22.まったく、誰だ。変態を連れてきたのは
「ってわけで、ついてきちゃったんだよねー、王子様」
「何一つどういうわけか分からないんすけど!?」
「ついてきちゃった」
「ヘンリー殿下にそんなノリで来られても困るっす」
屋上にヘンリーを連れて行くと、ジャンが俺の胸倉を掴んでがくがくと揺さぶってきた。
いやぁ、最近すっかりジャンが普通の友達みたいに接してくれて嬉しいなぁ。何となく俺の信頼度がどんどん下がってる気がするけど。
いやでも、ジャンは人の世話を焼きたいタイプだし、何だかんだ言いながら仲良いよね、俺たち。
ねっ? ……ねっ!?
アカリちゃんはぽかーんとしている。もしかしたら王子様を見るのは初めてなのかもしれない。
まぁ、王冠もかぼちゃパンツも白馬もないとただの優しげなイケメンだけど。
「アカリの魔力目当てだったらどうするんすか?」
「うーん。俺もあの人よく分かんないんだよね。どう思う? ジャン。リコーダーとか舐めると思う?」
「何の話っすか!?」
よかった。この反応ならジャンは舐めなさそうだ。
俺は信じてたよ、ジャン。
「初めまして。僕はヘンリー。一応王族の末席にはいるけれど、継承権は絶対に回ってこないから、あまり気にしないで」
「無理っす」
ヘンリーがアカリちゃんとジャンにそれぞれ握手を求める。
アカリちゃんは戸惑いながらも、流されるままに握手をしてしまっていた。
Noと言える日はまだ遠そうだ。
「そういえば」
ヘンリーがジャンと握手をしながら、ふと思い出したように切り出した。
初対面の俺とは握手をしてくれなかったジャンまで、雰囲気に押されて握手に応じている。
やっぱりコミュ強っぽいな、この王子様。
「君は僕と同じ、風属性の魔法が使えるんだって?」
ヘンリーの言葉に、ジャンが僅かに息を飲んだのが聞こえた。
どうして知っているのか知らないけど、ジャンの魔法適性は確かに風属性だ。
ヘンリーが魔法を使っているシーンはあまり見た覚えがないが、風属性だったのか。
さもありなん、魔法適性は遺伝することが多い。
ジャンは公爵家のご落胤と言う設定で、ジャンとヘンリーはそう遠くない親戚関係にある。
同じ属性であっても不思議はない。
「この国の王族には風属性の魔力を持つものが多いのだけれど……」
「…………」
「面白い偶然だね?」
にこりと笑いかけるヘンリー。それを聞いて、ジャンのサポートカードのイベントに似たような展開があったのを思い出した。
ジャンの素性をヒロインに匂わせる伏線のようなものなのだが……大変申し訳ないことに、すでに俺がネタバレ済みだ。
だいたいそんな大事なネタをサブイベントでやるな。
製作陣からの「こいつはサブキャラだから!」という圧を感じる気がする。
可哀想なジャン。
「……ルーカス」
袖を引かれて振り向くと、アカリちゃんが俺に手招きしてきた。
身を屈めると、こっそりと耳打ちされる。
「どうしよう。ジャンのこと、王子様にバレちゃうんじゃ」
「別にいいでしょ、バレても」
慌てた様子のアカリちゃんに対して、俺はどっしり構えていた。
ていうか先生たちも知っているくらいだし、ヘンリーも知っているんじゃないだろうか。
はっきりじゃなくても、薄々くらいは。
「よ、よくないよ! 公爵家って、王族の親戚でしょ? ジャンが貴族の人に連れていかれちゃうかも……!」
「そんな、シンデレラみたいなことあるかなぁ」
「しんでれら?」
「あれ、シンデレラ知らない? あの、王子様に見初められて、召使みたいな扱いされてた女の子がお城に……」
「お城!? お城に連れていかれちゃうの!?」
「…………」
アカリちゃんとこそこそ喋っている俺を、ジャンがじとーっとした目で睨んでいた。
睨むなよ。ごめんって、勝手に灰かぶり扱いして。
そしてそんなジャンとアカリちゃん、俺を見渡して、にまーっとヘンリーが笑う。
「なるほど、なるほど。そういう感じなのか」
何が「なるほど」か分からないが、ヘンリーが一人でしきりに頷いている。
何だろう。雲行きが怪しくなってきた。
「イイね。すごくイイ」
やたらと嬉しそうなヘンリー。やっぱりあれか。変態王子様なのか。
優しいだけのイケメンは存在しないのか。
「あ、あの……?」
「シッ! 見ちゃいけません!」
心配して声を掛けようとしたアカリちゃんを遮った。
アカリちゃんの情操教育に悪影響があるといけない。
まったく、誰だ。変態を連れてきたのは。
「ルーカス。お昼食べないと時間無くなるっすよ」
「そ、そうだな! 食べよ食べよ!」
ジャンの助け舟で一人で笑っているヘンリーを放置することを決めて、バスケットを開く。
ジャンとアカリちゃんの持ち寄ったお弁当のパンもあわせて、3人で食べ始めた。
ヘンリーの視線が、俺が齧っているパンに向く。
「それは?」
「これ? アカリちゃんとジャンのお弁当のパン。これめちゃくちゃ腹持ちいいんだよ。噛み応えも癖になる感じだし。サーターアンダギー並みに口の中の水分持ってかれるけど」
「ふぅん」
ヘンリーはじっとパンを眺めていた。王族には珍しいパンなのかもしれない。
そういえば俺も、2人のお弁当以外では食べたことがない気がする。
「あの。王子様も、食べられますか?」
やさしすぎるアカリちゃんが、物欲しげにお弁当を検分していたヘンリーに声を掛ける。
ダメだよアカリちゃん。変態はやさしくすると懐いてくる恐れがあるよ。
厳しくすると懐いてくるタイプの変態もいるから、もう正直どうしようもないけど。
「お気遣いなく。僕はもう、お腹いっぱい楽しんだから」
にこりと笑って返すヘンリー。
食堂で会ったときには、もう何か食べた後だったのだろうか。
何が楽しいのか、ヘンリーは俺たちが食事をする様子を機嫌よく笑って眺めていた。




