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五度目の異世界転移は、まさかの現代社会。ハッピーエンドへ?

作者: 小城
掲載日:2021/06/03

1.五度目の異世界へ

「またか。」

 サトシが目を覚ました場所、それは五度目の異世界であった。

一度目は、魔法と剣の世界に勇者として転移させられた。サトシは、薄倖の女騎士アナシアと大魔道士の一番弟子の魔法使いセイント、うっかり商人のハチベと旅に出て、大魔王デススパイラルを倒し、元の世界へ戻ってきた。

二度目は、光と闇に対立した世界だった。サトシは闇の勢力側の最終兵器として召喚させられた。召喚時にチート能力として、『絶対破壊』を持っていた。これは触れたものすべてを存在ごと破壊させることができるものであり、召喚させられて、すぐに闇の全勢力を率いて侵攻。光の王者クロスレジェンドを『絶対破壊』の能力で破滅。元の世界へ戻ってきた。所要時間は3時間だった。因みに、戻るときに、サトシを召喚した闇の王者ダークネスも『絶対破壊』で破壊させておいた。

三度目は、メルヘンの世界だった。目覚めたら森の動物たちに囲まれていた。動物たちは、魔女サルターナに攫われた森の姫の助けてほしいと言った。そのとき、サトシと一緒に召喚された犬、猿、鬼神と旅に出た。特に鬼神が最強で、『鉄の拳』により岩をも破壊。最後は魔女の砦を礎石ごと破壊して倒壊させて森の姫を救った。森の姫と動物たちは、サトシにこの世界に残って、姫と結婚して森の王になってほしいと言ったが、この世界だと深夜アニメの続きが見られないという理由から断った。

四度目は、近未来SFの世界だった。念じれば人や物を動かすことができる特殊能力と光の剣を用いて、闇に支配された主人公を救うという話だった。逆にサトシは自ら闇の力を取り込み主人公の代わりに世界を統治。新たな秩序を構築して、世界に平和をもたらした。

そして、今回が五度目である。そこは何の変哲もない裏山である。

「ステータス表示は出るかな?」

サトシは手慣れた如く、空中に手をかざした。しかし、一度目と二度目の転生のときに出たようなステータスを表示するものは現れなかった。

「周りには誰もいないか、。」

転移したのはサトシ一人だけであった。誰かに召喚されたわけでもなかった。サトシは近くにある岩を使って試してみた。念じたり、拳を使ってみたが、びくともしない。他にもジャンプしてみたり、走ってみたりしたが、別段、身体能力の変化もなかった。

「とりあえず村に降りてみるか…。」

山を下りれば村か何かがあると思った。しかし、その期待は外れた。山を下りる途中で、見たもの、それは見慣れた高層ビルだった。


2.異世界そこは現代社会!?

「あれえ…この景色…。」

山を下りたサトシの目に見えたもの、それは現代社会だった。麓には見慣れたビルにマンション。瓦屋根の民家。それらはどれも現代日本の建築物である。

 サトシはここに来る前は近くのコンビニに買い物に行く途中であった。異世界転移は、高校一年の夏と冬に二回。高校二年の春と秋に二回。そして今回が高校三年の夏である。

「そういえば、この山、隣町のやつじゃないか?」

小学校のときの遠足で来た覚えがある。そして、それは正解だった。ハイキングコースに出たサトシの目には「青空山ハイキングコース。麓まで200m」と書かれた立て看板が映った。

「異世界転移じゃない?場所を移動しただけ?」

近くには年配夫婦が山頂を目指して歩いていた。サトシは町に出た。青空町一丁目交差点。歩行者用の青信号が点滅している。サトシは急いで向こう側へ渡った。

「もしかしたら…、時間転移か!?」

場所は同じ座標のまま、過去か未来へ転移する。そして、それがなんらかの形で現在へ干渉していく。サトシは持っていたスマホを取り出した。電波はつながっている。日付は家を出た日と変わらない。時間もあれから30分足らずしか経っていない。連絡先から電話をかける、「サトル」三つ年下の弟である。コール。

「はい?」

「サトルか?今、何年だ?」

「なに言ってるの兄ちゃん?」

「今日は、何年の何月なんだ?令和?平成?それとも昭和?」

「昭和なわけないだろ。そんな前、僕は生まれてないよ。」

「それもそうか。」

「今日は令和3年の8月だよ。」

「それって、今日の日付じゃないか。」

「なに言ってるの?それより、僕、今日は遅くなるから夕飯はいらない。」

そう言ってサトルは電話を切った。


3.帰還

サトシは駅から電車に乗った。駅を二つ越えて、元の町へ戻ってきた。駅から徒歩10分。自宅へ帰還した。時計は午後3時。コンビニへ向かったのが、午後1時だったので、二時間足らずの旅であった。

