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21.ただの優しい男など、登場するはずがない

「ルーカス?」


 食堂でバスケットを抱えていると、聞き覚えのある声に呼び止められた。


 声の主はヘンリー。デッキに編成しているサポートカード「SSR 王子様のお茶会++」のキャラクターだ。

 黒髪に青い瞳の王子様系キャラ……というかリアル王子様である。

 第3だったか第4だったか忘れたけど、それくらいの。


 何となく見た目のキラキラ度もルーカスより盛ってある気がする。

 白馬とかぼちゃパンツを装備していても違和感がなさそうだ。

 ハイライトのレイヤー枚数もきっとものすごいことになっているに違いない。白黒だったらツヤベタ作業をするアシスタントが息切れするレベルだ。


 カードの性能は「すべてのパラメーターの上昇率にバフをつける」という性能で、シエルのようなぶっこわれカードと比べると効果量は控えめだが、その分使う場所を選ばない。


 サブイベントの選択肢に体力回復効果とテンションアップ効果があるのも無難に嬉しい。

 初心者から上級者まで使いやすい、オールマイティーな一枚である。


 ちなみにこの知識はマジで何の役にも立たない。


「どうしたんだい、その大荷物」

「あ、これ? ヤバいっしょ」


 バスケットを開けて中を見せる。

 ハムやらトマトやらたまごやらレタスやらがたっぷり挟まった色とりどりのサンドイッチと、バターの香りが漂うマフィン、カットしたりんごやオレンジなどのフルーツがぎっしり詰まっていた。


 少なく見積もっても2人分はゆうにある。

 女の子だったら3人でも厳しいかもしれない。


「俺がボリューム増やしてって頼んだせいなんだけどさ。一回増やしてもらって完食したら、次また量が増えてて。で、完食するじゃん? また増えるじゃん? 食べるじゃん? んでイマココって感じ」

「一人で食べるの? 全部?」

「最近はアカリちゃんとジャンと3人がかりで食べてるけど。さすがに午後眠すぎてヤバい」

「残せばいいのに」


 ヘンリーがくすくすと笑う。


 基本的に全人類に対してタメ口のデフォルトルーカスに習って、先輩相手でも身分が上の相手でも、タメ語で話すようにしている。

 シエルにタメ口を利くのは、ふわふわ不思議くんが相手なのでまったく抵抗はなかった。


 しかし今回の相手は王子様だ。キレられたりしたら嫌だなと内心ヒヤヒヤしたものの、今のところその様子はない。

 ずいぶんと気さくな印象だ。


 友達って感じではなかったけど、ゲーム内でもルーカスのメインストーリーにちらちら出てきていたし、ルーカスともそれなりにうまくやっていたのかもしれない。

 皆に心配されるほど感じが悪そうなルーカスとうまくやれるとか、すごいな。

 コミュ力お化けというやつだろうか。


 そういえば、この王子様はサポートカードのイベントでも、特にアカリちゃんにひどいことをしていなかったのを思い出した。

 攻略サイトによると、メインストーリーもまだ実装されていないらしい。


 もしかしてルーカスやシエルよりは害のないイケメンなのでは、と騙されかけて、慌てて思い直した。


 油断してはいけない。

 女性向けゲームにただの優しい男など、それこそ当て馬以外に登場するはずがない。

 しかも王子様である。ただの優しい王子様であるはずがない。


 こういう人当たりのよさそうなイケメンはたいてい腹黒ドSと相場が決まっている。

 それか、とんでもない変態性癖を隠し持っているか、だ。


 意中の女性の盗撮写真を部屋中に貼りまくったり、カメラを仕込んだぬいぐるみをプレゼントしたり、ベッドの下に潜むぐらいのことはしていてもおかしくない。


 イケメン王子様ならそのくらい余裕でこなせることだろう。

 逆に「してそう」まである。完全に偏見だけど。


 愛が重めの変態はアカリちゃんの情操教育に悪影響だ。

 やっぱりアカリちゃんにはジャンがぴったりくるんだよ。

 ジャンはアカリちゃんのリコーダー、舐めないと思うよ。俺は信じてるからね、ジャン。


 変態王子様(仮)の言葉に、俺は肩を竦めて見せた。


「食べ物残すの嫌なんだよね。しかも向こうは善意でやってくれてるわけじゃん? そう思うと何かもう、イケるとこまで行くか! みたいな気分になってきて」

「シエルやソフィアから聞いたとおりだな。君、頭でも打った?」

「性格変わるほどの勢いで頭打ったらそれはもう死ぬのよ」


 揃いも揃って失礼な奴らである。

 デフォルトルーカスと比べたら俺のほうがまだマトモな人間性をしていると思うので、「変わった」のではなく「成長した」と言ってもらいたい。


「いや、もうツンツンしてクール系? とかそういうの、卒業した、みたいな? あるじゃん、そういう時期。お母さんにババアとか言うのがカッコいいと思っちゃう時期。大人になったのよ、俺も」

「ふぅん」

「興味なしかよ」

「いやいや、あるよ。大いに」


 ヘンリーがまた、おかしそうに笑う。


 口が裂けても母親に「ババア」とか言わなさそうな、お上品な笑い方だ。

 何かくしゃみとか小さそう。した気にならないだろ、そんなくしゃみじゃ。


「君とは長い付き合いだからね。つまらなそうな顔をしているより……今の君の方が、ずっと興味深いな」

「そりゃどーも」


 珍獣扱いを甘んじて受け入れて、俺は肩を竦めた。


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