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意外な趣味

 


 放課後になり、前の席に座るアウテリート様と一緒に校舎を出た。今日は大教会に行く約束をしていたから、徒歩でこれから向かう。好きな相手がリアン様だと知られるも、リアン様が好きなのはエルミナで、エルミナもリアン様が好きだと言うと後日2人を偶然を装って引き合わせてみましょうと提案を受けた。王太子殿下にも協力を仰ぐらしい。曰く、悪戯好きだから。



「どう事情を話されるのですか?」

「そうねえ……とりあえず、実行は2週間後。殿下には、とある筋からリアン様とエルミナ様がそれぞれ想い合っていると伝えるわ。大丈夫、フィオーレの名前は絶対に出さないし、バレないようにするから」

「はい。ありがとうございます」



 学院から大教会へはそう遠くない。会話をしながら歩いていると圧巻の一言に尽きる大きな建物が見えてきた。王都で毎日人が多く集まる場所の1つ。今日も人で賑わっていた。自国だけじゃなく、他国からも観光客が後を絶たないので毎日小さなお祭り状態だ。

 オーリー様は大体、建物の周辺に設置された花壇で花を眺められている。

 私は不思議だったことをアウテリート様に問うてみた。



「ずっと不思議なのですが、周りの方はオーリー様が気にならないのでしょうか?」

「どうして?」

「オーリー様は隠居とはいえ貴族なので高貴な雰囲気は拭えませんが、他の方とはなんと言いましょうか……発する空気が違うと言いますか……」

「…………おじ様の正体を知ったら、大体の人はひっくり返るでしょうね…………」



 遠い眼を急に浮かべと思いきや、小さな声で早歩きをしながら何事かを呟いたアウテリート様。声は拾えなかった。何を言われたのか気になっても、何でもないと首を振られるだけ。



「フィオーレ。最初に言ったでしょう? おじ様を深く知ろうとしちゃ駄目よ? いいわね」

「はい……」



 強い口調で止めれれば、従うしかない。アウテリート様の声は命令というより、お願いに近い。



「ただ、オーリー様を誰も気にしないのがどうしても引っ掛かります」

「フィオーレはすぐに見つけるのでしょう?」

「はい。遠くにいてもすぐに見つけられます。オーリー様、この国では珍しい髪や瞳ですから」



 紫がかった銀糸に瑠璃色の瞳。同じ色を持った人とこの国で会ったことがない。但し、これを言うと私も当て嵌まる。私の紫紺色の瞳は、隣国の公爵家の瞳と同じ。隣国の王妃様もその家出身者で瞳の色が同じ。更に追加で第2王子殿下も同じと言う。かなり遠くても血の繋がりを感じてしまい、こっそりと親近感が湧いた。



「まあ、何となく分かるわ。おじ様の若作りのコツを聞いておかないと」

「ふふ。私も知りたいです!」


「酷いなあ2人とも。僕は若作りはしてないよ」



 音も気配もなく、一瞬にして背後からかかった声に私達の体は大袈裟に跳ねた。陸に上がった新鮮な魚も吃驚の跳ね具合だろう。何度か深呼吸の後――後ろを向くと眉尻を下げたオーリー様が立っていた。



「面白そうな話をしてるから聞いてたけど。君達に2人に若作りなんて必要ないでしょう」

「まあおじ様ってば! レディの背後を取るなんて無礼だわ!」

「そう怒らないで。若い頃からの癖なんだ。昔は兄上と一緒にヤンチャをしまくっていたから」

「オーリー様が? 信じられません」



 誰に対しても物腰柔らかに接し、他人の悩みを最後まで聞き届けると的確な助言を与え、更にいるだけで周囲を穏やかにさせる。そんなオーリー様がヤンチャな人だった……想像すら不可能である。



「人は見かけによらないものだよ、フィオーレちゃん。今日は2人一緒に来ると思ってね。厨房を借りてお菓子を焼いてみたんだ」

「おじ様がお菓子を!?」

「そうだよ。子供の頃から料理は得意なんだ。手先の器用さを訓練するつもりでやっていたら、気付くとハマっちゃって……特にお菓子作りは、繊細な技術を必要とするからとても助かったよ」

「わあ! オーリー様の作ったお菓子楽しみです!」



 何でも自分でやれる人に尊敬の念を抱く。私もしてみたい。昨日の今日なので隣国の神官になる話はオーリー様が切り出すまで黙っていよう。住む家の心配もあるがそれもまた追々説明があるだろう。

