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52.なんか寝取られた気分だよ! 俺が!

「だから! 私が好きなのは、ルーカスなの!」

「はい!?」


 アカリちゃんがもう一度繰り返す。

 聞き間違いじゃないということが分かった。それ以外は全然脳に入ってこなかった。

 咄嗟に後ずさりする。


「いや、いやいやいや。俺とアカリちゃんは、何ていうか、違うでしょ。友達じゃん?」

「友達から始まる恋、いいねって言ってたもん」

「もん、って言われても」


 じりじり後退する俺に対して、アカリちゃんはどんどんと距離を詰めてくる。


「待って、あの。いや、アカリちゃん。ジャンは? 十年来の幼なじみのジャンには相談したわけ?」

「ジャンも応援してくれてるもん」

「もん、じゃなくて!」


 肩を掴んでアカリちゃんの動きを止める。

 うるうるした目で見上げられると鈍りそう。何か、決意とか判断とか、そういうのが。


「ジャン、お前からも何か言えって!」

「心配なところは多いっすけど……ま、お前にだったらアカリのこと、任せてもいいっす」

「マジで言ってる!?」


 ジャンがぐっと親指を立てていた。いい笑顔だ。

 何でだ。それ、俺がやるはずだったやつなのに。


 だいたい俺に任せていいわけあるか。こんなに物事を任せるのに向いていないやつはいないよ。

 況やアカリちゃんをだよ。


 アカリちゃんの肩から手を離し、ジャンに詰め寄る。


「なぁおいジャン! お前の十何年越しの恋心はそんなにアッサリ捨てられるモンなのか!? 違うだろ!? ほんとは無理してるんだろ!? 枕を涙で濡らしてるんだろ!?」

「いや、オレ普通に彼女いるし」

「何フツーに彼女作ってんの!?」


 いやほんとに何フツーに彼女作ってんの!?

 彼女!? 幼なじみの友達キャラに、か、かか、彼女!?


 百歩譲って……いやダメだわ一億歩譲っても受け入れられないわ。

 どうして俺に何にも相談してくれないんだよって言おうと思ったけどそれ以前の問題だわ。

 先に相談されてても同じ反応したよ。間違いなく。


「ダメだろ、こういう系のヤツでお前みたいなタイプがほかに女作るのは! ご法度だろ! なんか寝取られた気分だよ! 俺が! 何故か!」

「自由に恋愛させて欲しいっす」

「お、お前にはガッカリだ!! 諦めるなよ! 今日からお前は! 太陽だー!!」

「勝手にガッカリされても迷惑っす」


 ジャンの視線が冷たい。

 確かに俺も後半何を言っているんだか分からなくなってきたけど、そのくらい混乱してるんだということを理解してほしい。


「お互い恋愛相談したりしたもんねー」

「ねー」

「俺の望んでないベクトルで仲良くなってる……」


 顔を見合わせて「ねー」と言い合う2人に、俺は膝から崩れ落ちた。

 あと俺には相談してくれないんだね。そっか。大丈夫、うん。泣いてないよ。


 肩を落としたまま、ゆらりと立ち上がる。


「アカリちゃん、あのね。俺は親友に恋愛相談のひとつもしてもらえない男なんだよ。そんな男と付き合ってもいいこと何にもないよ」


 言ってて悲しくなって来た。説得力がありすぎる。

 

 おかしいな。デフォルトルーカスよりはコミュ力あるつもりだったんだけど……俺もどんぐりの背比べだったのかもしれない。

 ごめん、デフォルトルーカス。


「付き合ったら、きっと後悔すると思うよ。だから」

「でも私、今言わなかったら後悔するもん」


 俺の言葉を遮って、アカリちゃんが言う。

 ぎゅっと手を握られた。

 反射的に顔を上げると、アカリちゃんがまん丸の目で……真剣な顔で、俺を見つめていた。


「いつかするかもしれない後悔より、私、今後悔したくない」


 あまりに真剣な顔をするから、また後ずさりしそうになる。

 けれど、手をがっちりと握られていて動けない。綱引きをしたら瞬殺されるのは俺なのだ。

 

 アカリちゃんがさらに、言葉を重ねる。


「ルーカス。付き合えない理由が私にあるなら、ちゃんと言って。悪いところがあるなら、そう言って」

「そんな、アカリちゃんに悪いとこなんか、」

「ルーカスが言ったの。怒っていいって、我儘言っていいって。……幸せに、なってほしいって」


 握られた手に力が入る。俺は完全に気圧されてしまっていた。

 「またまたぁ!」とか、言えそうな雰囲気じゃない。

 ていうかアカリちゃんにここまで言われて、冗談扱いできるほど俺は神経が太くない。


 つまり、言葉通りの意味で受け取るなら、アカリちゃんは本当に本気で、俺のことを。


「私はルーカスと一緒が幸せなの。ルーカスと恋人になれたら、きっともっと、すっごく、幸せ」

「で、でもさ」


 アカリちゃんの言葉に、異議を唱える。

 だって俺は……ルーカスなんだ。


「俺、アカリちゃんを3時間待たせちゃうかもしれないし」

「迎えに行くよ、今日みたいに」

「アカリちゃんが教科書捨てられちゃうかもしれないし」

「教科書? ルーカスのじゃなくて?」

「アカリちゃんに馬鹿とか言っちゃうかもしれないし」

「私も『ルーカスの馬鹿』って思うとき、たまにあるよ」


 知りたくなかった情報だった。ていうか言って、そういう時は。

 必死に頭を捻って、デフォルトルーカスのダメそうなところを思い出す。


「お、お風呂とか食器とか洗わないかもしれないよ!」

「洗わないの?」

「いや、洗うかもしんないけど」

「どっち?」

「えーと……」


 お風呂と食器は洗うかもしれない。ゴミ出しもするかも。料理は出来ない。

 それから、それから……何があっただろう。女の子が嫌がりそうなこと、怒りそうなこと……


「く、靴下裏返しで脱ぐし!」

「それは表返して」

「はい」


 当然の指摘をされた。

 そうだよね。表返せばいいよね。脱げるんなら靴下表にするくらい、出来るはずだもんね。


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