54.そんなルーカス、想像つかない(アカリ視点)
アカリちゃん視点です。
今日は夜にもう1話更新予定で、そのお話で完結となります。
「あ。そうだ、アカリちゃん」
「なぁに、ルーカス」
「万が一俺が頭とか打って、高慢でいけ好かなくてレーリな感じになったら、ソッコー別れてね」
「何それ」
私が笑うと、ルーカスは普段よりも真面目な顔をして、言った。
「いやこれはマジなやつだから。ほら、指切りして」
「そんなルーカス、想像つかないけどなぁ」
「いいから」
ルーカスに急かされて、小指を差し出した。
そこに小指を絡めて、ルーカスが「指切りげんまん」とか、よく分からない呪文を唱え始める。
「ゲンマン」って何だろう。不思議な呪文。
指切りしていると、咳ばらいをしながらジャンが割り込んできた。
「ほら、いちゃついてないで早く戻るっす。一応ヘンリー殿下に連絡は入れたっすけど、皆心配したんすよ」
「あ、ごめん」
ジャンの言葉に、ルーカスがぱっと手を放した。
もうちょっと余韻に浸っていたい気もしたけど……しょうがないよね。
そういえばジャンも他の皆も置いてきてしまったけど、どうしてるんだろう。
「はーまったくもう、心配して損したっす。バカップルには付き合ってらんないっすよ」
「そんなこと言って」
呆れた顔で肩を竦めるジャンに、堪えきれない笑いをこぼしながら近寄る。
私の笑顔の意味に気づいたようで、ジャンが気まずそうに視線を逸らす。
「『彼女』ってことは、ソフィアとうまくいったんでしょ?」
「う。……そりゃ、まぁ」
「え」
照れくさそうに言うジャンに、ルーカスが手に持っていたペンダントを落っことした。
カシャンという音がしたけど、ルーカスは落としたペンダントに目もくれず、拾おうともしない。
「まって」
呆然とした表情でわなわな震えながら、ジャンの方を見ている。
何だろう。目に光がない気がする。
「その話俺知らない」
ぶわっとルーカスの瞳に涙が浮かび上がった。
私もジャンもびっくりしてしまう。
「え、ちょ、何で泣くんすか!?」
「ひどいよジャン!!!! どうして! 俺に! 相談して! くれないんだよ!」
「友達だからって何でも話さなきゃいけないわけじゃないんすよね?」
「それは! そうだけど! 話してほしいタイプの話ってあるじゃん!!」
ルーカスが大泣きしながらジャンにしがみついてた。
男の子同士ならではのノリなのかもしれないけど、仲が良さそうでいいなぁ、と思ってしまう。
いいもん。私もさっき、ハグしてもらったもん。
「……ええと」
声がして視線を上げると、廃屋の入り口にヘンリー様の姿が見えた。
ヘンリー様はジャンとジャンにしがみついていて泣いているルーカスを見て……気まずそうに頬を掻いて、目を逸らす。
「取り込み中みたいだね。出直すよ」
「取り込んでないっす!」
「取り込んでるから後にして!」
「ルーカス!!」
ジャンがルーカスを叱りつける。でもルーカスはジャンにしがみついたまま離れなかった。
ワイワイと騒いでいるのがおかしくて、つい噴き出してしまう。
「ジャンさん……? これは、どういう……」
廃屋の入り口でじゃりっと砂を踏む音がした。
ソフィアが頭を押さえて、ふらりと扉にもたれかかっている。
信じられないようなものを見たという表情で、なんだかとても……ショックを受けているみたい。
「そ、ソフィア様、これは違、」
「行こうぜソフィア、そっとしておいたほうがいい」
「そうですね。きっと彼には彼なりの事情が」
必死で説明しようとするジャン。でもソフィアはユーゴとスタークに支えられて廃屋から出て行ってしまう。
「あああああもう!」
ジャンがルーカスを引き剥がそうともがきながら、私に呼びかけた。
「アカリ! ルーカスを何とかするっす!」
「アカリちゃん止めないで! これは男と男のアレ的なやつだから!」
「アレ的なやつってなんすか!」
「……ふふ」
私はジャンに協力するために、2人に駆け寄る。
ふと思った。
ほんとだ。
ルーカスといると、私……笑ってる。




