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32.相談するのか、俺以外の奴に!!

「俺はね。アカリちゃんみたいないい子には、幸せになってほしいわけ。それでジャンみたいないい奴にも幸せになってほしいわけ。そんだけなの」


 笑いかけると、ジャンが戸惑ったように視線を泳がせる。


「何で、オレのことそんな、いい奴だなんて思うんすか?」

「ん?」

「オレは……ルーカスが思うほど、善良な人間じゃ」


 ジャンの言葉に、俺は首を捻る。


 確かにジャンはまだ、アカリちゃんに嘘をついている。

 彼はずっと、自分が公爵家の落とし胤であることを知っていた。

 でもそれを隠していたのは、アカリちゃんとの間に距離ができるのが嫌だったからだ。


 そして初めてその権力を行使したのが、アカリちゃんと同じこの学校に来るため、である。

 本来魔力の強くない彼は、アカリちゃんのように庶民の身分のままではここに来られなかった。

 そのことを後ろめたく思っているのだろう。


 だが俺からしてみれば、それこそ「別に言わなくったっていい話」だ。

 むしろ、それだけピュアなハートでアカリちゃんのことを追いかけてきたということである。

 プラスにこそなれ、マイナスにはならない。


 何だよ、やっぱお前いい奴じゃん、としか思わなかった。

 それをそのまま、口に出す。


「お前はいい奴だよ、ジャン」

「そんなこと、分かるわけないっす」

「分かるよ。お前が知らなくっても、俺が知ってる。お前はついつい応援したくなっちゃうぐらい、いい奴だ」


 俺の言葉に、ジャンが目を見開いた。


 俺は知ってるんだよ。お前がアカリちゃんの幸せのために身を引いちゃうやつだってことも……お前が一緒に行動するだけで、体力5回復してくれることも。


 まだ文句ありげな顔をしているジャンの肩を、ぽんと叩いた。


「だいたい『自分がそんなに善良な人間じゃない』なんてことで悩むやつは、善良な人間だって相場が決まってんだよ」

「そ、うすか?」

「うん。だって俺、そんなことで悩んだことねーし」


 俺が胸を張ると、ジャンが「あー……」と頷いた。

 これで腑に落ちられるとちょっと俺が納得いかない気もするが、乗り掛かった舟だしな。開き直ることにした。


「俺が善良じゃなくても誰も困んないからな!」

「それは困ってほしいんすけど」


 ジャンが呆れたように笑う。やっと俺の応援の気持ちを分かってくれたようだ。


 せっかくジャンの方からそういう話を振ってくれたので、俺も恋バナを振ってみることにする。


「そういうジャンはどうなんだよ! いや待て、皆まで言うな。空気の読める俺にはばっちりしっかりくっきりはっきり分かってるぜ」

「こんなに一言一句信用できない台詞初めてっす」


 ひどい。言ってて俺もちょっと言い過ぎかなとは思ったけど。

 出来るだけ信用されそうな真面目な顔を意識しながら、ジャンににじり寄る。


「何でだよ、見ろよこの顔。イケメンだろ」

「はぁ」

「一回ちょっと中身のことは忘れて! フラットな気持ちで見て!」

「いやもうフラットな気持ちでは無理っすよ」


 無理とか言うな。


 正直俺がルーカスをやっている間に表情筋が発達しすぎて、もはやデフォルトルーカスの仏頂面ができなくなっている気がする。

 自分でも鏡見て「あれ? ルーカスってこんなへらへらした顔だっけ?」ってなることがあるくらいだ。


 でもまだ、まだイケメンと言って差し支えない顔面偏差値、のはず。


「イケメンってことはモテるってことだよ! もうモテモテよ! 恋愛経験豊富なルーカスさんには何でもお見通しなんだよ!」

「悲しい嘘はやめるっす」


 静かに諭された。やめろ。もっと悲しくなるから。


「その顔でモテてない人間から学ぶことはないっす」

「ええ……急に辛辣なこというのやめろよ……傷ついちゃったよ……」


 世間のイケメンはルーカスを反面教師にして、顔面に慢心せず内面も磨いて生きていって欲しい。

 あと世間のイケメンじゃない男子諸君も、内面を磨けば内面クズのイケメンには勝てるかもしれないので腐らず頑張って欲しい。


 あれ? 今の俺はルーカスフェイスのおかげでかろうじて「内面クズのイケメン」だけど、それじゃあ現実の俺って……


 やめよう。考えても悲しさが止まらないだけだから。

 泣いちゃうから。


「何だよ、親友じゃん。相談してよ、乗るよ? 超乗るよ?」

「……ルーカスにはしないっす」

「え、俺以外にはするの!? 相談するのか、俺以外の奴に!!」

「急にうるさくしないでほしいっす! 俺が隣の部屋の人に怒られるんすよ!」


 最終的に部屋から追い出された。

 恋愛相談してもらうには、ジャンの俺への好感度はまだ足りないらしい。


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