12.姉ちゃんの廃課金デッキ半端ない
ソシャゲ用語が分からないという声が聞こえる気がする(幻聴)ので、そのうち用語解説を付けます。
分からない方は今しばらくお待ちください。
魔法の授業が本格的に始まった。
正直俺はわくわくドキドキだった。大学生にもなってと思わないでもないが、魔法とか夢の中でも使ったことがないのだ。
どんな感じかとそわそわしたって仕方ないと思う。
俺、というかルーカスは炎の魔法に適性があるという設定だった。
試しに魔法を使ってみたら、設定どおり手から小さな火の玉が出た。
思わずちょっとはしゃいでしまった。すごい。魔法すごい。
使いどころとか全然思いつかないけど。俺自分で料理しないし。煙草も吸わないし。
この学園に入学できるのは、強い魔法適性がある子どもだけだ。簡単に教わっただけで、皆ぽんぽん魔法を発動させている。
ジャンは風魔法に適性があって、小枝を宙に浮かべたりしていた。
他の魔法も見るたび俺がいちいちはしゃぐので、クラスメイトから可哀想なやつを見る目を向けられてしまった。
いや、だって仕方ないだろ。今まで手から炎も風も出たことないんだから。
せいぜい水を出す宴会芸くらいしか見たことがないんだから。
魔法適性はほとんどが遺伝なので、結果的に貴族ばかりが魔法適性を独占している。
貴族のご落胤であるジャンはともかく、生まれも育ちも一般庶民のアカリちゃんに魔法適性があるというのは、まさに突然変異とでも言うべき事態だ。
それも、本来魔法適性は1人に1属性のところ、ヒロインらしく「全属性の魔法適性」とかいうチート設定の大盤振る舞いである。
そしてメタ的な話をしてしまえば――現在アカリちゃんには、姉ちゃんの廃課金デッキによるありとあらゆる成長バフが乗っている。
実際に魔法の力を目の前にして、実感した。
姉ちゃんの廃課金デッキ半端ない。
アカリちゃんのパラメータ上昇率がエグい。先週までマッチの火くらいがやっとこさだったのに、今週にはもうメテオ撃ってきた。
校庭にめちゃくちゃでかい穴が開いた。一同呆然である。アカリちゃん本人含め。
ヤバい。このままだと死人が出る。
ていうかこれ、そもそもゲームのシステムとして、強くなるのがアカリちゃんなのはおかしくないか?
せめてルーカスが強くなれよ。
アカリちゃんだけがどんどん世紀末覇者みたいになっていくんだけど。少女マンガに迷い込んだ範馬勇○郎みたいになってるんだけど。
何より当のアカリちゃんが完全にオーバーフローしたステータスに置いてけぼりにされているのが可哀想でならない。
あと普通に腕相撲で瞬殺された俺とジャンのお気持ちも可哀想だよ。
魔力だけじゃなく、体力学力も異常な成長率になっているらしかった。
大穴を目の前におろおろするアカリちゃんを見て、俺は心の中で合掌する。
ごめん。うちの姉ちゃんが廃課金勢で、ほんとごめん。




