5.押して、押して、倍プッシュだ。
ジャンにガチで怒られたので、1回黙った。
しかしジャンは怒鳴って乱れた息を整えるばかりで話始める様子がないし、アカリちゃんも不安げな表情で俺とジャンの顔を見比べるばかりだ。
黙っていても仕方がない。俺が仕切りなおすことにする。
「はい、じゃあ改めて自己紹介! 俺はルーカス。侯爵家の長男だけど心は次男! 嫌いなものは幼馴染が当て馬になるラブコメ!」
「お、オレは、ジャン……っす。庶民の子どもとして育てられたけど、実は公爵家の御当主様がやんちゃして産ませた庶子……らしくて。分かったのはつい最近で、その。隠してたわけじゃ……」
「わ、私はアカリ。魔力が強いって理由で、一般庶民なのにこの学園に通うことになっただけの、本当に、ただの一般人で……」
目の前で縮こまるアカリちゃんを見る。
ごく普通の女の子だ。
こぞって男が言い寄るくらいだからどんな美少女かと思いきや、期待していたほどではない。
身長が低くて、華奢で。でもよく見ると整った顔立ちをしている。パーツは意外と、悪くない、のかも?
髪の毛はサラサラだし、縮こまったその背筋を伸ばしたら、結構スタイルも良さそうだ。
あれだ。眼鏡外したら可愛い、みたいな。ちょっとしたことで一気に垢抜けそうだ。
ふと思った。
こんなの、本当にまるっきり――男にとって都合がいいだけの、女の子じゃないか。
他の奴らは気づいてないけど、俺だけが気づいている可愛い女の子。そういうの、みんな好きじゃん。超好きじゃん。
眼鏡外して髪型変えたら大変身、みたいなやつ。その理由が俺のためならなお最高、みたいな。東城系といえばいいだろうか。
ちなみに俺は西野派ですね。フツーに最初っから可愛い方がいいもん。あと足が細い子がいい。
ジャンはルーカスや他のサポートカードの男たちと比べると顔面のキラキラ度と髪のハイライトの量では一歩劣るが、日本の高校にいたら十分イケメンの部類だ。
アカリちゃんと並んでいる様子もとてもお似合い感がある。
やっぱジャンにしといたほうがいいって。靴下裏返しで脱がないと思うよ、ジャンは。
まぁそうすると2人ともいい人過ぎて借金の保証人とかになっちゃいそうな気がするから、もうちょっとアカリちゃんには我儘を言えるようになってもろて。
それで2人でくっついてもろて。パン屋とか営んでもろて。
悪いが、この2人相手なら押した者勝ちだ。グイグイ押せば断りきれないことが容易に想像できる。存分に利用させてもらおう。
押してダメなら押すのだ。押して、押して、倍プッシュだ。