 こっちにおいで、と先頭を行くオーリー様の後を2人で着いて行く。


 花壇から離れた芝生にテーブルが設置され、上にはお茶の準備がされていた。3人分。私達が来ると見越してのものなのは見て取れる。

 さあ、とオーリー様に勧められるがままに私達は椅子に座りました。

 テーブルには数種類の焼き菓子とティーカップとティーポットがある。手慣れた様子で紅茶を注ぐオーリー様からティーカップを受け取った。芳醇な香りに顔を綻ばせているとアウテリート様が「おじ様」と発した。



「フィオーレ、おじ様にも相談してみましょう」

「え?」



 オーリー様にも? でも、リアン様とエルミナのくっ付け作戦を学院外の方に協力してもらうって……。

 オーリー様は何の話とばかりに首を傾げられた。ティーカップの縁に口を付けながら。

 私は説明をした。昨日の件もあり、表情を崩すこともなく最後まで聞いてもらうと。



「うーん……気になることがあるんだ。フィオーレちゃん、君の視る『予知夢』はどうも限定的過ぎないかな?」



 エーデルシュタイン家にのみ現れる『予知夢』の能力者。発現すれば、即王家に報告するのが義務となるのは、国を左右する重大な予知を視ることも殆どだから。歴代の能力者は、『予知夢』の力で何度も国を救っている。お祖母様が私の『予知夢』を秘密にしてくれているのもこれが大きい。

 私の視る『予知夢』は、私の周囲にいる人に起きる不幸が主。



「最初は伯爵家の執事さんで、その次も伯爵家に関連する人ばかりなのだろう?」

「はい……でも、起きたことは全て事実です」

「事実は事実だろうね。……うーん……エーデルシュタインの予知能力とフワーリン家の()()が偶然絡まってしまったのなら……」

「フワーリン家って……」



 お母様のお祖母様の生家である隣国の公爵家の名前。何故今出るのか。オーリー様に訊ねると紅茶を飲みながら、うーん、うーん、と唸るだけ。



「お行儀が悪いですわおじ様」

「そう言ってもね……そうだ。よし、僕もフィオーレちゃんの計画面白そうだから協力しよう」

「本当ですか?」

「うん。実は、明後日学院に特別講師として呼ばれているんだ。1日中校舎内にいるから、お昼時、僕をその2人会わせて」



 予想外な味方を得られ、幸せな未来への大きな第1歩となる。胸を襲う痛みは無視だ無視。誰も不幸にならず、私だけが失恋という不幸に見舞われるならそれでいい。隣国に行く私がリアン様とエルミナの姿を見るのは今年だけなのだ。それまでの辛抱。

 隣国に行けば、失恋を忘れて新しい恋を探せるかな……?



「ちょっとだけ退屈してたから、面白そうな話題には乗るべきだよねえ」

「悪趣味ですわ」

「ローゼちゃんやシエルちゃんみたいなこと言う」

「誰ですか?」


 初めて出た人の名前に興味を示すと「僕の知ってる可愛い子達」と話され、次に別の話題へと切り替わった。気になるが隣国に行ったら会えるかな。名前的に女性っぽい。あ、でもシエルちゃんって方は男性の可能性もあるのか。


 オーリー様の知り合いで隣国の方ならアウテリート様もご存知の可能性もある。チラリと見ると遠い目をしていた。何故だろう。

 気を取り直してスイーツを頂く。謎のへの字型のクッキーを取った。食べてみると普通のクッキーよりも固く、バターの香りが強い。食感が楽しめるクッキーは大好きだ。食した後に紅茶を飲むとまた食べたくなった。

 手先の器用さを鍛えるのにスイーツ作りは打って付けだと話され、確かに頷いた。1つ1つの材料の配分を間違えると味が大きく左右されるのが料理。スイーツもまた然り。私は料理をしたことはないけれど、隣国に行けば簡単な料理くらいは作れるようになりたい。


