声を出して言えたら
好きな人とのキスはどうしてこんなにも幸せなんだろう……。ずっとリアン様とこうしていたい気持ちになった。抱かれている時だって何度もキスをした。好きじゃなかったらこんなキスはしない。
王太子殿下が来るまでずっとキスをしていた……。
顔は離れても体までは離れなかった。王太子殿下が来ても抱き締められたまま。ちょっと恥ずかしいけど王太子殿下が何も触れないでいてくれたのが幸いだった。
リグレット殿下を見つけると陛下の騎士が来る前にと、王太子殿下と護衛騎士達は素早く馬車に押し込み王宮へ強制送還したと。この後王太子殿下は急ぎ王宮へ戻り、陛下にリグレット殿下のやらかしを伝えると述べた。
「言ったところでリグレットに甘い父の事だ、軽く注意をして終わらせるだろうな」
「ムル、お前がどうにかしろ」
「おれでどうにかなってるなら、とっくの昔にどうにかしてる。どうにもならないから困っているんだ。母上にも協力してもらおう。王国で最も財力のあるアルカンタル伯爵の孫に手を出せばどうなるか……陛下だって、アルカンタル伯爵に王国を去られては困るからな」
お祖父様……毎年私やエルミナの誕生日や旅行に行ったら変わったお土産を持参して屋敷に来ては、旅行先の話やお祖父様やお祖母様の若い頃の話を面白可笑しく聞かせてくれる。私がこんな事になっていると知ったらきっと悲しむ。私をとても大事にしてくれるお祖父様にあまり心配を掛けたくない気持ちが勝るも、心を読まれたのか王太子殿下に首を振られた。
「フィオーレ嬢。君が伯爵に心配を掛けたくない気持ちは分かる。だが事は王女の悪戯で済ませるには大きい。伯爵に出張ってもらわないと陛下も事の重要性を理解しない。アルカンタル伯爵がいなくなると困るのは王国側だしね」
何も言わない方が却って心配を大きくして、余計に誰かを不安にさせる。自分の知らないところで誰かが傷付けば、その人はより傷付く事となる。
お祖父様に心配を掛けたくない気持ちが、逆にお祖父様を心配させてしまう。心配させたくないのに私の行動は矛盾している……。
お祖父様からは王太子殿下から連絡が入る様手配するとなった。王女が関わっている、それも主犯ともなると王族が対応をするのが筋。今の王族で誠意を示せるのは王太子殿下か王妃殿下のみ。その中に真っ先に名がないといけない陛下がいないのは、この国の現状を表していた。
「おれはもう行くよ。フィオーレ嬢はこのまま医務室にいる?」
「はい……もう少しだけ此処にいます」
「そうか……何か欲しい物があれば、そこにいるリアンを使えばいい」
そう言うと王太子殿下は医務室を出て行き、残ったのは私とリアン様だけとなった。
「あ」
抱き締められたままベッドに倒され、リアン様の腕の中でじっとする。リアン様が付けてる香水だ……ずっとこのまま抱き締められていたら、この香りに包まれていられる。
担当医が戻るまでの時間だとしても、私にとっては幸福なひと時。
――リアン様……貴方が好き……
重たくなった瞼を上げていられなくなった私はリアン様に抱き締められたまま眠った。
眠る直前、私を抱き締める腕の力が強くなった気がした……。