「そういえば、コンビニ行き忘れたな。」

帰りに寄って来ればよかったと思った。サトシは部屋で寝ころんだ。何のための転移だったのだろうか。ただの超常現象なのか。

「(そういえば、そもそも異世界転移ってなんなんだ?)」

世の中の漫画やラノベを見ると、どこもかしこも異世界転生や異世界転移が起こっている。サトシにとっては今まで身近過ぎて当たり前のことでしかなかった。

「(そんなのが本当に起こるなんて思ってなかったけどな…。)」

サトシはどこかで異世界転移を期待していた。転生は怖かったので、できるなら転移がよかった。そして、高校一年の夏に、期待通り、異世界へ転移した。サトシは高校三年間をぼっちで過ごした。サトシは異世界に友達は数多くいたし、必要とされる存在であった。選ばれた存在であったし、世界に平和をもたらした。

「(パラレルワールド。)」

サトシは、異世界転移とはパラレルワールドへの転移だと思っていた。26次元とも言われる宇宙には、数多の並行世界が存在している。その世界を行き来し、与えられた課題を達成すること。それが異世界転移だと思っていた。そして、それに何度も選ばれている自分は特別な救世主であるのだと。

「サトシ。」

母がパートから帰ってきた。

「いたなら洗濯物を取り込んでおいてよ。」

外はいつのまにか雨が降り出していた。母は急いで洗濯物を取り込んでいた。夏休みも残りわずかであった。

 結局、夏休みの間に、さらなる異世界転移は起こらなかった。

「今週中に進路調査書を提出するように。」

二学期が始まって初日、担任からそう言われた。

「進路ねえ…。」

今まで、サトシは異世界転移に急がしかったので考えていなかった。いっそのこと、次の異世界転移のときにそのまま移住してしまおうかとも思ったが、家族や今の生活のことを考えると踏ん切りがつかない。自分の学力を考えると就職ということになるのだろう。

「専門学校という選択肢もあるな。」

結局、第一志望が専門学校進学、第二志望が就職、第三志望が大学進学にした。


4.六度目の異世界転移は?

 サトシは大人になった。高校卒業後、事務系の専門学校に進学。その後、事務職として働いていた。実家暮らしである。弟のサトルは今は大学四年で就職活動中である。将来は雑誌編集に関わる仕事に就くつもりらしい。サトシの部屋の中は、漫画や小説が転がっている。異世界転移は高校三年の夏に、隣町の裏山に転移した以降、起こっていない。

「サトシ。いるなら、洗濯物取り込んでよ。」

母の声が聞こえた。高校三年の夏に隣町の裏山に転移して帰宅したときも、母の声がした。最近、母は顔のしわを気にしているようである。サトシは今の生活に満足していないわけではない。しかし、ふと、休日に天井を見上げながら思うことがある。

「(あの異世界は今頃、どうなっているのだろうか。)」

一度目の魔法と剣の世界。大魔王を倒し、世界は平和になった。

「(あいつらの名前なんて言ったかな。)」

一緒に魔王を倒した仲間たちであった。サトシは彼らの名前や顔を思い出すことができなくなっていた。記憶から次第に消えていった。代わりに、大人になったサトシが思い出すことと言えば、パーティーはいつもギスギスしていたということであった。仲良くはなく、お互いがお互いのことを道具のように思っていた節があった。それぞれが魔王討伐に参加した理由はまちまちで、ときにはそれぞれがそれぞれの正義を掲げてけんかにもなったし、陰口もあった。そして、やがて、パーティーの者たちは口をきかなくなっていった。

二度目の光と闇の世界。最終兵器として召喚させられたサトシはチート能力を持っていた。だから、仲間に頼るということはなかった。闇の兵たちを集めて侵攻。兵たちは駒であり、仲間ではなかった。最短で効率よく攻略することがメインであった。サトシを召喚した闇の王者も、終始、サトシに対して、上から目線で、サトシのことを道具としてしか認識していなかった。だから、サトシは帰還間際に闇の王者も『破壊』した。その後、その世界がどうなるかに関して興味はなかった。

三度目のメルヘンの世界。ここでは森の姫を救うことができた。姫と結婚することを持ちかけられたが断った。サトシには姫のことを愛するということは考えられなかった。そのときの姫の表情はもちろん知らないし、姫の姿、顔、名前それらのことも、まったく記憶になかった。関心がなく、初めから覚えていなかった。

四度目の近未来SFの世界。闇に取り込まれた主人公を救うことが目的だった。しかし、サトシは自分が代わりに主人公になることを望んだ。そして、自ら世界の秩序を組み立てた。闇に取り込まれた主人公のことは眼中になかった。

「(結局、俺は本当に世界を救ったのか?)」

どれをとっても大人になった今から見ると、不完全な物語に見える。

 高校生のときは、自分が救世主だと思っていた。異世界へ転移して、課題を達成して戻ってくる。しかし、今、それらを思い起こすと本当の課題とは一体なんだったのだろうか。そして、五度目の異世界転移先は今いる世界であった。

「(俺は課題を達成できているのか?)」

サトシは五度目の異世界転移はとっくに完結したと思っていた。しかし、もしかしたら五度目の異世界転移はまだ続いているのかもしれない。

「サトシ。洗濯物手伝ってよ。」

母の声が聞こえた。

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