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40.マラッカ海峡より深ーい理由があるの!

今日から1日1回更新に戻ります。

どうぞよろしくお願いいたします!

 アカリちゃんとの待ち合わせ当日、俺は3時間前から校門で待機することにした。

 いいんだ、俺が3時間待つのは、別に。待たせるぐらいなら喜んで待つ。


 花壇の縁に腰掛けてぼんやりしていると、ユーゴとスタークが連れ立って歩いてくるのが見えた。

 まだ朝日が昇りかけの薄暗い中に俺を見つけて、ビクッとユーゴが身構える。


「っ!? ……なんだ、ルーカスか」

「どうしたんです、こんな早朝に」


 こっちの台詞だった。朝っぱらから2人して何してるんだ。

 いや、ナニしてたとか絶対聞きたくないから聞かないけど。

 俺がメンタルにスリップダメージをくらうだけで何の得もない。


「アカリちゃんとお出かけなんだ」

「こんな時間から?」

「いや、待ち合わせは3時間後だけど」


 俺の言葉に、2人が顔を見合わせる。

 そして呆れたように苦笑いした。


「それは楽しみにしすぎだろ……」

「さすがに引かれますよ、ルーカス」

「違うんだよ、これには深ーい、マラッカ海峡より深ーい理由があるの!」


 言ってから気づいたけど、別にマラッカ海峡って深くないな。深いのはマリアナ海溝だ。

 多分この世界にはマラッカ海峡もマリアナ海溝もないけど。


 奇行に思えるかもしれないが、俺にはアカリちゃんを待たせてはいけないという超深くて重大な理由があるのだ。

 決して楽しみだから3時間前から集合しているわけではない。


 楽しみか楽しみでないかで言うと楽しみだけども。

 楽しみではあるけども!


「ま、頑張れよ、ルーカス」

「頑張り過ぎない程度がいいと思いますが」


 俺の抗議をまるっと無視して、適当な激励とともに2人は去っていった。

 何だろう。誤解されている気がする。

 ……ま、いいか。どうせアカリちゃんとジャンが付き合うことになれば、誤解も解けるだろう。


 ぼんやりと空を眺めて時間を潰す。こういうときにスマホがないって不便だよな。


 今日のアカリちゃんの用件が恋愛相談にしろ、交際報告にしろ、俺がお役御免になる日も近い。

 そう思うと、何だか感慨深かった。ずいぶん長い夢だったなぁ。

 長かった分だけ、寂しいような気持ちになるのも当然だろう。


 2人の顔を思い浮かべる。

 アカリちゃんの笑った顔、困った顔、怒った顔。

 ジャンの怒った顔、困った顔、呆れた顔。


 ……うん。ごめん、ジャン。ちょっと反省する。


 俺は2人に幸せになってほしくて……いい奴が報われる世界が見たくて、ここまでやってきた。


 だからきっと、寂しいのは今だけだ。苦しいような、妙な心地がするのも今だけだ。

 ハッピーエンドを見届けたら、きっと。

 この痛みも、どこかに吹き飛んでいくに決まっている。


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