 楽しいお茶の時間もあっという間に過ぎ、黄昏色が空を染め出した。空を仰いだオーリー様は目を丸くした。



「おや。もうこんな時間か。馬車を用意してもらうから、今日はお帰り」

「気付かなかったわ。早く帰らないとうるさく言われる」

「私も。エルミナがまた心配してるかも……」



 昨日の今日だから油断ならない。

 ただ、エルミナが怒っている方が高い。

 オーリー様が手配した馬車にそれぞれ乗り込み、エーデルシュタイン伯爵邸へ馬車は走った。



「フィオーレ様。今日もエルミナ様が待っているようですが」



 御者の方は昨日と同じ人。エルミナはやっぱり、今日も門の前で待っていた。近くで停車してもらい、扉を開けられるとエルミナがすぐそこまで来ていた。



「お姉様!」



 目の前に立ったエルミナは可愛らしい頬を膨らませて腰に両手を当てた。



「もう! 今日は昨日より遅いではありませんか!」

「ごめんなさい。オーリー様とアウテリート様とのお話が楽しくて、つい時間を忘れてしまったの」


「心配したではありませんか! お父様もお母様も心配してましたわ! 早く屋敷に入りましょう」

「ええ」



 御者の方に昨日と同様お礼を言い、馬車が見えなくなるまで見届けると邸内に入った。心配と言うがもう成人も迎え、3年生にもなった。

 大幅な時間遅れではないのだから、大袈裟な心配も過ぎたものだと思うけれど。

 先に部屋に戻って着替えを済ませ、部屋の前で待っていたエルミナと一緒に食堂へ足を運んだ。



「ただいま戻りました。お父様、お義母様」

「随分と遅かったな。あまり遅くなるとエルミナが心配するから、これからは気を付けなさい」

「申し訳ありません……」



 直後、お義母様が肘でお父様の脇腹を突いた。痛そうに脇腹を摩るお父様が「す、すまん、言い過ぎた」と謝られた。正論なので謝る要素はないのに……。

 エルミナが心配するから……か。そうね、私の帰りが遅くなって心配するのはエルミナだけだもの。まあ、お父様やお義母様は私が成人済みだから心配しないのだろう。

 自分の席に座り、夕食を始めた。


 食事中の会話は私を除いた3人が中心。これは普段と変わらない。私は黙々と食べるだけ。会話の中で偶に驚くことはあるものの、聞いていても私には関係ないから関心も然程抱かない。

 視線は変わらずあるものの、気にせず食べ進めていれば、不意にお義母様がこんなことを言い出した。



「エルミナも学生になったのなら、そろそろ婚約者を見つけないとね」

「わたしにはまだ早いですわ。それより、わたしよりお姉様が先では」

「フィオーレの婚約者の件も勿論。2人とも、誰か気になる殿方はいないの?」



 無意識にナイフを持つ手に力が籠った。『予知夢』の中の私は、リアン様をお慕いしていると高々に宣言した。驚愕した2人の姿が目に焼き付いて離れない。そうだろう、エルミナならまだしも、一応跡取りして育ている私がロードクロサイト公爵家の跡取りであるリアン様をなどと、空気を読めないのにも程がある。

 現実の私は愚かな真似はしない。

 また、エルミナとリアン様をくっ付ける作戦も手を抜かない。

 エルミナは照れながらもいませんと答え、私にも話題が振られたので真意を悟られないよう作り笑いを浮かべた。



「私もいませんわ。お父様やお義母様が認める方なら、誰でも」

「そ、そう」

「でも、エルミナにお似合いな方はいますわ」

「え?」



 一驚するエルミナ。大丈夫、あなたの幸福は姉である私が必ず守ってみせる。……最も邪魔をしていたのが私でも。



「ほら、新入生の歓迎会で王太子殿下とロードクロサイト様とお話ししたでしょう? アウテリート様が、エルミナとロードクロサイト様が並ぶ姿がお似合いだと仰っていたの」

「わ……わたしがですか……?」



 嘘です。ごめんなさい、アウテリート様。今度こっそりとお詫びをさせて下さい。

 幼少期からの片想いを誰にも内緒にしていたエルミナは知らない私が予想外にもリアン様を推したから、戸惑いの相貌を見せる。

 お父様とお義母様は感心しているだろうと一瞥した。……うん? エルミナよりも戸惑いが強い。2人顔を見合わせている。



「フィ、フィオーレ」



 お父様が妙に焦りの混じった声色で呼ぶ。



「フィオーレは、リアン様をどう思う?」



 どうして私に?

『予知夢』と異なる展開に今度は私が戸惑う番となるも、悟られないよう平静を装い、ただのクラスメートですと答えた。

 そうか……と考え込むお父様の手が食事を進めることはなかった。






読んでいただきありがとうございます!


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