閑話 ヘンリー視点(2)
引き続きヘンリー視点です。
「……ご清聴、どうも」
ふぅと息をついた。
スタークとユーゴがおためごかしに、まばらな拍手をくれる。
僕は別に黙って聞いてほしいわけではなくて、「だよね!」「分かる!」などと言いながら聞いてほしいのだけれど……そういう話は、ご令嬢の方が得意だからね。
男性陣には望むべくもなかったようだ。
本当はこうして他人の恋愛話を共有して、わいわいと花を咲かせられる友達が欲しかった。
けれどあいにく、特定の女性と懇意にするわけにはいかない身の上だ。
つくづくままならない世の中だなぁと思う。
一人でわくわくドキドキ楽しんで、たまにこうして語るだけでも、十分に楽しいのだけれど。
「他人のすきとかー、きらいとかー。そんなの眺めてて何が面白いのか、ボクにはよくわかんないなー」
「僕は自由に恋愛を楽しめる立場じゃないからね。こうして他人の恋愛模様を眺めて楽しむしかないのさ」
興味のなさそうなコメントを寄越すシエルに、苦笑いする。
「他人の恋愛模様」のところでちらりとユーゴとスタークに視線を送ると、彼らは気まずそうに明後日の方向に目を泳がせた。
気づいていないとでも思ったのかな。
僕は君たちも含めて、応援しているんだけど。
「それで、応援するーとか言ってるの、ほーんと、趣味わるーい」
「否定はしないけど、応援の気持ちがあるのは本当だよ。僕は喜劇が好きなんだ。最後はハッピーエンドでないと、寝覚めが悪いもの」
僕が肩を竦めると、シエルがふぅんと相槌を打つ。
僕の表情や動作は見えていないはずだけれど、どうにも信用していなさそうな声音だった。
「恋愛をする上での山あり谷あり、楽しいこと悲しいこと、嬉しいこと、ときめくこと、切ないこと、つらいこと。そういう当事者にしか経験できないような些細なことから深刻なことまで僕にしっかり聞かせた上で、最後はハッピーエンドの大団円を迎えて欲しいって思っているよ」
「やっぱ、趣味悪ぅ」
「君だって分かるでしょう? 誰だって、自分に出来ないことをやってのける人間というのは――輝いて見えるものさ」
「ボクは興味ないなー。そんなのより、寝心地のいい枕を考えるほうがずーっと楽しいよ」
シエルが独り言のように言う。
どこかうきうきとした声音は、先ほどまでとは大きく違う。
自分の興味のあることを人に語る時には、人と言うのは皆こうなるらしい。
「風魔法で速度を上げて、時速80km前後で走っている馬車から手を出したときの空気抵抗が、とーってもいい感じなんだよねー。あれを再現した枕、作りたくてー」
「楽しそうで何よりだよ」
シエルの話を適当に聞き流す。
興味のない話をされたときの反応もまた、皆同じのようだ。
次の更新からルーカス視点に戻ります。




