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53.パン屋じゃなくていい!?

「たまに『ルーカスの馬鹿』って思うこともあるけど、それでも、私はルーカスが好き。……ルーカスは、どう? 私のこと、好き? ……それとも、嫌い?」

「そりゃ、……」


 好きだけど、という言葉を飲み込んだ。

 友達なんだから好きで当たり前だと思うけど、何となくその言葉を使うことが躊躇われたからだ。

 言ってしまったら最後……何かが瓦解する気がしたからだ。


「友達だからすぐには考えられないって言うなら、考えてくれるまで待つから。だから、考えてほしいの」


 俺を見上げるアカリちゃんの瞳は、とても真剣で、一生懸命で。

 さっきアカリちゃんが助けに来てくれた時に、俺がアカリちゃんの顔を見て何を感じたか……それを思い出させてくる。


「ダイエットだって頑張るし、髪だってもう少し伸びたらポニーテールにできるし。お化粧だって、頑張って覚えるから」


 アカリちゃんは十分細いじゃん、と思って、ふと思い出した。


 この前もダイエットがどうこう言ってたな。

 その時確か、「足が細い子が好きなんでしょ」とか言われた気がする。

 え? 待って? じゃあそれ、もしかして……俺のため、だったりする?


 あと俺がポニーテール好きなのが何でバレてるの!?

 ふと視界に入ったジャンがすっと目を逸らした。お前か、バラしたの!

 別に俺だけじゃないだろ! 健全な男子は大体好きだろ、ポニーテール!


「だめ? 私のこと好きになる可能性、ぜんぜんない?」


 アカリちゃんの声が僅かに震えていた。

 大きな瞳が潤んでいる。

 やめて、そんな顔で、至近距離で、上目遣いで。


 俺はしばらく言葉を探して口を開け閉めしたけど、いい言葉が何も出てこなかった。

 諦めて、心に浮かんだことをそのまま口に出す。

 好きになる可能性、ないかって? そんなもの……


「なくないから困ってるんだよ、もー!」


 俺は頭を抱えてしゃがみこむ。

 だって可愛いんだもん、アカリちゃん。やさしいしいい子だし。もし高校のとき同じクラスにいたら好きになってたと思うよ、そりゃ。


 でも俺はアカリちゃんを都合の良い子にしないために行動してきたわけで。できたらジャンとくっついてほしくてやってきたわけで。

 それが、ルーカスとくっついちゃったらもとの木阿弥じゃん。


 だいたい俺はアカリちゃんの友達だもん。アカリちゃんも俺のこと、友達だと思ってると思ってたんだもん。

 だからアカリちゃんのことを助けてきたし、我儘を言ってもらえるように頑張ってきた。


 そこに下心なんてなくて。だからアカリちゃんは、こんなに無防備に笑ってくれるんだと思っていて。

 それを裏切るような真似をしたら、ダメだって思ってたのに。


 そんなん言われちゃったら、もう無理じゃん。

 意識しないとか、無理じゃん。


 アカリちゃんに悪いところなんてない。あるとしたら男の趣味ぐらいで……要は全部、俺の問題なのだ。

 これまでの経緯とか。夢オチした後のこととか。デフォルトルーカスのこととか。

 そういうことを考えてしまう俺の問題だ。


 じゃあ、そういうことを一切合切取っ払ったら?

 は目の前にいる彼女のことを、どう思う?

 彼女がくれた気持ちと言葉に、何を返す?


 小さく深呼吸する。そして、両手でアカリちゃんの肩を勢いよく掴む。


「アカリちゃん!」

「は、はいっ!」

「パン屋じゃなくていい!?」

「はい!?」

「運送屋でも、いい!?」


 俺の言葉に、アカリちゃんがただでさえでも見開いていた目を、さらにまん丸にした。

 潤んでいた瞳が一層揺らいだような気がして、必死で言葉を探した。


「侯爵家も継がないし、ちょっとジェット噴射が出来る程度の、レーリでも孤高でも何でもない、調子のよさだけが取り得の素のルーカスだけど、ほんとにいいの!?」

「素のルーカスって何?」


 ふっとアカリちゃんが噴き出した。

 その笑顔に、ほっとする。

 そしてすとんと腑に落ちた。


 そうなんだよ。もうずっと前から、俺は……アカリちゃんが笑うと、こんなに嬉しいんだ。


「そんなこといったら、私だってちょっとメテオが打てるだけの、普通の女の子だよ」

「普通じゃないよ」


 アカリちゃんの言葉に、首を振る。

 ちょっと打てるどころじゃないとか、メテオは普通打てないとか、そういうことじゃなくて。


「アカリちゃんは、ちょっとメテオが打てるうえに、笑顔が最高に可愛い女の子だよ」


 目の前のアカリちゃんの顔が、ぽっと赤くなった。

 そんな反応をされると俺まで照れてしまう。ごほんと咳ばらいをして、話を戻す。


「散々ネガティブキャンペーンしといてこんなこと言うのは非常にアレだけど……それでも、アカリちゃんが俺のことを選んでくれるなら」


 まっすぐ、アカリちゃんを見る。

 自然と口元が緩む。ダメだ、真面目な顔なんか、してられない。

 結局最後までカッコつけられずに、俺はへらりと笑って、言った。


「アカリちゃんが幸せだって言ってくれるように、頑張るよ。こう見えて俺、この世でいちばん、アカリちゃんが幸せになったらいいなって思ってる男だと思うから。……ジャンにも、負けないくらい」

「ルーカス……」

「あ、お父さんお母さんは除いての話ね」

「もう、そういう話じゃないでしょ」


 アカリちゃんがくすくすと笑う。


 笑ったり、驚いたり、怒ったり、呆れたり。我儘を言ったり、「馬鹿」って思ったり。

 俺と一緒にいるアカリちゃんが、そうやっていろんな気持ちを抱いて……その感情をぶつけてくれることが、嬉しい。


「そんで多分俺、アカリちゃんを笑わせるのは、結構得意だと思うから」

「ふふ。それは、そうかも」

「アカリちゃん」


 名前を呼ぶと、アカリちゃんがこちらに視線を向けた。見つめ合うのが何だか照れくさくて、2人で笑い合う。


「俺も、アカリちゃんが好きだよ」


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