第四話
遅くなりました!申し訳ありません!
中に入るまで緊張感を持ち過ぎていたくらいの俺だったが、今は完全に弛緩し切っていた。
いや、美味いんだよ飯が。
「こちらはさるルートより仕入れました、軍の兵糧にございます。脇に添えているのが、そのままの物ですが、正直、酷い物です。しかし、調理致しますと中々悪くない素材となります。日頃より贅を尽くした御食事をなさっている方々にも御好評頂いております」
だってさあ、料理が素晴らしいんだよ。
俺も軍の訓練に加えてもらってるから知ってるんだよ。兵糧の不味さ。
基本は穀物と野菜を乾燥させた物に塩を入れて固めてんだけどさ。乾物特有の匂いに、素材の青臭さを全力で引き出した固形物としか言えないからさ。
それを口に含むと、咥内の水分を奪い取って、不味さを口いっぱいに広げてくれる。かと言って、水分で戻る前に食べようにも、噛み切れないくらいに硬いせいで、飲み込むのも困難な拷問に早変わりだ。どちらにせよ苦行。
「⋯⋯信じられないよなあ」
そんな劇物顔負けの物体が、美味いんだ。
香味野菜をふんだんに使ったスープをしっかりと吸い込み、これまた兵糧の基本、干し肉の旨みを存分に引き出した豊かな味わいのリゾット。
かと思えば、細かく砕き、高温の油でカリカリに揚げられた兵糧をアクセントにしたサラダを前菜に持ってくる。
そこに、一般には出回っていない蒸留酒を、貴重な柑橘の果汁で割った物を流し込む。
「至福じゃねえか」
信じられないくらいに、素材の特性を活かしながら、絶品に昇華されている。
あ、この国は未成年でも飲酒は許されているからな。あんまり良い顔はされないんだけどな。
そんな出会い頭に殴られた様な衝撃の後は、料理人の腕前を存分に堪能出来るコースメニューが待ち構えているんだ。抵抗なんか出来ないし、したら勿体無いよな、これは。
違法店舗なのが不思議なレベルだぞ、本当に。
「御客様、御満足頂けましたでしょうか?」
「そうだな。シェフは見事な腕前だな。それに合わせる酒がまた良い。口の中をスッキリと洗い流してくれるから、次の一口が更に美味いと感じられる」
「それはそれは。御客様の御言葉を聞けば、シェフも喜びましょう」
一通り食って、食後の紅茶を喫んでいると給仕が言葉を掛けてきた。
食いながら確認していたが、この男が数居る給仕達を纏めているっぽい。
そんな男がわざわざ俺に話し掛けて来たんだから、多分素性はバレてるだろうな。
と言うか、このままだと俺が暴れる理由が無い。美味しく食事をして終了とか、子供のおつかいより酷い。
下の階層に行かなければ意味が無いもからなあ。
しかし、所詮は初見の客に過ぎない俺が地下に行きたいとか宣っても無理なんだよなあ。
店側に俺の正体がバレて、取り込もうとしなけりゃ、この『パピヨンクラブ』の更に深い部分には接触出来ないときた。
中々ハード。
だが、俺がシュバルツ・キターラだと解れば話は別だ。
堅物と評判の、近衛騎士団長たる親父に対してカードが一枚手に入るんだからな。
まあ、そのカードが機能するかどうかは別の話なんだけどな。
まあ、俺が無能王子のルシードの取り巻き、ってのも簡単に解るだろうから、そっちに対する手札にもなり得るのかもな。
継承権失くしたとはいえ、腐っても王子様、だしな。色々と利用価値は有る筈⋯⋯だよな?
