2.脳死周回
連打しながら、自分のスマホで「恋と魔法のセカイで約束を」の攻略情報をググる。
親愛度ポイントを稼ぐメインの手段は、今回のイベント報酬でもあるルーカスのストーリー周回だ。
主人公が魔法学校に転校してきてから、ルーカスといい感じになるまでの1年。これを繰り返す。
ターンを消費してパラメータを上げ、3ヶ月ごとにある足切りのイベントをクリアしながら、ルーカスの親愛度ポイントを貯めてBestエンドを目指す。
Bestエンドを迎えると親愛度ポイントにボーナスがつくからだ。
そしてストーリー周回には、メインであるルーカスの他に4枚のサポートキャラクターカードを編成したデッキが必要になる。
デッキに編成するカードはパラメータ上昇率を上げたり、サブイベントを熟してパラメータを上げたりなど、周回の効率を考えるとかなり重要なファクターだ。
調べたところによると、姉ちゃんのデッキは予想通りと言うかなんというか、廃課金デッキであった。
現環境の理想編成らしい。人権とか言われているカードはほとんど持っていた。
そう思ってみると並んでいるイケメンたちの顔が途端に諭吉に見えてくる。
何諭吉分なんだ、これ。考えるだに恐ろしい。だって突き詰めたらJpegじゃん? これ。
連打しているだけだが、テキストくらいは目で拾えるのでメインストーリーとサブイベントの流れは何となく理解できた。
そして思った。
これ、ヒロインいい子過ぎじゃね?
何3時間待たされて素直に待ってんの?
帰れよ。帰っていいよ。
雨に濡れながら待つなよ。
帰れよ。あったかくしてろよ。
おかしい。女性向けゲームのはずなのに、なんでヒロインがこうも男に都合のいい女の子なんだ。
これ、果たしてプレイヤーはちゃんと感情移入出来るのか?
うんうん、待つよね3時間! ってなるのか? ならないだろ。
だって姉ちゃん、3時間待たないもん。
絶対帰るもんあの人。
それに比べて男の方、そんなに尽くしてやりたくなるほどいい男か?
いや確かにイケメンだよ、そりゃ二次元なんだから当たり前のようにイケメンだよ。
髪の毛のハイライトめちゃくちゃツヤツヤだよ。ハイライトのレイヤー5枚くらいあるよ。
でも全く魅力的に思えない。
3時間も待たせた挙句開口一番のセリフが「馬鹿だな、こんなに冷えて……」って何なんだお前。
馬鹿はお前だ。まず土下座だろ。謝れや。
世間の女子は、現実で3時間待った相手にこれ言われてもキレないのか? ただしイケメンに限る?
男のパラメータを教えてくれる友人ポジションの男……ジャンのほうがよほどいい男に思えてならない。
だってあいつ一緒に行動するだけで体力が5回復するし。失敗イベント踏んでも確率でパラメータの下降防いでくれるし。
なんて良いやつなんだ、ジャン。
だがこういう幼馴染のいいやつは所詮当て馬なのだ。
助けるだけ助けて、優しくするだけ優しくして、最後は他の男に持っていかれる。
そしてヒロインの幸せを祝福する。
焼肉で育てた肉を他人に食われるようなものだ。気の毒でならない。結局顔か? 顔なのか?
良い人は都合の良い人でしかないのか? 良い人なんだけど、……それだけなのよね、とか言われるのか、結局。
結局そういうアレなのか、女の子は。
いやそれで言ったらヒロインのアカリちゃんだって相当に都合のいい女なのだが。
最初ツンケンした態度だった男たちにちょっと優しくされたくらいでキュンキュンしてしまうとか、そのうち壺とか買わされそうな騙されやすさである。
ジャンの方が結婚したとき絶対いい旦那になると思うよ。皿とか風呂とか洗うと思うよ、こいつは。
ルーカスは洗わないだろ、絶対。
脳死周回とか言われたけど俺はあと何回アカリちゃんを雨の中3時間待たせたらいいわけ?
アカリちゃんは何回教科書をゴミ箱に捨てられたらいいわけ?
こんなに良心が咎める周回があってたまるか。
と思っていたが、だんだんただ画面をタップをするだけのマシーンと化してきた。
脳って簡単に死ぬんだな。慣れって怖い。
徐々に視界がぼんやりしてくる。
いかん、寝たら確実に殺される。
間違いなくプチっといかれる。蚊のように。