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41.初乗り5千円

「よう、お兄ちゃん」


 声をかけられて、顔を上げる。身なりの悪い男たちが、俺を取り囲むように立っていた。


 困った。大方ルーカスの顔面が金持ってそうだから声をかけてきたんだと思うが、実際のところ俺、あんまりお金持ってない。

 気持ちは分かる。貴族っぽいし、金髪碧眼のイケメン見たら誰だって金持ってそうって思うよね。

 持ってなかったらがっかりするよね。


 実家からの仕送りはあるけど、今日はアカリちゃんにお茶を奢れる程度しか財布に入っていないのだ。確実にがっかりされる。

 がっかりで済めばいいけど、八つ当たりされるかもしれない。


「よう! どうしたんだいブラザー!」


 やたら馴れ馴れしく返事をしてみた。

 ハイタッチを求めてみるが、応じてもらえなかった。ぴえん。


「兄弟に残念なお知らせだけど、俺そんなにお金持ってないんだよ。ほんとマジで。がっかりすると思うから先に言っとくね」

「ああ、問題ねぇよ」


 男がにやりと笑う。

 いかにも「腕に覚えがありますよ」という顔のゴリゴリの男たちに囲まれて、身体が勝手にじりじりと後退する。


「俺たちが用があるのは……お前自身だ。侯爵家のお坊っちゃん」


 一番近くにいた男が俺に掴みかかってきた。

 咄嗟にジェット噴射で飛び上がる。


 何でだ、もうマルコに家督を譲ったんだから、俺がごろつきに襲われる謂れはないはずだ。

 それともデフォルトルーカス、そんなもんでは収まりがつかないほど恨まれてたのか?

 確かに他人の恨みを買いやすそうな感じではあるけど、それにしたって限度があるだろ。


「へぇ、驚いた。風魔法以外で空を飛ぶやつがいるんだな」


 背後で声がした。

 男が一人、俺の背中にしがみついて一緒に空を飛んでいた。

 さっきの奴らの仲間だろう。完全にテンパっていて、声をかけられるまで気づかなかった。


「ちょっ!? 何勝手に相乗りしてんだよ! 初乗り5千円だぞ!」

「はい、静かに」


 振り落とそうとしたところで、ひたりと何か冷たいものが首筋に押し当てられる。

 何だろう、と思っている間に、首筋に鋭い痛みが走る。温かいものが一筋、伝ってくる感覚がした。さーっと血の気が引く。


「痛い思いしたくなかったら、言うとおりに飛びな。運ぶ手間が省けて助かるぜ」


 クツクツと男が笑う。一気に冷や汗が噴き出した。

 何この展開。聞いてない。


「お、お客さん、どちらまで行かれますぅ~?」

「東に飛べ」

「東って右? 左?」

「…………」

「痛い痛い、ちょっとやめて、指差して、指差し確認して」


 男の指示に従って飛ぶ。一体どこに向かうのだろう。

 とりあえず従うフリをしておいて、隙を突いて最大出力で逃げよう。

 男本人が自力で飛べない以上、降ろすまでは危害を加えられることはないはずだ。

 いや、すでに危害は加えられてるけど。超怖いんですけど。

 

 でも、アカリちゃんとの約束がある。このまま連れ去られたら、アカリちゃんを3時間待たせる男になってしまうかもしれない。

 何だったら3時間で帰してもらえない可能性もある。


 目標達成直前でこんなのは悲しすぎる。

 俺、何かした? いや、迷惑をかけては来たけど。両親とか、ソフィアちゃんとかには怒られても仕方ないけど。

 それ以外の奴にこんなことされるほど、悪いことはしてないはずだ。


 これでアカリちゃんを待たせてしまうようでは、今までの努力が水の泡だ。

 フルコン直前でフリックのノーツが1個落ちてしまったようなものだ。

 簡単に言うと、めちゃくちゃ悔しい。


 何としてでも、逃げなくては。

 俺がそう決意を固めたところで、男がストップをかけた。


「よし、この辺でいいぞ」


 チャンスだ。ここで男を降ろして、隙をついて、逃げるしかない。


「じゃあ降下するんで、しっかり捕まって……」

「その必要はない」


 男が背後から、俺の首に何かをかけた。

 何だこれ、ペンダント?

 ペンダントについた石が、ぼんやりと青く光りだす。


「勝手に落ちるからな」

「え」


 手足からのジェット噴射が、突然止まった。


 え?

 止まっ、……え?


「でええええええ!?」


 悲鳴とともに、俺は真っ逆さまに落下した。


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