47.待っててね、ルーカス。(アカリ視点)
引き続きアカリちゃん視点です。
今日から1日2回更新です。
最後までどうぞよろしくお願いいたします。
「おーい。出番だよ、シエル」
王子様が魔法石に呼びかける。
でも、返事がない。やれやれと苦笑いした王子様が、私に魔法石を手渡した。
「アカリ嬢、さっきのやつ、もう一度お願いできるかな?」
頷いて、魔法石に魔力を流し込む。
「起きてください、シエルさん!!」
「ぐっふ」
魔法石の向こう側で、何かががっしゃんと落ちた音がした。
少し間が空いて、シエル先輩の声が聞こえて来る。
「もー。なーに? 好きなときに寝て、好きなときに起きていいって言うから、働いてるのにー」
「仕事だよ」
ヘンリー様が、ここまでのかくかくしかじかを説明した。
ふんふん相槌を打っていたシエル先輩が、やがて口を開く。
「飛んでいったのは、どっちー?」
「ええと……王都の東側でしょうか」
「発射角はー?」
「発射角……?」
その後も、シエル先輩に聞かれるがままに、スタークとユーゴがルーカスの飛んで行ったときの様子を話す。
一瞬の沈黙があって、今度はマルコに対して問いかけた。
「ルーカス誘拐に関わりそうな人はだーれ?」
「え? ええと、フェルナンド男爵家、ライコネン商会、それから競合先のベッテル伯爵家の次男……」
「ん――――」
よく分からないままに答えたマルコに、シエル先輩は返事をしなかった。
唸るような声と、がさがさ紙を捌くような音が聞こえて、そして。
「よーし。だいたい分かったよー」
あっけらかんと、そう言った。
「え? え?」
「東地区、グリーンヒル通り3丁目から4丁目、もしくは……」
「ま、待つっす、メモメモ」
話に着いていけない私たちを他所に、シエル先輩が住所をすらすら話し始めた。
今の情報だけで、そんなに細かな場所がわかるなんて……やっぱりシエル先輩は、天才なんだなと思う。
国内で一番頭のいいこの学校を飛び級で卒業するくらいだもんね。
ジャンがメモを取っている間に、ヘンリー様が門番から王都の地図を借りてきてくれた。
「このあたりか。近隣の自警団に連絡を取ってみよう」
「近くに騎士団の詰め所があるはずだ、親父に連絡して……あ」
ユーゴがふと何かに気づいたように動きを止めた。
隣にいるスタークの顔を見上げる。
「ここ、あの廃屋があるところじゃねーか?」
「ああ、そういえばそうですね」
「廃屋?」
「昔は倉庫か何かだったんだろうが、今は使われてない建物があんだよ」
当たり前のようにそう答えたユーゴ。
私はきょとんと目を丸くする。
「何で使われてない廃屋のことなんか知ってるの?」
「たまたま」
「たまたまです」
「アカリ、それ以上聞いちゃダメっす」
ジャンにそっと窘められた。
そうだよね、今はそんなことより、ルーカスだよね。
ユーゴのお父さんが騎士団長だから、たまたま詳しかっただけだよね。
廃屋で誰かと二人っきりで逢瀬をしていたんじゃないかとか、想像したらダメだよね。
「廃屋か。誰かを閉じ込めておくには都合がよさそうだね」
「よし、場所が分かれば……」
今後について話し始めるみんなを眺めながら、私は靴を脱ぎ捨てた。一緒に靴下も脱ぎ去る。
だってもう、居ても立っても居られなかったから。
「え、ちょ、アカリ?」
「私、行ってくる」
ルーカスの真似をして、足から炎を噴射する。ルーカスは「ジェット噴射」って呼んでいたっけ。
出力が強いおかげか、手からは炎を出さなくても十分に飛べそうだ。
スピードを出すために、さらに出力を最大まで上げる。地上のみんなが慌てて火の粉を避けた。
地図で見た方角を睨む。
待っててね、ルーカス。
今、迎えに行くから。




