4.夢を見るならいい夢が良い
今日から1日1回、夜に更新していく予定です。
よろしくお願いします。
身支度をして……というかメイドさんたちに身支度をしてもらって……ホテルのビュッフェのような種類と量の朝食を取り、馬車で学園へ向かう。
メイドさんとか馬車とか。何だか全部が全部映画の出来事のようで、まったく実感がない。
いや夢だからかもしれないけど。
前髪をヘアピンで留めて額を出した俺を見てメイドさんが悲鳴を上げていたけど、こんな前髪下ろしていたら目が悪くなる。
第一印象は7秒で決まるらしいし、8秒後にはきっと見慣れてくれたことだろう。
学園に着く。
うーん、ゲームで見た背景だ。
ゲームと同じだとすると、ここにはアカリちゃんやジャンがいることになる。
そうか。どうせ夢ならいっそ、しっちゃかめっちゃかにかき回してしまうのはどうだろう。
俺の気に食わない部分を改変してしまうのはどうだろう。
だって俺の夢なのだ。俺に都合がよくして、何が悪い。
夢を見るならいい夢が良い。いい夢を見て、目覚めよく起きたい。
アカリちゃんが3時間も待たされたらキレて帰って、教科書も捨てられずに済んで、あわよくばジャンといい感じになる。そういう筋書きの夢がいい。
良い奴が報われて、良い思いをする、そういう夢が良い。
現実ではそうもいかないんだから、夢でくらいそういうことがあったっていいじゃないか。
それこそ、その方が夢があるじゃないか。
「うう、大丈夫かなぁ……私たち以外、皆貴族の人ばっかりで……」
「大丈夫っすよ。勉強しに来たんだし、周りのことなんか気にしちゃだめっす」
歩いていると、聞き覚えの無い声と、聞き覚えのある声との会話が聞こえて来た。咄嗟に振り向く。
見覚えのない女の子と、見覚えのある男の子が話をしていた。
男の子は、ジャンだ。パラメータを教えてくれる系の当て馬幼なじみ。サブイベントで何度も聞いた声だ。
……ということは、一緒にいる女の子が。
気付くと体が動いていた。
二人に駆け寄る。こちらに気づいた二人が目を見開くのに構わず、俺は口を開いた。
「よッ! 初めましてお2人さん。俺の名前はルーカス! 身長178センチ、体重65キロ、体脂肪率多分1桁。足のサイズは26センチ、好きな食べ物は冷奴、好みのタイプは足が折れそうなくらい細い子! 呼びタメOKなんで、気軽によろしく!」
「えっ!? あ、あの」
アカリちゃんが困った様子で俺を見上げる。
しかし、逃げるでも悲鳴を上げるでもなく、もちろん「急に何よ!」と怒るでもない。むしろ会話をしようとしてくれている。
ダメだ。これじゃダメだ。
俺という不審者を前にしての反応がそれでは、先が思いやられる。
ナンパは無視が鉄則なのだ。相手をしてはいけない。
「なっ、何なんすかいきなり!」
アカリちゃんを守るように立ちはだかるジャン。
これが正しい反応だろう。たぶん正しすぎて結局「いい人」止まりなんだと思うけど。
ジャンのもっともな訴えをスルーして、俺は首を傾げて見せた。
「あれ? まだ情報足りない? 友達になるのに他になんかいる?」
「いやあの友達っていうか」
「とりあえず帰り一緒にクレープとか食べる? そんでタグ付けしてストーリーアップする? あ、Tiktok撮る?」
「て、てぃっく……?」
「あ、あんたね!」
また返事をしようとするアカリちゃんを遮って、ジャンが不審者を見るような目――というか不審者そのものだが――で、俺を睨む。
「ルーカス様? は良いかもしれないっすけど、オレたちはそういうの、困るっていうか」
「なーんだよジャン、様とかよそよそしいよ、友達だろ」
「勝手に友達にならないでほしいっす!」
「あ、走る? 夕陽に向かって」
「何で!?」
「え? そしたら友達になれるっしょ」
「何で!!??」
俺のふざけた態度にもいちいち付き合ってくれるジャン。お前ほんとにいいやつだな。幸せになれよ。
「だいたいさぁ、ジャンだってあれじゃん? 公爵家の落とし胤、だっけ? それ系のあれじゃん?」
「え?」
「は!?」
「あ」
やば。
ネタバレしちった。
これもっとストーリーの後半で分かるやつだ。ジャンのサブイベントで出てくるやつだ。
ちなみにジャンはそこでアカリちゃんに「それでも友達でいてくれるっすか?」とか聞いたりする。
お前そこは友達じゃないだろ! まったく、そういうところだぞ!
まぁ言ってしまったもんは仕方ないな。
言った言葉は戻らないし、もとよりアプリゲーだ、戻るボタンは効かない。ならば突き進むだけである。
「ジャンとアカリちゃんは仲良しなわけじゃん? じゃあ俺もその枠でお願いしまーす!」
「え、あの、ジャン!? ほ、ほんとなの!?」
「それは、……」
「はいほんとでーす! ルーカス嘘つかない!」
「ちょっと! 一回黙るっすよ!」