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天使と悪魔

作者: 飛ぶ潜水艦

 天使は柔らかな表情で僕に言った。それは冬と春の間の季節だった。


「ごめんなさい、」


僕は彼女の翼の使い方について注意したのだった。彼女があまりにも不器用だったから。


「いや、謝らなくていい」


彼女はこちらを見つめたまま不思議そうな顔で僕に言った。


「だけど、」--「さっきは謝れって……」


僕は彼女を無視して話を元に戻した。


「君は何もわかってないってところまでは話したかな」


「ええ、それで私が【何も】ってどういう意味なのか聞いたのよ」


彼女は本当に不思議に思っているようだった。翼をかすかに揺らしながら手を後ろに組んでいる時に彼女は嘘をつかないのだ。僕は彼女のことを何でも知っている。


「何もわかってないんだよ、口答えはいいから、俺の言うことをしっかり聞くんだな」


「ええ、わかったわ。ごめんなさい」



「ここは地球なんだ、それはわかる?」


彼女はうなずく。天使の輪が緩やかに回っていた。僕にはそれが見える。誰だって見えるわけじゃないんだぜ。きっと僕だけがそれを知っているんだ。


「それで、ここまで言ったのに君はわからないわけ?」


彼女はうなずく。


「だって、」


「だって?」--「またそれかい?」


彼女の肩がすぼむ。魔界に咲くあの花のように。


「まあ、いいや、もう」


そういって僕はため息をつく。こうやって彼女を怒ってやれるのは僕だけなんだ。あのメドゥーサだって彼女に怒ったりなんかしない。別にどうでもいいと思っているからだ。そういえば、


「そういえば、メドゥーサの店で買ったネズミはどこにやったんだい?」


天使はまた肩をすぼめる。さては、なくしたな。


「怒らないで聞いてくれる?」


「ああ、もちろんとも」


「まず第一に、メドゥーサのおば様の店で買ってもらったのはケルベロスだったわ」


「知ってるよ、そんなこと。だから言ったろ、俺は確かにケルベロスって」


彼女は微笑んだ。僕が嘘をついたって彼女は許してくれるんだ。ちょっとしたジョークさ。彼女はそれが分かるんだ。


「それで、あのケルベロスはどこにやったんだい」


天使は一度輪を整えてから翼を触りながら言った。天使が翼を触るときは十中八九嘘をつくっていうのは有名な話だろ。


「逃げられちゃったの」


「嘘はよせよ。ねえ、もっとまじめにしてくれないかな。こっちは真剣なんだぜ」


彼女は手を後ろで組んで翼を震わせながら言った。


「店を出るときにメドゥーサのおば様が間違って見てしまって、石になったのよ。それで、途中であんまりにも重たいから子供たちのいる養成所に置いてきたのよ」


「ああ、そうだったね。俺が提案したんだったな」


そうだったな、と僕は思った。僕が提案したんだったな、と。


「そうよ」


彼女は翼を手入れしながら言った。一枚一枚丁寧に点検するように手入れしていた。


「だけど、重たいからって、石を置いていくってのはよくないな。せっかく俺が買ってあげたのに。あれを買うためにどれだけ俺が今まで大変な思いをしてきたかしってる?」


「ごめんなさい」


僕はため息をついた。全く不器用な天使だ。君は。だけど僕はあくまで君の幸せを願っているだけなんだよ。


「私ね、天使になったの初めてなの。天使初心者なの」


「俺はこの前も悪魔だったよ」


「この前も?それってずっと悪魔ってことじゃないの?つまり」


「君が何も知らないだけだよ。だから君はすぐにみんなを怒らせてしまうんだよ」


「そうかもしれないわ。私って本当に何も知らないのよ。自分がどうして天使になったのかとか、どうしてみんながすぐに怒っちゃうのかだとか」


「俺は閻魔になりたいんだ」


「いいわね、自分のことが分かってて」


「素質はあったんだよ。今の閻魔は昔はだめだめであいつなんかがなることに誰も納得してなかったんだ。あの時用事が出来てなきゃ俺は今頃閻魔だったのに」


「今からなるじゃダメなのかしら」


「ははは、本当に君は何もわかっちゃいないな」


「ごめんなさい」


「簡単に謝るなよ。反省してないだろ」


僕は彼女をしかりつけた。だって彼女が僕以外の誰かに怒られるのは見たくないからね。だって彼女は不器用な天使で僕はあくまで彼女の幸せを願っていたいと思っているだけだからね。


「悪魔さん、世界の扉の先には何があるのかしら。あれは自分で開けてはいけないものなの?」


「ダメに決まってるだろ、勝手に開けるやつもいるけど絶対に俺は開くまで待つべきなんだと考えている」


「じゃあ、向こうの世界のことをあなたは何も知らないのね?」


「そんなことはないよ。行ったことはあるからね」


「何があったの?」


「君の知らないものだよ。説明したってわかるはずがないだろ。きっと君は俺が話したことを嘘だというと思うね」


「言わないわ、絶対に言わない」


僕は彼女を見た。嘘はついていないようだった。


「じゃあ、君が行った時に驚くために少しだけしか話さないであげよう」


「ありがとう」


「わるくはなかったよ」


僕は言った。天使は僕を見ながら少し微笑んだ。


「あなたってすごく物知りね」


「そんなことないよ」


「あら、そうなの?」


「いや、それがそうでもないんだ」


僕は物知りさ。


「とりあえず俺の言うことを聞けよ」


「わかってるわよ」


天使はそう言った。彼女は天使だった。僕は





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