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うちの魔器(むすめ)が嫁いでくれない  作者: こしひかり
第1章 うちの魔器(むすめ)が嫁いでくれない
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やっと二話目です、進捗ありません

ヴィクトール家は先祖代々続く魔器師の一族だ。

魔器とは魔力の根源である¨原初の力¨を最大限に引き出すことが出来る武具。

ただし、どの魔力属性が色濃く出るかは分からない為、『この属性がいい!』と言われても叶えることは難しい。運がよければ出来るかもしれない程度。

加えて、魔器1つ作るためにかかる費用と時間は膨大であり正直割に合わない。

普通の武具や他の商品を作ったほうが売上効率がいい。

その為、魔器の注文依頼を貰ったとしても魔器師(おれ)が納得するだけの金額・条件が提示されない限りほぼ受けることはない。

デメリットは他にもある。

仮に納得出来る金額が用意され注文を受けたとしても、魔器が依頼者を¨自身を所有に値する¨と認めなければ触れることはできない。

そうなると納品は難しくなり、当然料金の支払いもなくなる。

製作費用は前金で貰うにしても労働に見合った対価はゼロ。いわゆる無駄働きだ。

唯一手元に残るのは売れ残った魔器のみ。


それが彼女、魔剣レーヴァテインことレヴィである。


作ったのは一年前。

どこかの金持ちがどうしても欲しいと大金を積み、素材となる金属まで用意してきたので渋々依頼を受けた。

そして、完成したのは一本の剣。

刀身に紅蓮の炎を纏う姿は、神話に出てくる不死鳥(フェニックス)を彷彿させる。

自画自賛するほどの出来栄え。どこに出しても恥ずかしくない魔器。

後は依頼者に納品をすれば完了---のはずだった。


「好みのタイプじゃない」


そんな理由でレヴィは納品を拒否。依頼者はカンカン。そのとばっちりは製作者である俺に飛んでくるわけで・・・あれは本当に大変だった。

そんなわけで、レヴィは売れ残り商品として未だ嫁ぎ先がない状態だ。


食事を終えた俺はさっそく仕事の準備に取り掛かる。

一方、レヴィは食器を洗い終えテキパキと店の掃除中。商品(レヴィ)を働かせるのはいかがなものかと思うが、他の従業員を雇える余裕はうちにない。許せ。


「さて、早速始めるか」


今日の仕事は肉屋に頼まれた新品の包丁。なんでも息子が家業を継ぐと決めた記念で渡すそうだ。

基本、俺は魔器以外にこだわりがない。言い換えれば、魔器以外の注文は何でも受ける。

鍋・ハサミ・馬の蹄鉄(ていてつ)など種類は豊富。

本当は主力商品である武器や防具を売るべきなのだが、この一帯は魔物が少ない為需要が低い。

たまたま村に立ち寄った冒険者が買っていくこともあるが、今まで二度目の購入に来た冒険者はゼロ。

確かにうちは小さな村で細々と経営をしている無名の鍛冶屋で、技術もまだまだ未熟なのは自分でも理解している。

しかし、こうも村人以外の固定客が付かないと自信がなくなるというかなんというか。

やはり王都の鍛冶職人や魔器師は腕がいいのか?後学のために一度見に行きたいが・・・反対されるんだろうな。


「いかんいかん、集中集中」


考えても仕方ない。今はやれる仕事をこなす方が大事だ。

パンパンッと両手で頬を軽く叩き気持ちを切り替え、作業を開始する。


◆◆◆◆◆◆◆


カンッカンッ、と作業場から途絶えることなく聞こえる金属音。

それはレヴィにとって特別なもの。

なぜなら、新しい姉妹が出来る音なのだから。

今日マルコが作っているのは包丁。勿論、魔器ではない一般的な物だ。

自分より遥かにも劣る存在。比べるまでもないもの。

だが、同じ場所・同じ作り手から生まれるのであれば姉妹も同然だと教わった。

店内に並んでいる数多くの武具。

その大半はレヴィよりも前に作られた先輩達。意思を持たず、会話もすることができない。それでもレヴィは毎日話しかけ、一つ一つ丁寧に磨いていく。

それが後輩たる自分の役目であり、礼儀だからだ。


と、そこに一人の男が店の入り口から入ってきた。

歳は40後半。お世辞にも細いとはいえないその体格は職業柄なのかもしれない。


「やぁ、レヴィちゃん。今日もお手伝いかい?精が出るねぇ」


「いらっしゃいまし、コナーさん。今日はどうされましたの?」


「あぁ、坊主に依頼していた包丁を取りにきたんだが・・・」


奥の作業場へ目を向け「早すぎたか」とバツが悪そな顔をしながら頬をかくコナー。

待ちきれない様子から、よほど早く息子に渡したいのだろう。

そんなコナーを見てレヴィは嬉しくなる。当然だ。自分の妹をこれほど必要としてくれるのだから。


「もうすぐ終わると思いますので、どうぞ掛けてお待ちくださいまし」


「そうかい?じゃぁ、お言葉に甘えようかな」


「お茶菓子を用意しますね。珈琲でよろしいですか?」


「なんだか悪いな・・・。しっかし、レヴィちゃんは本当に気が利く娘だ。どうだい?うちの息子の嫁に」


「遠慮しておきます。私よりも良い子がすぐに見つかるでしょうし」


「ガハハッ!そうだといいんだけどな!」


「私が補償します!気立てのいい、立派な子です。間違いありません!」


力説するレヴィ。

人間ではありませんが。と、コナーに聞こえないほど小さな声で付け加えたのは言うまでもない。


二人がしばらく談笑をしていると、奥からマルコが作業着姿で現れる。

手には銀色に輝く一本の包丁。

それを見て、コナーはうんうんと満足そうな表情で大きく頷く。

レヴィはマルコからそれを受け取ると、小さな木箱に入れラッピングを施す。

まるで妹に結婚衣装を着せる姉のような優しい手つきで。


だが---


「なぁ坊主・・ちょっと派手すぎやしないか?」


これでもか!と言わんばかりのフリフリな包装に、思わず苦笑いをするコナー。


「あはは・・・」


レヴィ本人はいたって真面目なだけに怒れないマルコ。ただ笑うしかない。


「出来ました!!」


こうして、(レヴィ)の手により綺麗に装飾されたほうちょうは無事に嫁いでいった。







「お前も早く貰い手見つけろよ」


「うるさいです」

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