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閑話 アカリ視点(4)

「あれ? ルーカスは?」

「魔法学の授業の書き取りが終わらないみたいっす」


 お茶会の日、夕食の席にルーカスがいなかった。


 いつもスキップして現れるくらいご飯を楽しみにしているのに、かわいそう。

 ……と思ったけど、授業中に居眠りした罰の課題だから、やっぱり自業自得かも。

 ジャンは手馴れた様子で「お弁当持って行くことになってるから大丈夫」と言っていた。


 内心、ちょっとだけほっとする。王子様とあんな話をした後で、どんな顔をしてルーカスに会ったら良いか分からなかったから。

 ……でも、会えなくて残念な気持ちもあって……何だか不思議な感じ。


 ふと、ジャンと2人きりだということに気づいた。

 ルーカスには申し訳ないけれど……チャンスかもしれない。


「あのね、ジャン。相談に乗ってほしいことがあるの」

「何すか?」


 切り出すと、ジャンがきょとんとした顔で首を傾げる。

 誰かに話すのは何となく照れくさくて、心臓がどきどきした。

 だけど、誰かに……ううん。ジャンに聞いてほしい。そんな思いが胸にあった。


 意を決して、私は自分の気持ちを打ち明けた。


「私……ルーカスのこと、好きみたい」

「……はーあ」


 ジャンが一瞬目を見開いたかと思うと、とても大きなため息をついた。

 そして、呆れた顔で頬杖をつく。


「今更っすか?」

「え? え!?」

「そんなの、とっくに知ってるっすよ」

「えええ!?」


 思わず立ち上がる。

 周囲の人たちの視線がこちらに集まってしまったのに気づいて、慌てて椅子に座りなおした。


「な、なんで」

「見てたら分かるっす」

「うそ」

「ほんと」


 呆然としてしまう私を見て、ジャンがクスクスと笑っていた。


 私だって、王子様に言われるまで気づかなかったのに……ジャンは気づいてたの?

 じゃあ、……もしかして、ルーカスも!?


 そんな私の不安に先回りするように、ジャンがまたため息をついた。


「ルーカスは気づいてないと思うっすよ。相当ニブいんで」

「そ、そうなの?」

「でもそれ以外は皆気づいてると思うっす」

「う、うそ……」

「ほんとっす」


 顔が熱くなって、咄嗟に俯いた。

 言われてみれば当然かもしれない。2回会っただけの王子様にも伝わってしまうくらいだもん。

 なのに自分では気づいていなかったなんて、私ももしかしたら「相当ニブい」のかな。


 頭から湯気が出そうになっている私を見て、ジャンがからかいまじりに言う。


「気づくのが遅いのは置いとくにしても。『相談に乗ってほしい』とかアカリから言ってくるなんて、少し前までじゃ考えられなかったっす」

「……そうかな。いつも、ジャンには頼ってばっかりだったと思うけど」

「でも、自分から『何かして欲しい』って言ったこと、ほとんどなかったっすよ」


 今までのことを思い返す。

 確かに、ジャンに……というより、誰かに「何かして欲しい」ってお願いすることは、私にとってはすごく勇気のいることだったような気がする。

 そんなことをしようとも、思いつかないくらいに。


 そしてそんな私を助けてくれたジャンのやさしさに甘えていたんだと、初めて気がついた。


「ごめん。私、察してもらってばっかりだったんだね」

「オレもちょっと先回りしすぎてたかなぁって。最近は思うんすけど」


 そんなことはない、と思った。

 やさしさに気づかずに、任せてばかりだった私の問題だ。任せておくのがいいはずだと、何故か思い込んでいた私のせいだ。


 友達なら……対等な友達同士でいたいなら、一方的に任せてばかりいるのが、いいことのはずがないのに。


 過去の自分への後悔が募る。

 どうして私、平気だったんだろう。

 どうして私……そんなことにも、気づかなかったんだろう。


 反省している私を見て、ジャンが苦笑いした。


「ほんと、皆ルーカスのどこがいいんすかね。オレのほうがいい男だと思うんすけど」

「え? ルーカス、やさしいよ!?」


 咄嗟に言い返してしまった。

 だってルーカス、やさしいもん。

 確かにちょっと、変わってるかもしれないけど。私にとっては、かっこいいもん。


 やれやれとジャンが肩を竦める。


「趣味悪いっすよ、アカリ」

「ひどいよ、もう!」

「はいはい。で、相談の続きは?」


 からかいながらも、そう言って促してくれるジャン。

 頼んだのは私だけど……また頼ってばかりになっちゃうな、と思った。


 けれどそんな申し訳ない気持ちは、ジャンの次の言葉で吹き飛んでしまった。


「終わったら、オレの相談にも乗ってもらうっすからね」

「え?」


 ジャンの顔を見る。何でもないような素振りをしているけれど、少しだけ目が泳いでいるのを、私は見逃さなかった。

 相談って、もしかして、……恋愛相談!?


「ジャン、好きな人いるの!? だ、誰? 知りたい! 教えて、教えて!!」

「女の子ってほんと好きっすよね、こういう話」

「私は教えたんだから! ね、いいでしょ、ジャン!」


 ジャンに話の続きを急かしながら、ふとルーカスの言っていたことを思い出した。

 流されるばっかりで、今までそんなこと、考えたこともなかったけど。


 誰かに――特に、友達に頼られたら、確かに嬉しくなっちゃうね。


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