23.次男には耐えられないことがいっぱいある
「あーあ、またやっちまった」
「……どうしたの、兄さん」
エントランスでべろべろになった靴の底を眺めてため息をついていると、マルコに声をかけられた。
振り返って、俺は彼にも見えるように両手で靴を掲げて見せる。
「いや、高速移動を身につけたはいいんだけどさ。そのたびほら、こんな感じで靴の底に穴が開いちゃうんだよなぁ。かといって替えの靴何足も持って歩くのは邪魔だし」
「……火を出す前に、脱げばいいんじゃ……」
「あ」
呆れた顔で言ったマルコを、両手で指差す。
ぼとりと靴が床に落ちた。
「それだわ。お前天才」
「は?」
「マジ頼りになるわ、俺の弟」
ぐりぐりとマルコの頭を撫でる。
言われてみれば当然である。靴も靴下も脱いでから炎を出せばよいのだ。
一秒を争うような緊急時以外、靴を脱ぐ時間ぐらいは余裕であるはずだ。
マルコが俺の手を振り払った。
「そ、それより、兄さん」
あれ? 今こいつ、俺の悩みを「それより」とか言った?
だが、俺はそんなことでいちいち目くじらを立てたりしないのだ。何故ならお兄ちゃんだから。
「まだあの庶民たちと付き合ってるんだって? いい加減、周囲にどういう目で見られるかを考えて行動したほうがいいよ」
「んだよ。俺が誰と友達になってもマルコには関係ないだろ」
むしろ、今まで友達0人だったお兄ちゃんに友達が出来たことを喜んでほしいくらいだ。
いやもし兄弟に「友達できたの!? やっと!? おめでとう! 今夜はお赤飯ね!」とか言われたらそれはもう戦争の始まりでしかない気がするけど。
どう考えても煽ってんじゃん。
「関係あるよ。兄さんはこの歴史ある侯爵家の跡継ぎなんだ。それが庶民と親しくしているなんて」
「え? 俺継がねーよ?」
「は?」
「だから、俺、家継がない」
俺の言葉に、マルコが目を丸くする。口も開きっぱなしだ。
いつか言ってやろうと思っていたんだ。俺は侯爵家、どうでもいいよって。
長男としてとか跡継ぎとしてとかの面倒くさい諸々を全部マルコにひっかぶせるチャンスと見て、俺は畳み掛ける。
「いやほんと、メンタルが次男なんだよ。長男向いてない。次男には耐えられないことがいっぱいあるよね、世の中って。長男だったら耐えられるかもしれないけど、俺には無理無理」
姉ちゃんには腹が立つことばかりだが――そして兄ちゃんは我が家では空気だが――、じゃあお前が長男になれと言われたら、俺は慎んで辞退する。
門限、バイト、お小遣い。親とのバトルを経て、そのあたりの活路を切り開くのはいつも姉ちゃんだ。
俺は開拓された後の道を悠々と歩くくらいでちょうどいい。




