はあまり人気がなかったんだ」

「はあ」


 クレイグの説明に気の抜けた返事をしてしまった。

 人気がないなら、いい政治をして人気を得られるようにしなさいよ。

 他人を蹴落としても人気者にはなれないでしょうが。


「そしてたぶんこちらが一番の理由だと思うんだが、結界がある程度弱まってくれたほうが金になるんだ」

「金?」

「魔晶石だよ」


 マショウセキ?


「……知らない?」


 あ、知らないとまずい物なのか。

 あれだけ常識を知らないと何度も言ったのに、驚かれるようなことなのね。


「レティシア、魔道具を動かすために使う石のことだよ。魔力を含んだ石で魔方陣を書くと魔法の発動体になるんだ」

「ああ、そうなんですね」


 カルヴィンの説明に頷いた。

 パソコンの基板とバッテリーを合わせたようなものかな?


「私は魔力がなかったので、魔道具を使えないので知りませんでした」

「あ、そうだったね。すまない。忘れていた」


 知らなくてもおかしくない理由を考えて、これだっと思って笑顔で言ったら、クレイグたちにものすごく恐縮されてしまった。

 でもこれで、少なくともクレイグは私に魔力がないことを重要視していないってことはわかったわ。


「気にしないでください。今はもう女神さまがランクBまで魔力を取り戻してくださったので、魔道具も普通に使えます」

「女神様?!」

「神託を受けたということですか?!」


 クレイグが腰を浮かせて身を乗り出し、壁際で話を聞いていた騎士たちまでも少し前に出てきてしまった。

 私が何か言うたびに目を輝かせているのはなんなの?


「溺れて死にかけたじゃないですか。ずっと意識不明で。その時に夢……だと思うんですけど、女神様が出てきたんです。神獣様の力を取り戻して、聖女様と協力して結界の強化をするのが私の役目なんで、こんなところでまだ死んでは駄目ですよっておっしゃって、魔力をランクBまで戻してくださったんです」


 要約するとこんな感じのことを言われたわよね。

 決して嘘は言っていない。


「なんと……」

「おお……」


 これさ、日本で同じ話をしたら病院に連れていかれるよね。

 それか、夢を見たんだねって生暖かいまなざしで言い聞かされるかも。

 でもこの世界では感動されるんだ。

 

「魔力を戻してもらったということは、本当はランクBだったということか?」

「クレイグ、クロヴィーラ侯爵家は代々家族全員がランクSだ」


 カルヴィンが胸を張って言い切った。


「きみも妖精が見えるだろう。話していることも理解できるはずだ。うちの家族も全員、もちろんレティシアも妖精と会話もできる」

「こいつ、会話できるの? 本当にレティの敵じゃないの?」


 カルヴィンが自分のことを話題にしたので、リムが私の目の前までやってきて座り、尻尾の先をゆらゆら揺らした。


「そうよ。敵じゃないと思うわよ」


 耳の後ろを撫でてあげたら、次はここを撫でろと頭を動かすのがかわいくて、思わずほっこりしてしまう。

 妖精を見えない人からは、私が何もない空間を撫でているように見えるんだろうな。


「敵じゃないですよ。むしろ今後、いろいろ協力できたらと思っているんです」


 クレイグが敬語で話しかけてきたのが気に入ったらしい。

 リムは尻尾をぴんと立ててテーブルの中央に戻り、彼らのほうを向いて座った。


「レティの味方の間は私も仲良くしてあげる。でも敵だと思ったら……覚悟してね」


 じゃきっと前足の爪を見せているけど、騎士と戦って勝てるのかな。

 リムやブーボが怪我をするのは絶対に嫌なんだけど。


「わかった。肝に銘じよう。それで魔力の件だが、実はカルヴィンの魔力が学園で生活するようになってから、ランクSになったと聞いて疑っていたことがある」

「奇遇だな。僕もだよ。努力したくらいでランクBの魔力がランクSになるのなら、幼少時に魔力を測定する意味がない。重要なのは、屋敷から離れた僕だけが魔力が高くなったということだ」


 魔力が弱くなった原因にこのふたりは目星がついているの?

