リグレットの悪足掻き③
拘束する騎士の手から逃れようと藻掻くリグレットであるが、非力で華奢な彼女では鍛えられた腕から逃れる術はなく、暴れようがスムーズに鉄格子付の馬車に押し込められた。扉は閉められ、鍵を掛ける音が鳴った。
「わたしを誰だと思っているの!? この国の王女なのよ!?」
鉄格子を掴み、外にいる騎士達に喚き、国王の愛娘である自分の立場を力説するが誰も耳を傾けない。彼等の後方から異母兄たるアウムルがやって来た。
「お兄様助けて! わたし、何も悪いことしてないのに!」
青の瞳をサッと向けられるが一瞬で。
「リグレットを早急に離宮へ連れて行け。それと母上にこのことを至急報せてくれ」と騎士に指示を飛ばして以降、1度もリグレットを見なかった。馬車が走り出し、お兄様、お兄様とリグレットが叫ぼうとアウムルは見向きもしなかった。
――王妃セラフィーナは国王の執務室で2人の人物と会っていた。現在、国王を愛人やリグレット共々離宮に隔離しており、王妃や王太子、手が回らなければ宰相の力を借りて執務を行っている。昔から国王の仕事を代わりに熟すのは慣れており、重要性の高い書類から処理を進めていった。急を要する分のみ済ませ、残りは後で進めても問題ないものとし、一旦休憩に入ったところで来客があったのだ。
1人は今回国王達を退ける強制力を発動させたオルトリウス。もう1人については、姿を見た瞬間セラフィーナは顔を両手で覆ってしまった。オルトリウスの言い訳としては暇な子を寄越してほしいとお願いしたら、隣にいる人が来てしまったらしく、彼としても予想外な人で困ったと言いたげな表情で微笑を浮かべている。
「あ~……王妃殿下、君が言いたいことや君の気持ちは十分に分かってる。僕も同じ気持ちだ。前向きに考えたらある意味適任者が来たと思えるよ」
「お聞きしますが我が国への訪れをシリウス陛下はご存知なのでしょうか?」
「あー…………言った? シリウスちゃんに」
隣でうつらうつらとしている人は訊ねられた問いにゆるゆると首を振った。途端、オルトリウスは項垂れ「言ってないんだ」と零した。
「公式ではないとは言え、我が国に滞在している情報は隣国にも伝えておいた方が良いでしょう。すぐに報せを届けます」
「済まないねセラフィーナちゃん……ところで、自分から行くって行ったの?」
うつらうつらとしながらも彼はオルトリウスの問いに答えようと重い口を開く。
「最初に……シエルがあの子を連れて旅行でもしようかと言い出したらしくて」
「ああ、うん、容易に想像がつくよ」
「それは周りが止めた。ローゼが来た時にお前が暇人を欲していると言って、だが暇人がいないからどうしようかという話を私にした」
「あーうん、隣国に戻ったらローゼちゃんを叱っておくよ」
「私が行くことにした……」
「そこで貴方が行くとはローゼちゃんもシエルちゃんも予想外だったろうね……」
途中までは口調がはっきりしていたのにも関わらず、最後またうつらうつらとして顔が揺れ出した。眠気を堪えているのは目で見て分かるものの、傍から見れば今にも眠りに落ちかけている。
顔から手を離したセラフィーナは極度の眠気に負けそうになっている人を見上げ、客室の準備は済ませていると告げるも首を振られた。
「いや……まだ耐えられる程度だ……」
「無理しないようにね。違う国で倒れられたら、皆吃驚しちゃうから」
誰にも告げずに来ている時点で既に大騒ぎとなっているとセラフィーナは敢えて言わなかった。場の空気が落ち着きを取り戻してきた直後、1人の騎士が慌ただしく入室した。王妃の他にも人がいるのを気にするが「構わないわ、報告してちょうだい」とセラフィーナが促すと離宮に隔離していたリグレットが脱走したと発した。
1度は起きるだろうという予想は早く発生し、速やかに捕獲した後再び離宮に押し込められた。逃げ出したリグレットの行き先は容易に分かる。セラフィーナの予想通り、この時間リアンが必ずいる学院であった。
「王太子殿下がもうじき戻られます」
「分かったわ。詳細はアウムルから聞きます。報告ありがとう」
「はっ!」
一礼をした後騎士は退室。椅子に深く凭れたセラフィーナはこれで2度とリグレットが騒ぎを起こすことはなくなると多少の安堵を抱いたのだった。




