6.それモラハラ男に騙されるやつだよ
俺はパンと手を叩いて、2人に笑いかけた。
「はい、自己紹介終わり! じゃ、これで俺たち晴れて友達ってことで!」
「なんでっすか!?」
「俺が友達になりたいから」
「なんでっすか!!??」
打てば響くような反応をしてくれるジャン。
アカリちゃんは俺たちのやり取りをはらはらした顔で見つめている。
俺はそれには気づかないフリをして、へらへら笑う。
「ほら俺、珍しいもの好きなの。魔力がすっごい強いって聞いて気になって見に来たら、2人ともいい奴そうじゃん? だから友達になりたいなーって思っただけ。深い意味なし!」
「いい奴って、」
「いい奴だよ。俺の第6感が言ってるもん。人を見る目あるんだよね、こう見えて」
第6感がどうのは嘘だが、俺は確かに知っている。
アカリちゃんが人のお願い事を断れない子だってこと。
ジャンが文句を言いながらも人を放っておけない奴だってこと。
それをどうにかしたくて、俺はこうして2人に取り入ろうとしているのだ。
これから俺は2人にべったり張り付いて、ことあるごとに横からギャーギャー言ってやるのだ。
無責任にしっちゃかめっちゃかにかき回してやるのだ。
2人が――いい奴が損をするような筋書きを、変えるために。
「ま、いーじゃん、細かいことはさ。2人もさぁ。貴族のお友達、いたら意外と便利かもよ?」
にやりと笑った俺に、2人はきょとんとした顔をした。
あー、ほんとに、淘汰されなかったのが不思議に思えるぐらい、いい奴。
「ほらね。そこで『利用してやろう』って思いつかないあたりが『いい奴』なんだって」
肩を竦めた俺に、ジャンが気まずそうに視線を逸らした。
アカリちゃんはまだ、俺の言っている意味が分からないようだ。
「貴族がどうとか、その辺りは俺に任せときなって。お役立ちのお買い得だよ、きっと。だから一回なってみてよ、友達。ね?」
握手を求めて、手を差し出す。
しばらく沈黙があって、そして。
「え、えと。よろしく、お願いします?」
アカリちゃんが、俺の手をそっと握った。
ジャンが目を剥いて素っ頓狂な声を上げる。
「アカリ!?」
「だ、だって、私ほんとに何にも分からないし……いろいろ教えてくれるってことだよね?」
さすがアカリちゃん、ものすごく平和な解釈をしたようだ。
アカリちゃんは俺の手を離し、ジャンに向き直る。
「それに……なんでかな。この人、悪い人じゃないような気がするの」
「本気で言ってるっすか!?」
ジャンの言うとおりである。本気で言ってるのか、アカリちゃん。
いや本気なところがより一層たちが悪いけれども。
ゲームにもそんなモノローグがあったのを思い出した。
ルーカスに冷たく当たられても、「この人、本当は悪い人じゃない気がする」とか「寂しい目をしたひと」とか言っていた。
やめたほうがいいよ。それモラハラ男に騙されるやつだよ。
俺がたまたま悪意のない、愉快犯ってだけなんだから。
「オレは、反対っすけど……」
アカリちゃんの様子を見て、ジャンがちらりと俺に視線を送る。
「ほっといて、妙なことされるのも迷惑っすから。オレが見張ってやるっす」
「交渉成立だな」
結局ジャンも折れた。
ジャンとも握手をしながら、俺は内心どうしたものかと頭を抱える。
本当にいい奴過ぎる。このまま押せ押せに負けて絆される未来がまる見えだった。
都合がよすぎるよ、2人とも。