5話
「さっきの人がクルムを解雇にした?」
「まあそうだ。あんな奴わざわざ覚える必要はねぇ」
「ふーん、そう」
ノルンはトプのことにはそれ以上触れなかった。
2人は迷宮の入口へと向かった。
迷宮へと近づくにつれて、店の数は減っていった。
逆に人の数は少しずつ増えていた。
荷物を背負い運ぶ者や、荷車で引いている者が多い。今はお昼過ぎの時間帯だから恐らく、朝迷宮に入った人たちだろう。
彼らは皆、土や泥、砂を体中に着けている。
血を纏っている集団もいた。その集団はどこかの護衛をやっている人たちだ。クルムが知っている顔は見当たらないため、迷宮組合の護衛ではない。
ヘトヘトだという様子の人々とすれ違いながら進んでいくと大きな岩が見えてきた。
大の大人5人分ほどもある大岩。そこにポッカリとあいた穴。その穴もなかなかに大きい。
薄暗い穴の中からは壁に付けられた松明の灯がいくつも見える。
穴の周囲にはもしもなどに備えた衛兵が4人立っている。
ここが「底なし洞窟の大迷宮」の入り口。
夢見る者、現実に生きる者、そんな人々が入る大迷宮の入り口である。
「やっぱり大きいわねー」
ノルンは穴を眺めながらそう呟いた。
周りにいる人たちは、子供が何しに来たんだという目でノルンを見たり、あまり関わらないでおこうとクルムを見たりしていた。
結果、2人の周りには自然と人が離れ、いなくなっていた。
「衛兵さーん、こんにちは」
「またお前か……。子供がこんなところに来ちゃだめだぞ」
「前も言ったけど私は子供じゃないから」
ノルンは近くの衛兵に駆け寄ると何やらちょっかい?をかけ始めた。
クルムはと言うとその少し後ろで佇みながらノルンの体を見ていた。
衛兵がノルンを子供だと考えるのは当たり前だ。彼女の身長は完全に少し大きい子供。そんぐらいの身長なのだ。クルムも本当に大丈夫なのかと思い、ここに来る道中何度か聞いていた。
「それに今回は1人じゃないんだから。ちゃんと一緒に入る人もいるからね」
「入る人って……」
「オレです」
「! クルム君か」
少し前までは毎日迷宮に入っていたため、衛兵とは結構な顔なじみとなっている。
「少し見ていなかったが、解雇されたってのは本当だったんだな」
「まあそうですね。ただ、もう新しい雇用……?」
迷宮に入るために組んだ。この関係をどう言い表せばいいかと考えたクルムに、ノルンは自信満々な様子で言った。
「雇用主じゃなくて相棒。相棒の方が良いでしょ」
それは結構しっくりと来た。
「相棒が見つかったんで」
「それは良かったが……彼女本当に大丈夫か?」
「多分大丈夫です」
「……君がそう言うなら大丈夫なんだろうけど……まあ気をつけるんだぞ」
「はい」「分かってるわよ」
ノルンは自分が言ったことはなかなか信じてもらえず、クルムが仲介することですんなりと子供ではないことを信じてもらえたことに少し不満げであった。頬が少し膨らんでいる。
クルムはその様子を見ながら本当に子供ではないんだよなと、少し心配になっていた。