御伽噺のケーキ店 【月夜譚No.174】
ピスタチオの香りが鼻に抜ける。舌の上に乗ったクリームの甘さがとろけて、少女は思わず目を瞑った。
近所に新しくオープンしたケーキ店。白い壁の外観はまるで御伽噺から飛び出てきたような佇まいで、目にした瞬間から少女の心を鷲掴みにした。オープン初日に絶対行こうと決めて、到頭今日がその日だった。
内装もメルヘンチックで素敵だし、店員も皆顔立ちが整っていて、夢みたいな世界だ。
イートインの奥の席に案内され、メニューを開いて悩んだ。入ってくる時にショーケースを見たが、どれも綺麗で美味しそうだった。欲を言えば全て食べてみたいが、そうもいかない。
悩みに悩んで、少女が決めたのはピスタチオのケーキだった。
鶯色のクリームは滑らかで、フォークを入れると中から甘酸っぱい果実が出てくる。一口食べる毎に新しい発見があって、幾ら食べても飽きない。少しずつ少なくなっていってしまうのが淋しいとさえ思った。
良い店が近所にできて良かった。少女は幸せな気持ちで、最後の一欠片を頬張った。