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14.最悪の場合はメテオを打ってもらうしかない

「……わかんないよ」


 ぽつりと、アカリちゃんが零した。

 俺に返事をしたと言うより、思わず口から出てしまった、といった様子だった。


「急に、貴族の人ばっかりの中で、何が失礼で何がそうじゃないのかも分かんないし」


 アカリちゃんの言葉を、黙って聞く。

 失礼云々を言い出したら、俺だっていろいろやらかしているのかもしれない。

 最近家族の視線が冷たい気もするし。まぁ元から弟とは折り合いが悪いという設定だったみたいだけど。


「魔法だって今まで使ったことなかったのに、気づいたらものすごく大きな魔法まで使えるようになってて、怖いし」


 それに関しては本当に申し訳ないと思っている。

 「うちの姉ちゃんが廃課金なせいなんだよね! メンゴメンゴ!」とは口が裂けても言えないけど。


「魔力のせいなのか、知らない人に突然話しかけられるし」


 それは多分にゲームのシステムが関わっているのだけど、それも俺がどうこう言えることではない。

 ていうか言っても理解してもらえるとは思えない。


「何も分かんない、分かんないけど……嫌だよ」


 アカリちゃんが俯いてしまう。

 泣いてはいないようだけど、声が少し、震えていた。


「分かんないままなのも、怖いのも、嫌。今すぐ家に帰りたい、……でも」


 アカリちゃんはぎゅっと、制服のスカートの裾を握りしめる。

 その手が、やけに小さく思えた。


 女の子の手って、こんなに小さかったっけ。

 女の子の手首って、こんなに細かったっけ。

 とてもじゃないが、メテオを打って来る手には見えなかった。


「お父さんもお母さんも、頑張ってねって言って送り出してくれたもん。このままじゃ、嫌」


 それは――もしかしたら俺が初めて聞いた、アカリちゃんの「意志」が籠った言葉なのかもしれなかった。


「ルーカス。ねぇ、私……どうすればいいと思う?」

「俺にも分かんない」


 顔を上げたアカリちゃんが、俺の目を凝視する。


 唖然とした顔をしていた。

 「え?」っていう顔をしていた。


 いや、うん。ごめん。ほんとにごめん。

 教えてほしいとか頼ってほしいとか偉そうに言っておきながら、何の解決策も提示できないことは誠に申し訳ないと思っている。ほんとに。心から。


 でも困ったことに、俺には本当に何も言ってあげられることがないのだ。

 ていうか人に何かを言ってあげられるほどたいそうな人格をしていない。その自覚だけは人一倍ある。


 分からないものは分からない。下手なことを言ってアカリちゃんがより傷つくよりはマシだと思うんだ。

 開き直りながら、俺はアカリちゃんの目を見つめ返して、笑って見せる。


「でも俺は、こーやって、アカリちゃんが話してくれたことが嬉しいよ」

「何それ」


 アカリちゃんも、呆れたような様子だったが笑ってくれた。

 さっきまでの思いつめたような、無理をしているような雰囲気が無くなっているのを見て、少し安心する。


「俺はアカリちゃんが貴族じゃなくても、魔法が強くても、友達だよ。だからこうやって話を聞くし、アカリちゃんが嫌な思いや怖い思いをしてるのは嫌だなって思う。それを少しでもマシに出来るなら、手も口も挟む。俺じゃ助られないなら、代わりに助けてくれる誰かを見つけてくる」

「代わりに?」

「うん。だって俺には出来ないことと分かんないことばっかだからね」


 堂々と胸を張る。

 胸を張って言うようなことではないかもしれないけど、事実なので仕方ない。


「どうしたらいいかは、俺も分かんないけど。アカリちゃんには楽しく、幸せに過ごしてほしい。夏休みにお父さんお母さんのところに帰ったアカリちゃんが、笑顔で『頑張ってるよ』って言えたらいいなって思う」


 俺の言葉に、アカリちゃんが目を見開いた。

 あれ。夏休みには帰省するのかと思ったけど、違うのかな。大学生、割と皆そうだけど。


「とりあえずあの先輩には睡眠波攻撃が効くって分かったから。これで対策はバッチリだね」

「ふふ。もう、何、睡眠波って」

「睡眠波は睡眠波だよ。ほら、歴史の先生とかから出てるだろ? 聞いてるだけで眠たくなっちゃうビームみたいの」

「そんなの出てないよ」


 くすくすとアカリちゃんが笑う。

 アカリちゃんには分からないだろうけど、間違いなく真面目な人間には効かないビームが出ているのだ。

 俺には分かる。何故かといえば俺は眠くなるからだ。


「そうだ。図書室行って、難しそうな本片っ端から借りてこようか。どうせならものすっっごく眠くなりそうなやつ」

「え?」

「本があれば、俺がいないときにあいつが来ても対応できるっしょ?」

「ええっ!?」


 急に大きな声を出すので、俺もびっくりしてしまった。

 アカリちゃん、そんな大きな声出せるんだ。


「ルーカスがいないときにも、やるの!?」

「当然でしょ。いつも俺が一緒にいられるわけじゃないんだし」

「そ、そっか……そうだよね」


 俺の言葉に、アカリちゃんはどこか自分に言い聞かせるように呟いた。

 現に俺やジャンの目をかいくぐって接触を試みる奴らが増えている。

 アカリちゃん自身が自衛の術を身に付けるに越したことはないはずだ。


 最悪の場合はメテオを打ってもらうしかないけど。その場合は死なない程度にお願いするしかないけど。


「……うん。頑張ってみる」


 アカリちゃんの前向きな言葉に、俺も大きく頷いた。


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