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17.「無」はどう選んだって「無」だ。

「兄さん。最近、様子がおかしいんじゃない?」


 家の廊下を歩いていると、マルコに呼び止められた。

 マルコはルーカスの弟である。

 

 後妻の子でルーカスとは腹違いらしいけど、顔つきは結構似ていると思う。

 髪が茶色なくらいで、2~3歳ルーカスを若返らせたらこんな感じじゃないだろうか。

 今だって高校生だから、十分若いけど。

 

 大学生になって分かった。高校生って若いよね。

 あるよね。20歳超えるかどうかのところに、マリアナ海溝より深ーい溝がさ。


「皆そうやって言うんだよなぁ。俺そんなに変わった? 春が来て兄さん綺麗になっちゃった?」

「ほら、そういうところ。前までは、とても冗談が通じるようなタイプじゃなかったのに」


 俺はへらへら笑いながら、マルコに歩み寄る。

 マルコは貼り付けた笑顔で、一歩後ずさった。

 

 残念なことに、弟に嫌われているんだ、俺。ていうかルーカス。

 下の兄弟っていなかったからちょっと憧れてたんだけど、こういうぎすぎすしたのはお呼びでない。


 そう思うと俺っていい弟だよな。姉ちゃんの言うことちゃんと聞いてあげてるもん。

 やっぱ俺、弟の方が向いてるわ。

 しょうがないよね。生まれ持ったものだから、こればっかりは。


「これも……最近学校で関わっているっていう、変わったお友達の影響?」


 空気が読めるタイプの俺は、「変わったお友達」という言葉に込められた嫌悪感を察知する。


 お前アカリちゃんのメテオ見ても同じ口利けるのかよ。

 いやアカリちゃんはいい子だから脅しでメテオ打ったりしないけど。

 打っちゃえばいいのに。


「友達は選んだほうがいいよ。……兄さんは、侯爵家の跡取りなんだから」


 そう言い残して、マルコは自分の部屋へと引っ込んでいった。


 嘲笑交じりで嫌味っぽく言われても、俺にはまったく響かない。

 何故かといえば……侯爵家がマジのマジでどうでもいいからだ。


 そう。俺は別に、侯爵家を継げなくたって何にも困らないのだ。

 だってこれ、夢オチだもん。


 デフォルトルーカスにとってそれがどれほど大事なものなのかなど、知ったこっちゃない。

 いいじゃん、別に死ぬわけじゃなし。すぐ「フン」とか「馬鹿」とか言っちゃう社交性皆無のルーカスより、外面だけでも良さそうなマルコのほうが向いてるよ。


 仮に侯爵家を追い出されたとしても、こちとら五体満足元気いっぱいな男の子だ。

 魔法だってあるし、本気になれば自分の食い扶持くらい何とでもなるんじゃないか。


 顔がいいんだし、ホストでもやれば? 社交性はないけど、火も出せるし。

 タバコに火をつける係として雇ってもらいなよ。シャンコだけ参加させてもらいなよ。


 大体デフォルトルーカス氏は友達を選んでいる場合じゃない。まず作るところからのスタートだ。

 0人で選ぶも何もあるものか。「無」はどう選んだって「無」だ。


 そんないつのことかも分からない未来の話より、俺は目先のことをどうにかする方を選ぶ。

 目下数ヵ月後、アカリちゃんみたいないい子を雨の中3時間待たせないために頭を使いたい。

 俺は考えを巡らせながら廊下を歩く。


 ルーカスがアカリちゃんを3時間も待たせる発端となる出来事を起こすのは、このマルコである。


 彼は折り合いの悪かったルーカスを陥れて、自分が侯爵家を継ごうと画策する。

 そこで、ルーカスが家の事業で取り扱っている重要な機密情報を他人――主にアカリちゃんとか――に漏らしているというデマをでっち上げて、ルーカスを追い詰めるのだ。


 ルーカスはその誤解を解くために東奔西走、やっとマルコが悪さをしたという証拠を手に入れるが、それを嗅ぎつけたマルコが差し向けたごろつきに絡まれ、どったんばったん大騒ぎ。

 それが都合の悪いことに――ストーリー展開上は非常に都合のいいことに、アカリちゃんとの約束があった日だったのだ。


 その結果、3時間待たせた挙句の「馬鹿だな」に繋がる。

 何回だって言う。馬鹿はお前だ。


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