一体感を感じた
私が夜勤の、とある日のこと。
あれは4時くらいだった。
ナースコールがなった。
その部屋の患者は普段は放射線治療をしており、その患者がナースコールをならすことはほぼない。
新人がナースコールの部屋へ行った。
またナースコールがなったので、ヤレヤレ、と思い私が病室へ向かった。
患者は、「おええええええ」と言いながら壁に飛ぶほど大量に喀血をしていた。喀血とは、肺や気管・気管支から出血する事である。血の特徴は、鮮血である事だ。
喀血をしたら、まず吸引である。血が固まると窒息死する。しかし、全く吸引が意味のなさない量である。
呼吸器外科医は誰もいなかった。
確か、呼吸器内科病棟に当直が一人居たはず。
私は走って隣の病棟へ行った。
上村先生が英語の医学書を読んでいた。
「先生!呼吸器外科の患者が急変したんです!喀血の量が凄いんです!」
私は上村先生の腕を引っ張り、隣の病棟から連れ去った。
新人は救急カートを部屋の前に運んで来ていた。
間もなく、患者が体を痙攣させ、床に倒れた。
「挿管するわよ。」
気管内挿管の事である。
私は、新人と二人で患者をベッドにのせ、肩の下に枕を入れた。
私は次々と医療器具を先生に渡し、先生は気管内挿管をした。胸にモニターを付け、人差し指にサチュレーションモニターを付けたが...。
心停止だった。
患者は、大量喀血で窒息したのが原因だった。
先生は、おそらく放射線治療で肺動脈が切れ、こうなったのではないかと言った。
先生はナースステーションにある電子カルテに記入をし、病棟を去った。
私と新人は隣の植物状態の患者を他の部屋に移し、亡くなった患者の死後の処置をした。
やがて日がのぼり、いつもの業務に戻った。
喀血で汚れた部屋の掃除をしている時間はなかった。
呼吸器外科医数人が医局から上がって来て、部屋をモップで綺麗にしてくれた。
私が道具を次々と渡し、先生が挿管している時の事を思い出した。一体感を感じた。