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代理復讐の始まり   3

きりのいいところまでにしたので、今回は短くなってしまいました。

今夜の投稿はこれで最後です。

 いやー、そこまでする気はなかったんだけど、自分の体じゃないからさ。

 感覚がうまくつかめなかったわ。


 侍女長が後方にぶっ倒れたので、そこに並んでいた侍女たちも圧し潰され、一緒に倒れ込んで阿鼻叫喚(あびきょうかん)坩堝(るつぼ)だ。

 一連の様子を見ていた騎士たちは茫然としている。


「おい、見たか。あの流れるような反撃」

「腰の入ったいいパンチだった」


 中には目を輝かせて感心している人もいるみたい。


「レティ、無茶をするな」

「フルン、私……血が……」


 駆け寄ってきたフルンに情けない声で話しながら、力が抜けたようにその場に座り込む……つもりだったのに、フルンとカルヴィンにしっかりと支えられてしまった。


「大丈夫なのか? 怪我はないのか?」


 カルヴィン、たぶん周りの人たちは、それは侍女長に聞けよと思っているよ。


「急に怖い顔で叩かれそうになって……侍女長には何度も叩かれたことがあって……怖くて痛い思いをした記憶を思い出して……私、何をしたの?」

「冷静に急所に拳をおみまい……」

「リム」


 余計なことを言いそうなリムをブーボが止めてくれた。

 

「そろそろ魔法が切れるの」

「魔法? 自分に魔法をかけてあんな無茶をしたのか?」

「カルヴィン、レティは休ませたほうがいい」

「そうですね。僕はまだここでやることがありますから、妹をお願いします」


 待った! まだ執事が残っている。

 あいつの金〇も蹴り上げてやらなくては気が済まない。


「失礼します。集めた証拠品をお持ちしました」


 タイミングよく扉が開き、騎士や侍従がいくつもワゴンを押して食堂に入ってきた。

 先頭の若い青年が押してきたワゴンには、高価なアクセサリーやドレス、金貨が山積みにされている。


「ダニー、それ全部、侍女たちの部屋から押収したのか?」


 ダニーってタッセル男爵夫人の息子か。

 

「はい。しかしこれはほんの一部だと思われます。侍女たちは年に二回は長期休暇を取って自宅に戻りますから、もう屋敷の外に運び出した物がたくさんあるでしょう」

「家族も知っていて黙っていた可能性があるな」

「ま、待ってください!」

「家族は、家族は知りません!」


 カルヴィンに縋り付こうとした侍女たちは騎士に捕らえられ、順番に縄で後ろ手に拘束されていく。

 応援の騎士も駆けつけてきた。


「カルヴィン様」

「騎士団長、ごくろうさま。急にこんなことになったのに、対応が早くて助かるよ」

「とんでもない。こういう時のための騎士団です」

「ありがとう」


 騎士団長も騎士たちも、カルヴィンが若いからといって軽んじたりする様子は全くない。

 むしろカルヴィンの指示に積極的に従っている。


 あとから駆け付けた応援の人員以外の騎士は、ワゴンの上の料理もさっきの映像も目にしているし、娘を屋根裏に閉じ込めて見殺しにしようとした夫妻にはいろいろと思うところもあるだろう。

 侯爵家の未来を考えた場合も、頼りになるのはもうカルヴィンだけだ。


 侯爵夫妻も私が来るのを待つ間、考える時間はたっぷりあったはず。

 神獣とその眷属を怒らせ、国王に見捨てられた自分たちの立場の弱さを理解しているころだろう。

 今までなら機嫌悪そうに怒鳴っただろう侯爵が、今はぐっと奥歯をかみしめて眉を寄せテーブルを凝視したまま動かない。


「あちらの書類が帳簿です。執事の部屋にはオグバーン伯爵からの指示の書かれた書類も見つかりました。お嬢様をオグバーン伯爵家の馬車に乗せ、定期的に王宮に向かっていたようです」

「……そうか」


 カルヴィンや騎士の視線を感じるし、話し声も聞こえてくる。

 わざとこの場にいる全員に聞こえるように話しているのかもしれない。


 ああ、侍女たちの泣き声がうるさい。

 泣けばかわいそうだと思って、助けてくれるとでも思っているの?