 それ、女神に聞けなかったから知りたかったのよ。


「だが、屋敷中を何度も調査したが魔道具は見つけられなかった」

「敷地内の他の場所は調べたか?」

「敷地内? もしかして神獣様の力が弱まったせいで魔晶石の威力が上がったのか?」

「いや、巨大化した。人の背丈ほどの魔晶石が出来るようになった。それが外国の貴族や王族に大人気で高値で売買されている」


 あーーー、それで国王は儲けているのか。

 うはうはなのか。


 でもちょっと待って。話についていけなくなりそう。

 つまり魔力を抑え込む魔道具があるのね?

 今までの魔道具では効果の範囲が狭かったから、カルヴィンは屋敷の中を調査したけど見つからなかったって話よね。


「その魔晶石はどこで手に入るんだ?」

「そりゃあもちろん、王家かうちの領地だけでしか手に入らない」

「そんな高価なものを使ってまで、私たちの魔力を弱めたってこと?!」


 何をやっとんじゃ国王は!


「神獣様の力が弱まるにつれて魔晶石が大きくなるのも早くなっているから、徐々に魔道具の数を増やしたのではないか? だからカルヴィンの魔力はランクBまでしか抑えられなかったのに、レティシア嬢の魔力はないことになってしまった」


 誰か木刀を私にちょうだい。

 魔道具をぶっ壊しに行くから。


「敷地内の土を全部掘り起こしてでも、すぐに魔道具を探さなくては」

「協力させてくれ。魔道省に友人がいる。彼らは戦場で敵の魔道具を発見するための道具を持っているし、魔道の塔よりずっと正確に魔力量や魔法属性を調べる魔道具も持っている」

「あの」


 クレイグは知り合いが多そうだし、なんと言っても公爵家の御曹司。

 役に立ってもらいましょう。


「大神官様にも来ていただきたいです」


 だってこの状況で大神官は何をやっているのよ。

 女神からある程度は話を聞いているのよね?


「いや、さすがに大神官を呼びつけるのは厳しいんじゃないか?」


 カルヴィンに苦笑いされてしまった。

 大神官の権力のほうが公爵より上なのか。


「あら、大丈夫よ。大神官と神獣様の巫子に上下関係なんてあるもんですか」

「サラスティア、来てくれると思う?」

「来ないわけにはいかないでしょう? あちらはもう二年くらい神託を受けていないのに、神獣の巫子は女神のお姿も見ているのよ」


 あ、そうだ。

 女神に私の元に来るように言ってもらえばいいんじゃない。


『私をパシリにする気?』


 女神がそんな言葉を使っちゃいけません。


『まあいいわ。あのバカをどうにかしないといけないとは思っていたのよ』

「大神官は実はまだ十五歳の少年で」


 クレイグが顎を掌でこすりながら呟いた。


「幼少の頃から神殿に住み、神官たちに育てられたせいで、世間のことは何も知らず、神官の都合のいい話を鵜呑みにして動くお人形だと言われているんだ」


 めーがーみー。

 趣味に走りすぎだろうが!


「だったらなおさら、会いに来てもらいましょうか。ああ、ぜひ大神官様にお伝えください。女神様は神殿の在り方に非常に怒っていらっしゃると。それに、神託を下す人間はあなたじゃなくてもかまわない。あなたの代わりはいくらでもいるのよって」

「…………し、しかと伝えよう」


 いけない。

 これでラングリッジ公爵騎士団に、私の性格がばれてしまったわね。

 でもかまうものか。

 一緒に結界に行って戦わなくちゃいけないのに、気取ってなんていられないのよ。


「レティシア、大神官様を殴るのはさすがにまずいからな?」

「あらお兄様、嫌ですわ。私がそんなことするわけないじゃないですか」

「お兄様?! レティシアもう一度、もう一度呼んでみてくれ!」


 お客様の前で何を言っているのさ。

 まさかこんな喜ばれるとは思わなかったから、照れくさいからもう呼ばないわよ。




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