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48.オレそんな勇気ないんすよ(ジャン視点)

ジャン視点です。

 アカリの飛んで行った方角を眺める。あっという間に姿が見えなくなっていた。


 ああもう、多少は我儘言ってもいいって思ってたけど、こんなに無鉄砲になるなんて。

 ていうか最近ルーカスに似てきた気がするっす。悪影響っす、悪影響。


 早くアカリを追いかけなくては。何が起こるか想像できなかった。


「ヘンリー殿下、馬借りるっす!」

「いいよ、あげる」

「くれなくていいっす」


 鐙に足をかけようとしたところで、くいと袖が引かれた。

 視線を向けると、ソフィアがオレの袖を握っている。


 彼女は上目遣いでオレを見上げて、しばらく言いにくそうに口ごもった後、意を決したように言う。


「あ、アカリさんに任せておけばいいのではないかしら」

「え?」

「だから! ジャンさんが行く必要はないのではないかしら、と言っていますの!」


 ぎゅっと袖を握りしめて言うソフィア。

 どういうことだろう。確かにアカリが行った以上、オレに出来ることは大してないかもしれない。


 ルーカス曰く「最終兵器マッチポンプ彼女」とか何とか。

 何なんすかね、それ。


「だって、危険な目に遭うかもしれませんのよ」

「そりゃアカリに比べたらオレは弱いっすけど」


 情けない話、万が一アカリと戦ったら瞬殺される自信がある。そんな状態では足手まといになるだけかもしれない。

 だが、ここで行かないという選択肢はなかった。


 オレだって心配なんすよ。ルーカスのことも、アカリのことも。


「ソフィア様だって、ルーカスのこと心配でしょ?」

「それは、心配ですけれど」


 ぱっと顔を上げたソフィアと目が合う。

 至近距離で見つめられて、カッと頬が熱くなった。


「わたくしは、ジャンさんが心配だと申し上げていますの!」

「……え」


 ソフィアの言葉に目を丸くする。

 彼女の頬も赤くなっていた。一生懸命な表情で――こぼれそうなほど大きな瞳が、オレを映している。


 いや、あの。今そんな顔をされると、ちょっと、期待しそうになるというか。

 勘違いしそうになると言うか。


「なるほど、なるほど」


 オレとソフィアの様子を眺めていたヘンリー殿下が、頷きながら会話に入って来た。


「ルーカスがアカリ嬢の方へ行ったと思ったら……そうか。ソフィア。君はそういう選択をするんだね」


 ソフィアの頬がまた一層赤くなる。

 ちょっと、ソフィア様。ちゃんと否定しないと、オレだけじゃなくてヘンリー殿下にも勘違いされちゃうっすよ。


「イイね、すごくイイ」


 何故か妙に満足げなヘンリー殿下。

 2人の顔を交互に見るが、ソフィアは俯くばかりで何も言わなかった。


 え。あれ。これって……本当に?


「僕は応援するよ。ルーカスたちのことも、君たちのことも」


 勝手なことを言うヘンリー殿下。

 もじもじと恥ずかしそうにしているソフィアを見て、がしがしと頭を掻く。


 本当に、勝手なことを言ってくれる。

 こっちは、欲しくもない公爵家の継承権まで取り戻して、いろいろと準備を進めてるところだったのに。

 オレのプランが全部台無しっす。


「ああもう、ソフィア様、ちょっとこっち」

「え?」


 ソフィアの手を掴んで、歩き出す。

 彼女は驚いたような表情だったが、素直についてきた。


「あ、あの?」

「人前で告白とか、オレそんな勇気ないんすよ!」

「え!?」


 ヘンリー殿下たちから見えない場所までソフィアを引っ張っていく。

 手にじっとり汗をかいている気がする。握ったソフィアの手は、緊張しているのか指先まで冷たくなっていた。

 小さな手と細い指に、一段と心臓の音がうるさくなる。


 オレの背中に投げかけるように、ヘンリー殿下の言葉が聞こえた。


「新しい時代の幕開けを感じるなぁ」


 本当に、勝手なことを言ってくれるっすね。

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