なつがきた。
窓から差し込む太陽光に目が覚めた。
眩しいそれに目を細めて、いよいよもって夏が来たことを実感する。横にしていた体を起こし、冷蔵庫へと向かう。つい最近まで夏はいつくるのだろうかと考えていたのに、来てしまえばあっという間だ。ガタン、と音を立てて古い扉は開き、陳列されたそれに視線をやる。醤油や麺つゆなどの調味料に並んで、ウーロン茶のボトルが一本。自分で買った覚えはないから、きっと姉が買ってきたものだろう。迷わずそのボトルを手に取り、透明なグラスに氷を入れてからゆっくりと注ぐ。
コトコトと注がれるそれと、パチパチと音を立てながらぶつかり合う氷。いい音だ。冷蔵庫にボトルを戻したところで、勝手に飲んでしまうことを姉は怒るだろうか?と考えてみたが、それはもう今更だろう。縁側まで歩き、グイッと飲み込む。ひんやりとしたものが唇に触れ、喉を通っていく。すぐにそれは僕の体内へと消えてしまった。結露によって汗をかいたグラスを見つめて、またもう一度、夏が来たのだな、と思った。
夏は好きだ。揺れる日差し、澄み切った空、生き生きとした生命たち、こどもの駆け回る足音、揺れる氷、グラスの中のウーロン茶。どれも夏だからこそ感じる喜びだった。
空っぽになってしまったグラスを畳の上に置き、そばにある扇風機をつけてみようと試みたが、うんともすんとも言わない。どこかおかしいところでもあるのかと周辺を見回していると、コンセントが抜けている。
なんだかそこから動くのも面倒になってしまい、そのままごろりと仰向けになる。じんわりとかく汗は、もはや心地の良いものだった。
「ただいまー!」
ふと、声がした。姉が帰ってきたらしい。畳の上に濡れたグラスを置いたことがバレたら、きっと怒られてしまう。僕は慌てて起きあがり、すっかり溶けきった氷だったものをまた口に含む。畳に現れたグラスの跡をちらりとみて、ああ、不味いなぁと笑ってしまった。
きっと姉は、頬をふくらませて怒るんだろう。
そして僕は、グラスを片手に玄関へと向かうのだ。
「おかえりー」
僅かに湧き出た悪戯心は、グラスと共に、シンクにそっと置きに行こう。