第零話
木々を押し倒し、屋根を拐い、轟々と音を鳴らす暴風。
水面を乱し、大地を穿ち、ガガがと降る豪雨。
森を焼き、家を焼き、城を穿ち、大空を震わせる落雷。
それらが同時に人々に襲い掛かる不吉な夜に、一人の剣士が息絶えようとしていた。
呼吸はほぼ見られず、呼吸音は雷鳴に掻き消される。
グラディア=ノートリヒ。
嘗て王国の剣と呼ばれ、剣と過ごし、剣と生きた男だ。
今では、弟子にその位を譲り与え、一人静かに更なる高みを夢見て鍛練を繰り返していた。
しかし、そんな生活も此処まで。
長きに渡る身体の酷使と疲労、歳が原因で指の一本すらロクに動かせなくなっていた。
──寧ろ、此処まで生きてこられた方が驚きだ。
グラディアは動かせない口の代わりに心中でそうごちた。
清々しい顔ではあるが、彼には三つ心残りがあった。
一つは、妻帯できなかった事。
剣に生き、剣に死んだ者としては、仕方が無いのかもしれないが、愛し合ってみたかった。
一つは、剣を極められなかった事。
幼い頃のお遊びも含めれば、五十数年。其れだけの長い時を掛けても、頂きすら見えなかった。
一つは、魔法が使えなかった事。
如何せん彼の身には魔法を発動するだけの魔力が無かった。
しかし、死の間際に悔いても仕方無い事だ。
そう考え、グラディアは瞼を閉じた。
弟子が彼の下に訪ねに来て、彼の死を嘆いたのは僅か二日後の事であった。
初めまして霞原頼啓と申します。
この作品を読んでくださり、ありがとうございます。
火傷をして痛みに悶える作者から感謝を申し上げます。




