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邪魔者は立ち去る

 



 ――2日後。

 毎年、1年生は入学してすぐ大教会の神官様から、この国が祀る崇拝する女神様や隣国の女神様の話を特別授業として聞かされる。今年担当予定だった神官様が急な体調不良で出られなくなった為に、特別にオーリー様が講師として招かれたようだ。隣国の隠居貴族で、且つ教会事情にも詳しいから選ばれただけ。


 と、放課後の食堂でのんびりと紅茶を飲むオーリー様に教えられた。



「学院の紅茶も美味しいねえ。ところでアウテリートちゃんは?」

「今日は王太子殿下に泣き付かれて生徒会のお仕事の手伝いを」

「大変だねあの子も」



 よく殿下はアウテリート様を頼られる。特別な感情を抱いているとかでも、訳あってとかでもない。頼りやすいんだ、とは本人の言葉。はあ、と呆れたような溜め息を吐かれながらも応じたアウテリート様は心なしか表情は楽しげだった。生徒会長は主に王族が務めており、来年はリグレット王女殿下が務める予定だが彼女の振る舞いに度々苦言を呈し、その度泣かれてしまうと王太子殿下は零された。因みにリアン様も殿下の手伝いとして生徒会に属している。

 新入生はリグレット王女殿下と将来有能な男子生徒2人が入った。女子生徒がもう1人欲しい王太子殿下は、誰か良い人がいれば教えて欲しいと苦笑された。

 誰か良い人……私はあの時エルミナを思い浮かべた。生徒会にはリアン様がいるし、最終学年であるリアン様にエルミナが問題なく会えるのは生徒会しかない。

 オーリー様はリアン様とエルミナの件について、手伝ってくれると言われたが知っている限り何も起きていない。


 これは元々自分でどうにかしないとならない問題だから、あまり他人を巻き込むのはやっぱり良くないよね……。

 明日にでも王太子殿下にエルミナを役員として勧めてみようと密かに決めた。



「昨日の話だけど、久しぶりに王太子殿下が僕の所に来てね」

「殿下がですか?」

「偶に来るんだ。なんでも話を聞いてもらえる相手が欲しいらしくて」



 オーリー様に相談された話は、今日私やアウテリート様が殿下に頼まれた内容と同じだった。そう伝えるとオーリー様は苦笑された。



「苦労してるね彼も。まあ、分からないでもないよ。未だ婚約者のない王子や高位貴族の令息は、令嬢達にとっては喉から手が出る程魅力的だから」

「そうですね……」

「だからね、フィオーレちゃん。彼に言ってあげなよ。君の妹君はどうかと」

「!」

「フィオーレちゃんの話を聞いてる限り、エルミナちゃんは異性に媚びもせず、成績も優秀で伯爵令嬢としての教養もかなりのものらしいし。それに君の視る『予知夢』通りなら、件の公爵令息といれば何か進展があるかもしれないよ?」



 まさか、オーリー様からエルミナを勧められるとは。でも言う通りだ。女性生徒を紹介しても、その人が殿下やリアン様といった異性に媚びるだけで真面目に仕事をしない方では困る。エルミナは媚びもしないし、成績としても生徒会に加入しても問題ない。

 屋敷に戻ったら、早速エルミナに……あ……でも、こういうのはお父様に先に相談してみましょう。私が言うより、お父様から言ってもらえたらエルミナも納得してくれるでしょうし。



「ありがとうございます、オーリー様」

「まあ、良いようになれば良いけど……。さて、そろそろお茶もなくなりそうだね」

「お代わりを頂いて来ましょうか?」

「ああ、僕が貰ってくるよ。フィオーレちゃんは座ってて」

「ですが」

「いいのいいの。年寄りだって体を動かさなきゃ」



 ティーポットを持ってカウンターへ行ってしまわれた。

 放課後の食堂は昼と違って人がとても少ない。昼の混み具合が嘘のように。

 なんとなく、周囲を見ていると……



「あ……」



 リアン様がやって来た。窓口は2つあり、空いている片方に行くとメニューを注文していらっしゃる。

 何時見ても綺麗な人……眠そうなのは、ちゃんと眠れてないから?


