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ソシャカス姉ちゃんがプレイしてるゲームのヒロインが(都合の)いい子過ぎるので我儘を教えたい  作者: 岡崎マサムネ


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50.助けに来てくれて、ありがとう

「お、お前! 動くとコイツが」


 俺の一番近くに居た男が、懐からナイフを取り出した。

 この状況でよく動いたなと思う。俺には無理。絶対無理。いのちだいじに。


 その男がそれ以上何も出来ないうちに、氷で出来た刃が空中に出現し、男の喉元にびたりと添えられる。

 それを視認した男が、ヒュッと息を飲む音がした。

 そして驚愕に目を見開きながら、恐る恐るといった様子でアカリちゃんに視線を向ける。


 アカリちゃんはただ、片手を前に突き出した状態で、先ほどまでと同じ場所に立っていた。

 アカリちゃんの周りに、火球と氷の刃が浮かび上がる。大きさこそ小サイズだが、その分数が多い。メテオとブリザド同時打ちの大盤振る舞いだ。


 いや、その相反する属性の魔法2つ同時に使うやつ、敵のボスが使うやつだもん。

 俺知ってる。魔王軍団長とかが使うやつだもん。


 姉ちゃんの廃課金デッキのせいで、アカリちゃんが氷炎将軍になってしまった。世界観ブレイクも甚だしい。

 一度ちゃんと謝ったほうがいいと思う。

 ごめん、アカリちゃん。勝手に将軍にしてごめん。


 廃屋の中はシンと静まり返っていた。氷の刃を突きつけられた男の顎を、汗が伝う。

 他の男たちも、イカツめなくせに指一本たりとも動かさずに、じりじりとアカリちゃんの次の動きに怯えている。


 いつもにこにこやさしくて、お人よしで、怒りとかいう感情なんてないんじゃないかと思うくらい穏やかなアカリちゃん。

 そのアカリちゃんが、今まで見たことのないような表情で、男たちと対峙している。


「ルーカスに近寄らないで」


 アカリちゃん、ガチ切れだった。


 すごい。アカリちゃん、こんなに怒ることあるんだ。

 しかしそのガチ切れの理由が、友達をボコボコにされたからだというのは何ともアカリちゃんらしい。


 自分がどうこうじゃなくて、他人のために怒るというあたりはやっぱり、お人よしから脱却しきれていないのかもしれない。

 理由がどうであれ「お人よし」のすることとは思えない光景が繰り広げられている気がするけど。


 アカリちゃんが突き出した手を、空中でぐっと握った。

 氷と火球が一斉に、男たちを目掛けて降り注ぐ。

 またしてもものすごい音がした。


 その様子を安全地帯からぼんやり眺める俺。


 確かに俺は助けを期待していたけども。待っていたけども。

 俺が予想していたのは、アカリちゃんがジャンやもしかしたら警官やら両親やらに助けを求めて、大勢でこの廃屋を包囲して「確保ー!」みたいなやつであって。

 アカリちゃんが単身、スーパーヒーロー着地で乗り込んでくるのは完全に予想外だった。


 これ本当にアカリちゃんですか? アカリさんでは? 


「ルーカス!」


 小メテオと小ブリザドでボコボコにした死屍累々を乗り越えて、アカリちゃんが俺の下へ駆け寄ってきた。


「大丈夫?」

「うん、何ていうかちょっと大丈夫過ぎるくらい大丈夫」

「何それ。口のとこ、切れてるよ」


 アカリちゃんが回復魔法をかけてくれる。一瞬で頬の腫れも引いていった。

 正直驚きで痛みとかどっかにいってしまっていたので、そういえば怪我してたっけ? という感じだ。


 小メテオを食らった皆さんと比べたら、俺の怪我なんてマジでかすり傷だ。

 安らかに眠ってくれますように。


 アカリちゃんが縄を切ってくれたが、すぐには立ち上がれそうにない。椅子に縛られていてよかったなと思った。

 立ってたら間違いなく膝ガクガクだもん。生まれたての小鹿だもん。


 自由になった足をばたつかせたところで、足元に光を帯びた紋様が浮かび上がっていることに気づく。

 アカリちゃんが小メテオを食らった皆さんのために、範囲系の回復魔法を展開しているらしかった。

 さすが最終兵器アカリちゃん、アフターケアまでバッチリだ。


「よくここが分かったね」

「シエル先輩が見つけてくれたの」


 やっとこさ立ち上がりながら問いかけると、アカリちゃんの返事は予想外のものだった。


「シエルが?」

「うん。他にも、ユーゴもスタークも、ヘンリー様もジャンも、それからソフィアも。皆……ルーカスのこと、心配してたんだよ」


 ぎゅっとアカリちゃんが俺のシャツを掴んだ。

 アカリちゃんの小さな手が震えている。


 そうだよね、と思った。

 廃課金デッキのせいで魔力もフィジカルも規格外だけど……それでも、アカリちゃんはアカリちゃんだ。


 本当は俺のことを、3時間待っちゃうような子のはずで。

 そんなアカリちゃんが、一人で駆けつけるというのは……きっとすごく、怖いことのはずだ。

 俺だってビビっちゃうくらいのゴツい男たちと対峙するのだって、とても怖いはずだ。


 それでも、それを押してでも、アカリちゃんは俺を、助けに来てくれたのだ。

 それはきっと、それだけ心配をかけてしまったということだ。


「本当に、心配したんだから」

「……ごめん。ごめんね、アカリちゃん」


 消え入りそうな声で呟きながら肩を震わせるアカリちゃんを抱きしめた。


 ああ、どうしよう。

 結局遅刻しちゃうし、アカリちゃんに助けてもらう側だし、その上膝はガクガクだし。

 それだけでもかっこ悪いところばっかりなのに……俺もちょっと、泣きそうだ。


 無事に帰れそうで気が抜けたのもあるけど……アカリちゃんの顔を見たら、何だか妙にほっとしてしまって、困る。

 死なずに済んで、よかった。アカリちゃんとまた会えて……よかった。


 ここで泣くのはあまりに情けなさすぎるので、口の中を噛んで何とか耐える。

 抱きしめたアカリちゃんの背中をぽんぽんと叩きながら、言った。


「助けに来てくれて、ありがとう」


 何でもない調子を装ったつもりの声が若干鼻声になってしまったのには、目をつぶってもらいたい。


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