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幕間 グレイスちゃん

『第二話 グレイス様』も前話に更新しました。


本当は『プロローグ』と『第一話 赤色のスライム』のみ更新予定でしたが、ここまで更新しておくことにしました。


 『開闢と終焉の吸血鬼』――とても恥ずかしいことに、私はそう呼ばれている。私がヴァンパイアの始祖であるクイーン・ヴァンパイアであり、幼少時代に一つの国を単独で滅ぼしたことでそう呼ばれるようになったのだが、完全に黒歴史だ。この通り名が浸透してしまったがために、私はろくに外を出歩けない。てか、恥ずかしくて出歩けない。


 さて、そんな私には現在、少々苦手とする相手がいる。そいつは私の配下の誰よりも強く、誰よりも従順で、誰よりも私の役に立ってくれている――スライムだ。

 スライムは最弱のモンスターという不名誉な称号を得ているモンスターだ。一応、ラビというウサギ型のモンスターもスライムとどっこいどっこいの弱さだが、あれはどちらかというと野生動物に近いので、やはりスライムが最弱のモンスターと呼ばれるに相応しいだろう。


 しかし、彼のスライムは例外だ。普通のスライムが水色なのに対し、彼は赤色の体色をしている。現在確認されている限りでは、赤色のスライムなんて彼だけだ。

 そして、そのスライムがどの程度強いかというと……ぶっちゃけ、私よりもはるかに強い。


 冒頭で述べた通り、私はとても痛い通り名で呼ばれている。しかし、その通り名が世界中に浸透する程度には私は強いのだ。私よりも強い存在といえば、片手で数えるほどしかいない。


 そんな私より強いのが、例のスライムだ。そんなのを配下に出来ているのならたくましい限りじゃないか、なんて言うやつがいたら是非とも変わってくれ。

 考えてみてほしい。自分よりはるかに格下の種族が自分よりはるかに格上の実力者であることを。そんなやつが自分に忠誠を誓い、どんな無茶振りも予想以上の成果で成し遂げてくれることを。有り体に言って、ストレスで胃が蜂の巣になるわ。


 そして今、私の胃を穴だらけにしそうなほどストレスを与える元凶……赤色のスライムが私の前に現れた。


「……スラインか。其方(そなた)、如何様でここへ参った?」


 スラインとはこいつの名前で、私が適当に付けた。とはいえ、なかなか格好いい名前を付けれたと思う。

 ああ、それにしてもやっぱり苦手だ。こいつが自然に発している覇気に当てられ、私は吐きそうになる。嫌いではないのだが、苦手だ。


「グレイス様。例の街の勇者を下して参りました。その報告へと参った所存です」


 今回はこいつにどんな仕事を任せたかを記憶の中から探り、思い出した。


「……ああ。北ラグマの街か。ふむ、よぅやった。褒めてつかわすぞ」


「ありがたき御言葉」


 北ラグマとは、海で隔たれた別大陸にある街だ。スラインにはそこにいる数人かの勇者を倒してくるように命じていたのだが、確かそれは四日前のことである。彼はその四日のうちに勇者を数人倒し、大陸間を往復してきたらしい。私から見ても規格外だ。


 うっ!? 私がちょっと黙ってるとスラインが急に震えだした。私と話している時、たまに彼はこうなる。なんだ、私の態度が気にくわないのか!? それともほんのちょっと黙ってただけで待ちくたびれたとでも言うつもりか!?

 別にビビってなんかいないが、彼への言葉にはどうしても慎重になってしまう。


「……あー、うむ。では次の仕事を任せるとしよう」


 私がそう言うと彼は震えるのを止め、なぜかビミョン、と少しだけ縦に伸びた。なんだこれは、威嚇か? この私に威嚇しているのか!?

 ともかく、こいつとの面会を終わらせるには仕事を与える他ない。ぶっちゃけ、スラインのお陰で急ぎの仕事なんてものは皆無だが、いつまでもこいつと一緒にいるのは私の胃がストレスでマッハだ。無理矢理にでも仕事を与えよう。


「……あ、ああ、あれじゃ。リーナの街でな、とある勇者が頭角を現し始めたそうじゃ。お主にはそれをなんとかしてもらいたい」


「かしこまりました」


 私の言葉にぷるぷる震えながら答えるスライン。それにしても、こいつの狙いはなんだ? これほどの力を得て、なおも私に従う理由がわからない。

 スラインは「失礼します」と一言だけ残し、そのまま玉座の間を後にした。


「………………ふう」


「お疲れ様です、お嬢様」


 スラインが部屋から出て行き私が一息ついたところで、どこからともなく一人の青年が現れた。

 カルロス・イゼット。クイーン・ヴァンパイアと唯一並ぶ、ヴァンパイア・ロードという種族の男だ。彼は私の執事として私に尽くしてくれている。


「……カルロス、お嬢様はやめてよ。もうそんな歳じゃないわ。あと、あれがいなくなってから現れるなんて酷いと思うんだけど」


「私は常にお嬢様のためを思っておりますゆえ」


「答えになってないし、やっぱりお嬢様と呼ぶのね……」


「私にとっては、いつまでもお嬢様はお嬢様ですので」


 改善の余地がない執事に、私は深くため息を吐いた。彼も私に忠誠を誓ってくれ、主に執務の方で私の力となってくれているが、いつまで経っても私のことを子供扱いしてくる。どうして私の配下はこうも扱いにくいのが多いのだろうか。


「あーあ、魔王軍幹部なんか辞めて、どっか辺境でスローライフでも送りたいなあ」


 私はどうにもならない現状を嘆き、玉座に身を沈めるのだった。


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