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閑話 ヘンリー視点(1)

白馬の王子様、ヘンリー視点です。


長台詞がありますが、閑話ですので読まなくても問題ありません。



「楽しそうだねー、ヘンリー」

「うん。すごく楽しい」


 魔法石を通してシエルに声を掛けられた。

 僕は笑顔で肯定する。


「最初は、ルーカスとジャンがアカリ嬢を取り合うような展開になるのかと思っていたんだ。1人の女性を取り合う男たち。友情と恋愛の間で揺れ動く感情。渦巻く愛憎劇。そういうの、皆大好きじゃないか。例に漏れず僕も好きでね。まるで歌劇の題材みたいな恋愛模様が楽しめそうだなと思って近づいたんだけれど」

「その話、まだかかるー?」

「ここからが本番だよ」

「早口すぎて聞き取れないよー」

「別に聞かせようと思ってないからね。僕が話したくて話すだけだ」


 手に持った地図を畳む。

 今頃ソフィアに愛の告白をしているだろうジャンを思い浮かべると、勝手に口元が緩んだ。

 後でソフィアに詳しく聞かせてもらおう。


 僕は他人の恋愛事情を見聞きするのが大好きだった。

 趣味を通り越してライフワークと言っていい。


 残念ながら、一応とはいえ王族の末席に位置する僕には、惚れた腫れたを自由に楽しむことはできない。

 だからこそより一層、他人のそれが面白いのだ。


 まるで演劇でも見るように他人の恋愛模様を眺めて、どきどきや切ない気持ちを疑似体験して。

 それが僕にとっては、何よりの娯楽だ。


 人というのは、好きな物について語り出すと、止まらなくなる。

 そして好きな物の話と言うのは……得てして、他人に聞いてほしくなるものだ。


 ぺろりと唇を舐めて、僕は朗々と語り出した。



 ◇ ◇ ◇



 まさかジャンがそちらに行くとは思わなかった。

 ソフィアだってそうだ。2人とも長年の想いがあったろうに、それがこの短期間でこうも変わるなんて、劇的だと思わないかい? 思わない? じゃあ人生半分損をしているよ、君。


 事実は小説より奇なり、なんていうけれど。

 僕は予想していなかった展開だけれど、この2人の組み合わせ、なかなかどうしてイイじゃないか。

 お互い失恋したばかりだろうと思うかもしれないが、いいかい、恋って言うのは時間じゃないんだ。


 時間をかけて育まれたもの、稲妻のように落ちたもの。

 どちらかが価値があるというものでも、どちらかが素晴らしいと言うものでもない。

 どちらも等しく素晴らしく、愛おしいものさ。決して優劣がつけられるものじゃないんだよ。


 本人たちにとってさえそうなのだから、僕たちみたいな外部の人間には分かるものではない。


 時間をかけて愛に変わる恋もあるけれど……惰性や執着や、親愛に変わることだってある。

 彼らは後生大事に抱えて……半分呪いのようになっていたそれから解き放たれて、自由になった。

 自由の先に見つけた恋が、今度は果たして何に変わるのか。いや、わくわくするなぁ、楽しみだなぁ!


 まぁ他人事だから楽しめるだけで、本人たちはいたって真剣なのだろうけど。

 そうでなくっちゃつまらないからね。


 人の心は変わる、移ろう。人はそれをまるで悲しいことのように言うけれど、決してそればかりじゃない。

 変わったほうがいいことだってあるはずさ。だからこそ恋愛は面白い。


 そしてあの2人が変化するきっかけになったのが、恋に狂った哀れな男の行動だと言うのが、なおさら面白い。

 あの2人以外にも、きっと道行きが変わった人間は他にもいるはずさ。ね? ユーゴ、スターク。


 ああいや、彼は哀れでもないか。いつも幸せそうだものね。


 いつ進展するのかと様子を窺っていたんだけれど。ルーカスが鈍感すぎてもう、違う意味でハラハラドキドキさせられたよ。

 だって誰が見ても、彼はアカリ嬢のことを愛しているし、アカリ嬢も彼に惹かれているはずだ。


 でもそのどちらの気持ちにも、彼だけが気づいていない。渦中にいるのにだよ?

 アカリ嬢の懸命なアプローチにも気づかないんだ。


 そんなことがあるか、という話だけど……あるんだよねぇ。本当にルーカスは、良い役者だな。

 いち観客でいたい僕が、ついつい口出しをしたくなってしまうくらいに。


 アカリ嬢は僕が口出しをしなくても気づいた可能性もあるけれど……彼はダメだな。

 僕が何か言っても『またまたぁ』とかいいそうだもの。


 分かるかい? 彼はピエロだ。滑稽で幸せな道化だ。

 そして僕が見ているこれは……エンターテイメントだ。


 純朴そうなアカリ嬢はともかく、彼はもう少し聡明な男だと思っていたんだけどなぁ。

 恋が人を狂わせるというのを、こうもまざまざと見せ付けてくれるとは思わなかったよ。


 面白いという陳腐な語彙でしか表せない自分が口惜しいよ。こういう時なんて言えばいいんだろうね?

 どうしてこう、他人の恋愛話っていうのは楽しいんだろう。


 疑似体験や追体験だけでは説明できないような感情の動きがある気がするんだけれど、僕にはそれを表すだけの言葉が思いつかない。

 しかも鮮度が大切なんだ。今起きている話を当事者の口から聞くのが一番楽しい。

 昔の話はそれはそれで楽しいのだけれど、別物と言うか、違った味わいなんだ。


 だからこそこうしていろいろなところに首を突っ込んだり呼びつけたりして、出来るだけ当事者から直接話が聞けるように、出来るだけ近くでその事件を見届けられるように手を尽くしているわけだけれど。


 最初は早くくっついてしまえ、と思っていたのが、だんだんと、いや気づくな、もっともっと踊ってくれと思わずにはいられなくなってしまって。

 やきもきするのも楽しいんだよ、こういうのは。


 アカリ嬢を頻繁にお茶会に呼び出していることを知ったときのルーカスの顔なんて、本当に見物だった。

 それで自覚がないなんて、嘘だろうと言いたくてたまらなかったよ。

 でもそれがいいんだ。そのじれったい感じがまた、胸を熱くするんだ。


 もっともっと、僕を楽しませるような……僕が想像のつかないような、エンターテイメント性に富んだものが見たい。

 近頃はルーカスのおかげで退屈しないけれど、これがずっとずっと続けばいいのにって、僕はそう思っているんだ。


 ルーカスとアカリ嬢も、それからジャンとソフィアも。彼らの今後を考えるとわくわくするよ。

 身分の差だけじゃない、ほかにも問題は山積みだ。

 それをどうやって乗り越えるのかな。それとも……乗り越えられないのかな.


 さすがに今日の一件で何か進展するだろうし、これからもしばらく楽しめそうで嬉しいよ。


 くっつきそうでくっつかないとか、好きになってしまうかもしれない、とか。

 そういうのはもちろん大好物だけれど。


 想いが通じ合ったからこその不安な気持ちとか、悩みごととか、甘酸っぱい気持ちとか。

 そういうのも大好きだからね。新鮮な話が聞けるのが今から楽しみで仕方ないんだ。


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