46.とてもピンチだってことだ(アカリ視点)
引き続きアカリちゃん視点です。
たぶんもう1話くらいアカリちゃん視点が続きます。
ヘンリー様が、王都の自警団に連絡を取ろうと魔法石を手に取った。
複数箇所に一度に通信をする場合には、魔法石を使ったほうが安定するそうだ。
「へ、ヘンリー殿下!」
こちらが何か言う前に、魔法石から、声が聞こえた。
あれ。この声……
「マルコと申します。ルーカスの、弟の」
通信相手が名乗る。
ルーカスから弟の名前がマルコだということは聞いていたし、声の響きもどこか……ルーカスと似ている気がする。
「見た目も結構似てるんだよ」と、ルーカスが言っていたのを思い出した。
「近くの自警団の通信係より、知らせがありました。その、我が愚兄がいなくなったというのは」
「愚兄って言われてるっすよ、ルーカス……」
「ま、言いたくもなるだろうな」
こっそり呟いたジャンの言葉に、ユーゴが頷く。2人してひどい。
2人を無視して、ヘンリー様が魔法石に向かって返事をした。
「それが、穴の開いた靴を残して、姿が見えないんだ。見知らぬ人間と空を飛んでいたという話もあってね。何もなければいいんだけれど」
ヘンリー様が簡単に事情を話す。
魔法石の向こうにいるマルコは、すぐには返事をしなかった。
「今実家にいますよ」って言ってくれないかなと思ったけれど、そうじゃないらしい。
しばらく沈黙が続いた後、マルコが意を決したように話し出した。
「……恥を忍んで申し上げます」
「恥って言われてるっすよ、ルーカス」
「言いたくもなるでしょうね」
「本来であれば王子殿下の耳に入れるような話ではないのですが」
言いにくそうに言葉を切るマルコ。
スタークまでルーカスのことそんな風に言うなんて、ひどい。
「少し前、私に取り入ろうとする者がおりました。事業で関わりのある男爵家や商家の者ですが……兄であるルーカスが、金銭目的で我が家の事業の情報を外部に漏らしているという触れ込みで……兄を廃して、私に当主になるようにと」
隣にいる王子様と顔を見合わせる。
ルーカスの人物像とあまりにも結び付かない話だったからだ。
可能性があるとしたら、「うっかり言っちゃった」くらいしか思いつかない。わざとそんなことをするなんて、考えられなかった。
私が首を振ると、王子様も頷いた。
「しかし兄は近頃あの調子で……しまいには、自分から私に家督を譲るなどと言い出す始末で」
「そうらしいね」
「ご存知でしたか」
マルコが驚いたような声で言った。
ヘンリー様がちらりとジャンに視線を向けたので、ジャンから聞いたらしい。
ルーカスも特に秘密にしたいとは思ってないみたいだった。
庶民生まれの私にはよく分からないけど……周りの反応を見ると、ルーカスのしたことはとんでもないことなんだと思う。
私は、ルーカスが寮に入って、一緒にいられる時間が増えて嬉しいなってくらいにしか思っていなかったけれど……
そう感じたのは、ルーカス自身がそのくらい、何でもないことのように振る舞っていたからかもしれない。
「最近は家の事業にも関わろうとしないのにそのような話が出るのはどうにもおかしいと思い、調べてみたところ……それは兄を貶めるための真っ赤な嘘で、その嘘を私に吹き込んできた者の方が、我が侯爵家と競合する事業を営む高位貴族と通じていることが分かったのです」
「……なるほどね」
王子様の表情が変わった。いつもの柔和な雰囲気ではなく、険しい顔つきだ。
ジャンに視線を送ると、ジャンも緊張した面持ちをしている。
「もしかしたら、兄はその者たちに捕らえられているのかもしれません。強盗や恐喝まがいのことまでする連中と繋がりがあるとの噂もあります」
「え、」
王子様やジャンより一拍遅く、私にも事態の重大さが伝わって来た。
強盗? 恐喝?
そんなことをする人たちに、ルーカスが捕まっているかもしれないの?
私だけでなく、その場のみんなも一斉に慌て始めた。
「おい、それはヤバいんじゃないか」
「そうですね。もしルーカスを誘拐した相手が、ルーカスが侯爵家の継承権を放棄したことを知ったら……一気に利用価値が下がります」
「ですが、さすがにルーカス様もわざわざご自分でそんなことを話したりは……」
ユーゴやスタークの言葉に異議を唱えたソフィア。
しかし、それをみんなが一斉に否定する。
「しそうだな」
「すごくしそうだ」
「目に浮かぶっす」
「なさるかもしれませんわね……」
ソフィア自身もそう思ったみたいだった。
私もそう思う。ということは、ルーカスがとてもピンチだってことだ。
「まさか兄は、敵を炙り出すために……? 私たち家族に危害が及ばないよう、家を出てまで、自らが囮に……」
「絶対ルーカスはそんなこと考えてないと思うっすけど……」
「ジャン!」
マルコの言葉に反応したジャンをたしなめる。今はそんなことを気にしている場合じゃない。
「どうしよう、助けないと」
「だな。さすがに死なれちゃ寝覚めが悪い」
「ですが、どうやって?」
「ルーカスが飛んで行った方向は分かるんだよね?」
「はい」
王子様の問いかけに、ユーゴとスタークが頷いた。
王子様が手に持った魔法石に魔力を流し、呼びかける。
「おーい。出番だよ、シエル」
もうすぐ完結(の予定)! ということで、来週は朝(もしくは昼)と夜の1日2回更新でいきたいと思います。
完結まで応援のほど、どうぞよろしくお願いいたします。




