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15 .逃げるは恥だが何とやら

「nが3以上の整数である場合、方程式xのn乗とyのn乗の和がzのn乗となる自然数の解は存在しないという定理について、『余白がないため証明は省略する』との記載があり、それ以降数多くの数学者がこの定理(※なお、定理という用語はこの場合適切ではなく、本来は予想とすべきである)の証明に挑んでいるが、未だに証明されておらず……」


 放課後先生に呼び出されて――用件は「最近様子が変わったけど大丈夫?」とのことだった。デフォルトルーカス氏よ、先生からそんなことを言われるなんてどれだけ心配をかけていたんだ――急いで待っていてくれるアカリちゃんの元へ走っていると、何やら難しげな文章を読み上げているのが聞こえて来た。

 アカリちゃんがシエル撃退法を実践しているらしい。


 これ、あれだな。ナントカの最終定理だ。

 この世界ではまだ証明されていないらしく、数学者が余白に書き残した文章として残っているらしい。

 中学校の頃、中二病を発症して教室でこの証明の本とか読んでいたから分かる。


 ちなみにカッコつけて読んでただけで内容はビタイチ分かっていなかったし、高校は普通に文系に進学した。

 今思うと何だったんだろうな、あれは。本当に。


「むにゃ……モジュラーではない楕円曲線……うーん……」

「え?」


 寝言を言ったかと思えば、シエルがむくりと身体を起こした。

 そしてふああと大きな欠伸をして、寝ぼけ眼を擦りながらこちらを向く。


「紙、あるー?」


 よく分からないまま紙とペンを手渡すと、シエルは何やらガリガリとすごいスピードで書き始めた。

 思わずアカリちゃんと顔を見合わせる。何だ、急に。


 ていうか素早く動けるんじゃないか。

 普段ののんびり不思議くんはもしかしてキャラづくりでやっているのだろうか。


「はい」


 書き終わった紙を差し出される。

 いや、渡されても。


 とりあえず、アカリちゃんの代わりに受け取った。

 何やら数式やらグラフのようなものやらが書かれているが、まったくもってちんぷんかんぷんだ。


「解けたよー」

「え?」

「その本の、ナントカって定理」


 言われて、紙に視線を落とす。うん、やっぱり分からない。


「ルーカス? シエル先輩に捕まっちゃったんすか?」

「ジャン! ちょっと数学の先生呼んできて!」

「え? 何すか? オレ今来たとこなのに……人遣い荒いっすよ、もー」


 ぶつくさ言いつつもジャンが呼んできてくれた数学の先生に、シエルが書いた紙とアカリちゃんが読み上げていた本を手渡す。

 最初は面倒くさそうにしていた先生の顔色が、見る見るうちに変わっていった。


 どたばた大騒ぎが始まる予感を察知して、俺はアカリちゃんとジャンの肩を叩くと、3人連れ立ってそっとその場から逃げ出した。


「る、ルーカス、これって……」

「とにかく逃げよう。逃げるは恥だが何とやらって言うし」

「ちょっと、何が起きてるかちゃんと説明してほしいっす!」


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