51.でも幸せならOKです!
ばあんと勢いよく廃屋の扉が開け放たれた。
「……アカリ、ルーカス! ……あ」
馬上から落下する勢いで転がり込んできたジャンが、一時停止した。
一拍置いて、思考が追いつく。
そりゃ停止するよ。ジャンからしてみれば、助けに来たら俺がアカリちゃんにハグしてるんだから。
せっかく白馬で登場したのに、俺は救出済みでおいしいところも残ってないし。
ジャンがすーっと視線を逸らす。いや、今目ぇ合ったよ。確実に。
見てないフリは手遅れだよ。
「ご、ごめんっす! お邪魔しました!」
そして廃屋の中に馬を置いて外に駆け出そうとするジャン。
大慌てで走り寄ってジャンの服の背中を引っつかんだ。
「してない! ジャン、全然邪魔してないから! 入ってきて普通に! そしてジャンもハグして!」
「ハグは遠慮するっす」
冷たくあしらわれた。ぴえん。
「誤解だから! 『無事でよかったね、イエーイ!』みたいなやつだから! ハイタッチみたいなモンなの、深い意味はないの!」
俺は誤解を解こうと必死で縋りつく。
だってこんなの、アカリちゃんが可哀想すぎるじゃないか。
俺のことを助けに来たばっかりに、ジャンに誤解されるなんて。
アカリちゃんは人命救助をしたわけだから、その分いいことがないと割に合わない。
いい奴が割を食わないように、いい奴が報われるようにと思って行動してきたのに……俺が捕まったせいでアカリちゃんが被害を被るとか、そんな馬鹿な話があるか。
ジャンは必死な俺を完全にスルーして、アカリちゃんに話しかける。
「ひどいっすよ、アカリ。オレのこと置いていくなんて」
「ご、ごめんね、ジャン。でも、ルーカスのことが心配で……」
「それはオレも同じっすけど」
ジャンがちらりと俺のほうに視線を向ける。
心配してたはずの俺の話を何で無視するんだよ。ひどい。本当に心配してた?
元気そうに見えるかもしれないけど、アカリちゃんが治してくれただけで結構ピンチだったんだからな。
「まだ言ってないんすか? てっきりもう済んだのかと」
「い、今から言うの!」
アカリちゃんが頬を赤くして、拗ねたような口調で言う。
そして、俺に向き直った。
ここでピンと来た。ティンときた。
これは、あれか。あれだな。
ついに2人が付き合っている報告をされるときが来たのか。
しゃんと居住まいを正して、俺もアカリちゃんに向き直る。
大丈夫だ。寂しい気持ちはちょっと……いやかなりあるけど、何回もイメトレした。心の準備は出来ている、はず。
「……あのね、ルーカス」
しばらくもじもじとしていたアカリちゃんが、意を決したように言う。
アカリちゃんの大きな瞳が、まっすぐ俺を見つめていた。
こっそり息を呑んで、次の言葉を待つ。
「私、ルーカスが好き」
「うん…………………………うん!?」
一度頷いて、脳内でアカリちゃんの言葉を噛み締めて……聞き返した。
え? 何? 何て?
こっちは「え~! 何で言ってくれなかったんだよ~! マジでショックだわ~!」のあとに「でも幸せならOKです!」と親指を立てる気満々で準備してたんだけど?
ていうかその準備しかして来てないんだけど?
今、何て??????




