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33.ピンときた。ティンときた。

 寮の食堂で、アカリちゃんと2人で朝ごはんを食べる。俺は大盛。アカリちゃんは普通盛。


 ジャンは用事があるとかなんとか言って先に出て行った。

 さては昨日俺にあんな話をしたもんだから、アカリちゃんと顔を合わせるのが照れくさいに違いない。


 向かいに座って、小動物のような仕草でサラダを食べるアカリちゃんを眺める。


 確かにアカリちゃんは可愛い。

 地味めだなぁと思っていたけれど、ずっと一緒にいるとちょっとした仕草とかがやけに可愛く思えてくる。


 しかも最近とみに可愛くなっている気がする。

 少しずつ我儘――とまではいかないささやかなものだけど――や要望を口に出してくれるようになったのも嬉しい。


 ……が、それはそれだ。

 俺はあくまで、ジャンとアカリちゃんを応援する身だ。アカリちゃんが可愛かろうが何だろうが関係ない。

 アカリちゃんが、男にやさしさや愛情を搾取されるような都合のいい女にならずに済むなら何でもいい。


 最悪ジャンとはくっつかなくても――いやこれは本当に最悪の場合だけど――、いい。

 2人がむやみやたらと都合よく扱われないなら、それなりに幸せになってくれるなら、それで。


 アカリちゃんが顔をうつむかせると、さらりと髪の束が落ちてきた。

 それを手馴れた仕草で、耳に掛ける。小さな口を精一杯開けて、ソーセージを齧っていた。


 その様子をぼんやり眺めて、ふと思いついたことを口にした。


「アカリちゃん、最近なんか……雰囲気変わった?」

「え? そうかな?」

「うん。あ、髪切った? それか伸びた?」

「もう、どっちなの?」


 アカリちゃんがくすくすと笑う。

 小動物みたいだったさっきまでと打って変わって、アカリちゃんが急に大人びたように感じた。


 ピンときた。ティンときた。これは、もしかして。


「もしかしてアカリちゃん……恋、してる?」

「え?」

「言うじゃん、女の子は恋すると綺麗になるって」


 アカリちゃんの頬が、一気に赤くなった。

 俯いてもじもじしながら、小さく呟く。


「恋とか、よく分かんないよ」

「えー? ないの、誰が好きとか、気になるとか」

「……分かんない」


 ちょっと拗ねたように答えるアカリちゃん。

 いや、これは絶対心当たりがあるやつだね。話聞いたら「それ絶対好きじゃん!」ってなる系のやつだね。


 ジャンもアカリちゃんも、何で2人とも俺に恋バナしてくれないわけ? 俺のこと嫌い?

 もしくはアカリちゃんにまで「ルーカスに相談しても無駄」って思われてる?

 朝から悲しみが深い。部屋に戻って不貞寝していいかな。


 傷が深くなるのが嫌なので、じんわりと話題の軌道を修正する。


「分かんないって、アカリちゃん恋したことないの?」

「ない、と思うけど……変?」

「別に変じゃないけど。小さい頃とかも、好きな子とかいなかった? ほら、ジャンとかさ」

「ジャンは、友達だから……」

「友達から始まる恋、いいじゃん。アリじゃん」


 ジャンをオススメしながら、目玉焼きの残りを一気に口に放りこむ。俺は黄身を潰さずに丸ごといく派。

 いやほんとに、友達から始まったっていいと思うんだよ。訳の分かんない男に引っかかって時間浪費するより絶対いいって。


 寄生する気満々のヒモ男とか、無理矢理喧嘩に巻き込んでくるモラハラの気がある男とか、3時間待たせて「馬鹿」とか言う男とか。

 そういう男より全然いいと思うわけ。


 自分の台詞に自分でうんうんと頷いている俺を、アカリちゃんがちらりと見上げた。

 よっぽど恋愛関係に免疫がないらしく、まだ顔が赤いままだ。


「あの、ルーカス」

「うん?」

「わ、私、綺麗になった?」

「え、うん」


 アカリちゃんの言葉に、頷く。

 そういうの、気になるんだ。やっぱり女の子だなぁ。


「そう思うよ」

「ほんと!?」

「ほんと、ほんと」


 アカリちゃんが立ち上がってまで聞いていた。

 それがおかしくて笑うと、アカリちゃんはどこか嬉しそうにはにかんで、椅子に座りなおす。

 頬を染めて俯きがちになるアカリちゃんを見て、何だか少し寂しいような、胸が締め付けられるような気持ちになった。


 子どもの成長を見守る親って、こういう感じなのかな。

 産んだことないけど。


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