「ところで御客様。当店では選ばれた御方のみでは御座居ますが、より上質なサービスを提供出来ますが、如何でしょうか?」
「へえ。この食事以上のか。大丈夫か?自分からハードルを天空まで押し上げてしまったぞ?」
「はは、それは恐ろしい事であります。しかし、そこまでこのフロアを御気に召されたのならば、関わる者としては至上の喜びに御座居ます」
「私が其処を利用しても構わないのかな?所謂一見なのだが」
「はい、構いませんよ」
そこで男は言葉を切り、目を細める。柔和な顔つきを強調しただけにも見れるが、目だけが笑っていないんだけど。
嫌な事だが、この仕草に慣れているのが伝わってくるなあ。いや、伝えてきているのかもな。
「御客様の様な、身分の高い御方ならば大歓迎ですので」
「ほう。ならば言葉に甘えようかな」
「御招きに応じて頂きまして、光栄の至りに御座居ます」
うん、やっぱやべーわ。
飴と鞭。こっちを雁字搦めにするつもりだな。
素性は割れているぞ、と鞭をチラつかせ、特別なサービスという飴を与える。
そうやって弱みを握ってしまうんかね。
非合法の店に来ている、ってだけでマイナスイメージだからなあ。
実際には、そこら中貴族だらけだし、此処での食事は黙認されていると誰もが知っているのにな。
それも、仮面をするという安心感から、なのかもな。
最初から身バレ前提の俺なんかとは意識が違うってワケだな。
⋯⋯この店の、更なる闇を知れば、蜘蛛の子を散らす様に逃げ出すんかね。
然も無ければ、嬉々として残るのか。
どっちでも良いか。どうせ潰すんだし、な。
「ふっ。私の身分は隠せぬか。良かろう。案内せよ」
「はい。では、此方へ」
うわあああ!
「ふっ」って言った!
「ふっ」って言っちゃったよ、俺!
いくら演技でも、いくら演技でもおぉぉ!
表面上はクールに偉ぶったり、貴公子的な何かを演じつつ、内心では身悶えしていた。
身悶えどころか、地面をゴロゴロと転がりながら、何処か遠くへ逃げたいくらいだよ、畜生。
もっと、何か上手い演技があっただろうに。色んな意味で。
こんなんルシードの馬鹿王子スタイルでも、やらねえぞ。
⋯⋯あ、大兄貴がナンパする時のスタイルだわ。
つまり、俺はこの給仕長(?)をナンパしようとしている!
いや、違うから!混乱し過ぎだから、俺!
だから出てこないで、キキョウさんの幻影!
そんな素敵な笑顔しないで!
助けて!違うから!
ひとしきり錯乱しつつも、表面には爽やかな貴公子という衣を纏い、蝶を模した仮面に手を遣る。
こうなってくると、この仮面すら恥ずかしいわ。演じているキャラに合わないだろうに。
色々と後悔と反省が襲ってくる。
なんかもう、本当にごめんなさい。
精神にダメージを負いながらも、男の案内に従う。店の奥から、関係者以外立ち入り禁止と書かれた看板を越え、個室へ。
そこから更に、隠し通路を経由すると地下への階段とご対面した。
思ったより警戒して無いか?
一度くらい屋外を経由するかとも思ったけどな。隠し通路くらい大した事無いし、警備も居なかったな。
まあ、客を通さないとならないし、バランスが難しいのかね。
そうやって、俺はいよいよ地下へと足を踏み入れた。
リオン「随分とストーリー進んでないんじゃないの、これ?」
ルシード「まあ、作者が丁寧に書いていきたかたった部分らしいからな」
バル「後は、これが言いたかったらしい」
リ「これ?」
バ「次回より、R指定が活きてくるので、苦手な方は注意して欲しいそうだ」
ル「確かにR指定が息して無かったからな」
リ「このまま行くのかと思ったよ」
ル「まあ、今回のバル主体の章が追加されなかったら、まだまだ意味が無かったか、下手したら存在意義を無くすところだったらしいぞ?」
バ「作者としては、そーゆーの書いて、読者様にそっぽ向かれるんじゃないか不安だったらしいがな」
リ「気にする程の作品じゃ無いだろうにね」
バ「止めてください、お願いします。事実でも悲しいです」
ル「まあ、底辺作品だからなあ」
リ「と言うか、今度はバルに作者が取り憑いたんだね」
バ「こんな作品でも、見放されたくないんだよー。こんなんでも、ブクマ数とかでハラハラしてんだよー」
ル「そういえば、いつの間にか累計ユニーク人数が8000人を超えていたな」
リ「それは素直に嬉しいね」
バ「皆様に心からの感謝を申し上げます」
リ「最後まで作者が⋯⋯」