8.ヒモになって女の家に転がり込んでいるタイプ
「ルーカス様、今日のお昼はどちらで?」
「昼? おーいアカリちゃん、お昼どこで食べる?」
「え? ……えっと、どこかで、お弁当を」
「じゃあ屋上行こうぜ。俺も何か買ってくわ」
隣の席の女の子にじゃあねと手を振って、俺は教室を後にする。
転校初日以降、俺はアカリちゃんとジャンに金魚の糞のごとく付きまとっていた。
2人は戸惑ってはいるようだが、すでに押せ押せの勢いにだいぶ絆されつつある。ジャンは呆れているのもあるだろうが。
大丈夫かな、ほんとに。数珠とか買わされないようにして欲しい。
アカリちゃんとジャンはまったくクラスに溶け込めていないが、先生たちが割と公平に対応してくれるおかげで、表立って嫌な目に遭うようなことはなかった。
先生たちが公平性に対する配慮が出来る人格者なのか、はたまたジャンの素性を知っているせいなのか。まぁたぶん後者だと思うけど。
ちなみに新生ルーカスには皆だいぶ慣れてくれたようだ。
特に隣の女の子にはよく話しかけられるので、友達のいなかっただろうデフォルトルーカス氏には感謝してもらいたい。
にしても、ずいぶん長い夢だ。一回寝たら夢が終わるのかと思っていたのに、全然終わる気配がない。
夢の中の体感時間と現実の睡眠時間が食い違うというのはたまにあるけど、どういう仕組みなんだろうな。
食堂でサンドイッチをバスケットに詰めてもらって、屋上へと続く階段を登る。
わざわざ屋上で昼食を食べようとする生徒は他にはいないようで、いつも独占状態だ。
先に待っていたアカリちゃんとジャンの向かいに腰を降ろす。
ふと、アカリちゃんがきょろきょろと周囲を見渡しているのが気になった。
「どしたの? 虫でもいた?」
「あ、ううん。この前、屋上で男の子に声をかけられて。今日もいるのかなって思って」
「男の子?」
「うん。何だかふわふわした、不思議な人なんだけど」
「ふわふわした、不思議な人」というキーワードでピンときた。サポートキャラクターのシエルだ。
ふわふわ脱力系の不思議くんで、サブイベントでは大幅に魔力のパラメータが上がるものの、その代償に学力のパラメータが下がる。
が、このゲームは学力を捨てて魔力に全振りしたほうが試験の成績が上がるという、魔力至上主義のバグ仕様なので、いわゆる「ぶっこわれ」性能のサポートカードだ。
流し読みしたWikiに「完凸までに十○万溶かした」みたいなコメントが書いてあったが、見なかったことにする。
姉ちゃんが当たり前のように完凸・スキルマしてたのも、見なかったことにする。
そいつがどうもアカリちゃんにちょっかいをかけているらしい。
マジで? こんなにべったりくっついて回っているのに――そしてアカリちゃんのセコ○ことジャンもいるのに――その目をかいくぐって接触してくる奴がいるの?
もう俺たちがついていってないのは女子トイレか女子寮くらいしかないんじゃないかと思うくらいなのに? もしかしてそこで接触してるの?
だとしたら普通に声をかけてくるやつより千倍やばいやつだから、アカリちゃんにはぜひ今すぐ走って逃げて欲しい。
シエルのサブイベントでは、アカリちゃんを昼寝に誘ったりしていた。一緒にサボろうとアカリちゃんを唆すのだ。
他にも面倒な用事をアカリちゃんに押し付けたり、パシリにしたりとやりたい放題である。それでも何故か許されている。
現実にいたらヒモになって女の家に転がり込んでいるタイプの男だ。
女子はこういう男に引っかかりがちなのか? ただしイケメンに限る?