 私がリアン様を初めて見たのは、幼少期参加したあるパーティー。親しい人しか呼ばれないそのパーティーで私はリアン様と出会った。


 彼は覚えていないだろう。

 だって、彼が好きになったのはエルミナだもの。



「リアン……様……」



 自分の周りに誰もいないのをいいことに、小さな声でリアン様を呼ぶ。

 届かないで。

 一瞬だけ、あなたを想わせて。

 視線をリアン様から逸らしながらも、やっぱり気になって再度リアン様を見た。



「!」



 吃驚した。リアン様と目が合った。咄嗟に、周りを見ていると思わせるよう視線を流すように逸らした。心臓がうるさい、顔が火照っていないか心配。

 気怠げなのに、静かで冷たい青水晶が私を見ていたなんて……私が知る由もなかった。



 向かいに誰かが座った気配があり、紅茶のお代わりを貰ったオーリー様が戻ったのだと顔を上げたら――息が止まりそうになった。眠そうだった青水晶の瞳が更に近い距離にあり、私を見ていた。硬直していれば、リアン様は注文したらしきマグカップを口元まで持っていき。



「アウテリート嬢に挨拶をしに行くと言ってたよ」

「え……」



 一瞬、何を言われたか思考が追い付かなくて処理されなかったが、自分を冷静にするとすぐに理解した。学院に来てアウテリート様に会っていなかったオーリー様が、丁度よくリアン様が来たから私の相手になってもらうよう頼んで生徒会に行ってしまわれた。あの話の途中でリアン様を置いて行かないで……!



「そ、そうですか……」



 空になったティーカップを口元まで持っていき、飲んでいるフリをする。そうでないとリアン様との空間は耐えられない。何を話そうか、そもそも話題すらない。思い切ってエルミナへの気持ちを聞く仲でもない。

 1年生からクラスが同じといえど、私は極力リアン様と話さないよう努めた。挨拶くらいに止めていた。また、視界にも入らないようにした。


 これといった接点がないのだ。



「……怖い?」

「?」

「フィオーレ嬢は、俺が怖い?」

「ど、どうしてですか」



 意味が分からず困惑するとリアン様は些か美貌を歪ませた。



「食堂で一緒になった時もそうだった。俺と目を合わせようとしない」



 あなたとまともに目が合わせられないのです。いつか、他の女性を愛しげに見つめると分かっている綺麗な青い瞳を私は見たくない。

 心にある汚い感情を知られたくない。当たり障りのない回答はないかと模索し、浮かんだ台詞を口にした。



「気のせいでは……ロードクロサイト様と……関わりはありませんし……」

「殿下に対してはああなのに?」

「あれは……アウテリート様がいらっしゃるからで……」



 な、なんで責められているの?

 少し強い口調で名前を呼ばれ、恐る恐る視線を上げた先には、不機嫌そうに顔を顰められているリアン様がいる。

 私じゃ駄目ね……ここはエルミナが……



「フィ――」

「あ、お姉様!」



 救いの神とはこのこと。私にしたら、絶好のタイミングでエルミナが来た。私とリアン様を見ると嬉しそうに顔を緩ませ、周りに小さな花を咲かせながら此方に来るとリアン様に一礼した後、私に振り向いた。



「お姉様がいて良かった! お勧めのスイーツ等があれば教えてください!」

「ええ、いいわよ」



 リアン様にエルミナの同席を求めると了承を頂き、隣にエルミナを座らせた。どんなスイーツが食べたいかを聞き、それならと私がカウンターに行き、飲み物と一緒にスイーツをエルミナの前に置いた。


 ……私がいると邪魔よね。



「エルミナ。少しだけ待ってて。教室に忘れ物があるから、取って来るね」

「!」

「分かりましたわ、お姉様!」



 疑問を抱かず、私を待ってくれるエルミナに罪悪感を抱くが向かいにはリアン様がいるのだ。すぐに私なんて忘れる。何故かリアン様が驚いた様子を見せたが、きっと好きなエルミナと2人っきりにさせられ動揺してしまったのだ。


 ……心が痛むのは私だけ。お似合いな2人の邪魔をする気は毛頭ない。



「待て、フィオーレ嬢」

「ロードクロサイト様。少しの間だけ、エルミナをよろしくお願いします」



 頭を下げて小走りで食堂を出た。どうして待てと言ったのかしら。

 教室へは食堂を出て左を進む。右側に人影が見えた気がしたが誰もいない。気のせいか。


 忘れ物はないが教室には行っておこう。






読んでいただきありがとうございます!



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