 私は言いたい。

 泣くくらいなら最初からやるなと!

 侍女長から金を受け取るか、いびられたいかを選ばされていたんだとしても、陰でレティシアに優しくする素振りくらい見せればよかったのに、嬉々としていじめていたよね。

 かける情けなんて、どこを探しても見つからないよ。


「レティ、意識を取り戻したばかりなのに無理をしすぎだ」

「でも……まだ……」


 侍女たちはどういう処罰を受けるんだろう。

 執事や侍女長は事情聴取を受けるのかな。

 ちゃんとこの目で確認したいけど、本当に体がきつくなってきた。

 疲労が半端ない。

 でもここで情けない姿を見せて堪るものか。

 悪役令嬢なんだから、凛として立ち、冷酷な顔で侍女たちを見下ろしてやらなくちゃ。


「無理をしないで」


 うう……カルヴィンが指示をだすために離れた分、サラが来てくれちゃったから、フルンとサラのふたり掛りで支えてもらっているなんて情けない。


「カルヴィン……侍女たちに私と同じ目に合わせて」

 

 声も情けない。

 呼吸がきつくなってきたから、掠れて聞き取りにくい。


「レティシア? 話して大丈夫なのか? ダニー、医者はまだなのか」

「もうすぐこちらに到着するはずです。お嬢様が意識を取り戻したことをラングリッジ公爵家にもお知らせしたところ、腕のいいお抱えの医師を紹介してくださいました」


 ええ?! この家にはかかりつけの医師がいないの?

 それともこの期に及んでまで、夫妻は医師をカルヴィンに教えていなかったの?

 しかし、ラングリッジ公爵家は、なんでそんなに親身になってくれるんだろう。


「カルヴィン、聞いて」


 カルヴィンの腕を掴んで力を込める。

 そうしないと足の力が抜けて、崩れ落ちてしまいそう。


「水のようなスープとカビの生えたパンだけ与えて地下牢に閉じ込めて」

「そんな!」

「いやーーー!」


 侍女たちが一斉に騒ぎ出した。

 泣け! 喚け! レティシアは二回も死を体験させられたのよ。


「私はサラやフルンのおかげで生き残れたけど……助けのない彼女たちは……どのくらい生きられるのかしら……ゴホッ、ゲホッ」


 駄目だ、悪役令嬢っぽくない。

 いっそ黒髪を噛みながら、呪ってやるって白目を剥いたほうが似合う気がする。

 

「お願いします。助けてください。侍女長に脅されていたんです」


 夫人の侍女の神経のずぶとさにはびっくりだ。

 よくもまあ、私に助けを求められるわね。

 

「あら、あなたたち、外に出たら殺されるわよ」


 サラが言ったので、侍女だけでなく私も驚いてしまった。


「ここであったことを広められたら、オグバーンも国王も困るでしょ? 口止めのために殺されるわよ。レティの罰は優しいくらいよ。地下牢にいる間は生きていられるんじゃない?」


 え? やさしいの?

 いやいやいや、餓死の恐怖を味わうのよ?


「私たちが何もしなくても、彼女たちの家族も誰かが始末するんじゃない? 特に執事と侍女長はオグバーンが放置するわけないのよ。屋敷内にまだ手の者がいるんでしょ? 明日の朝には冷たくなっているかもしれないわね」


 銀色の髪をさらりとかきあげながら、にっこり微笑んだサラのほうが私より何倍も怖い。

 悪役令嬢の冷酷さなんて全く目立たなくなってしまったわ。

 

「もういいだろう。サラ、きみはここに残ってカルヴィンの手助けをしてやってくれ。俺よりきみのほうが人間に関しては詳しい」


 復讐を一番強く望んでいるのもサラだしね。

 彼女に任せるのが一番か。


 もう意識が朦朧として来ていたので、その後のことはよくわからない。

 でもまあ、レティシア復活第一日目としては頑張ったほうだと思うのよ。

 精神的ショックで倒れるのって、貴族のお嬢様らしいでしょ?

 大丈夫、私はうまくやれたはず……だと思いたい。

 



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