16.俺への信頼度、初期値のままなの?
その後いろいろあって、何とシエルは飛び級で卒業することになった。
いやありすぎだろ、いろいろ。
でもその説明は俺に求めないでほしい。だって俺がよく分かってないから。
当のシエル本人ですら、「これからは好きな時に寝て、好きな時に起きていいんだってー。やったー」とかいう能天気なコメントをする始末だ。
いいのかそれで。
「アカリちゃんのおかげだよ、ありがとー」
「え」
「アカリちゃんの声に籠った魔力が、ボクの脳波を活性化させたみたいなんだよねー。先生曰くー、魔力の相性とかー、読んだ本の内容とかー。そういうの、天文学的な確率らしいよー」
シエルはそう言ってへらへら笑っている。
俺は咄嗟にアカリちゃんを背後に庇った。
このヒモ男、「アカリちゃんのせい」の次は「アカリちゃんのおかげ」ときた。
アカリちゃんを食っちゃ寝生活のお供に引っ張っていく気に違いない。そうはさせるか。
と思ってアカリちゃんの様子を窺うと、何故かジャンがアカリちゃんを背に隠していた。
シエルからではなく、俺から庇うように。
よく見ると2人とも、不審者を見る目で俺を見ている。
……あれ? 何で?
「シエル先輩の撃退方法考えたの、ルーカスっすよね? それをアカリに教えたのも」
「あの本選んだの、ルーカス……だよね?」
「え? え??」
ジャンがアカリちゃんを連れて俺から距離を取る。ジト目で俺を睨んでいた。
アカリちゃんも「まさか……!」という表情で口元に手を当てている。
いや、いやいやいや。確かにそうだけど。
それだけ並べ立てると俺が怪しいかもしれないけど。
ここまで2カ月くらい、一緒にやってきた仲じゃん。仲良くやってきたじゃん。
俺の信用、そんな一瞬で地に落ちる? 俺への信頼度、初期値のままなの?
「そーなんだぁ。じゃあ、ルーカスのおかげかー」
「ややこしくなるから黙って、マジで」
へらへら笑いながらシエルが口を挟んできた。
やめて、本当に。信用を得るよりも失った信用を取り戻すほうが大変なんだから。
俺がマジでやめての顔で睨むと、シエルは殊更面白そうにけたけたと笑った。
「あのルーカスが、他人にどう思われるか気にするなんてー。人って変わるものだねー」
不思議くんにこの言われようである。デフォルトルーカス、大丈夫か、お前。
他人にどう思われるかはちゃんと気にした方がいいと思うよ。人間社会で暮らしていくんだからさ。
人と言う字は支え合って云々かんぬん、人は一人では生きていけないのだ。
「キミの思い通りに行くかは分かんないけどー、何だか、面白いことになりそうだねー。ボクは邪魔しないからさー。それじゃー、ばーいばーい」
そんな意味深な予言と気の抜けた挨拶を残して、シエルは去って行った。
挨拶はともかく、予言の内容が悪すぎた。意味深すぎた。
俺が何かを企んでいて、わざとアカリちゃんをけしかけたと思われたらしい。
いや、企んではいるけど。アカリちゃんに我儘を言えるようになってもらおうとはしているけど。
でもそれは2人にも言ったじゃん。ジャンも賛成したじゃん。
その後、2人の誤解を解いて信用を取り戻すため、俺はそれはもう多大な労力を費やす羽目になった。
あの不思議系ヒモ男、サポートカードのはずなのに、何故俺の体力を減らしに来るんだ。
もしかしてバフがアカリちゃんに、デバフが俺にかかっているんだろうか。
……バグでは?




