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誰かの書く物語  作者: ふわりん
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プロローグ『頭痛』

 初投稿です。表現技法や、言葉遣いがなってないとは思いますが、宜しくお願いします。足りなかったところなどあったら、どんどん指摘してください。


 

 いつからだろうか、心からの笑顔が出来なくなった。

 父は暴君で、毎日母や僕、妹に意味もなく殴る最低な人間だった。だから、いつも父の機嫌をとるために、偽りの笑みを浮かび続けて、本当の笑みを浮かべられなくなったのかもしれない。


 

 冷える、夏の夜のことだ。僕が五歳だったとき、その日もいつものように酒で酔っていた父に殴られ泣いたとき、ふと僕は逃げるように、本棚に並べられていた本を一つ手に取り読んでみた。幸い僕は頭が良かったので、大体の漢字は理解できた。しかし、何故本を読んだのか、何故その本が『人間失格』だったのかは、ついぞわからない。辛い気持ちを、逃げ出したいこの思いを、誰かと、何かと共有したかったのかも知れない。もしそうだとしたら、僕はその本に期待を裏切られたことになる。


 ところで、『人間失格』を読んだ人の感想は、暗く、嫌な感じというものが多いようだ。それでも、何故か手が止まらない、時間を忘れ、本の世界に吸い込まれる。そう語る人は少なくない。だが、

 ーー面白い。

 僕は子供ながらにして、そう感じた。確かに暗い本とは感じたが、嫌な感じだとは思わなかった。いや、むしろその逆と言ってもいいだろう。

 読むことが快感になったのだ。

 涙を流す程の悲しい話なのに、辛くて発狂してしまう程の物語なのに、思わず笑みを浮かべてしまうほど文字を追うことが気持ちよくて、楽しかった。気付けば時間を忘れて、辺りを見回せば既に日が昇っていた程に、だ。

 それから僕は、家の本棚に並べられた本を読破しにかかった。母は本が好きなので、家にはかなりの量の本があった。今思い返せば、半年近くはかかったのだろう。時間さえあればページをめくり、面白さに感銘する。父に罵倒を浴びせられ、辛くなれば本に慰めてもらう。僕の毎日に、読書という「楽しみ」ができた。

 苦痛続く日々が、本によって変わっていった。

 

 そして半年たったある日、僕は家にある全ての本を読破した。読んでいて鳥肌が立ったもの、主人公に共感して頷いたもの、思わず涙を流してしまったもの。どれも、読んでいて気持ちのいい本ばかりで、つまらない本など一つたりとも存在しなかった。それを母に伝えると、図書館にはもっと良い本があると言われ、未だ見ぬそれに期待を膨らませた。

 その日の後日から、僕は近くの図書館へ毎日に通い、飽きることなく本を読み続けた。ジャンルという壁をぶち壊して、六桁に迫る多種多様、十人十色な本たちのページをただひたすらにめくり続けた。春の花びら舞う日も、夏の熱い日差しがあたる日も、秋の花粉にくしゃみが止まらない日も、冬の手凍る寒い日にも。

 図書館が、僕にとっての第二の家になっていた。

 

 

 中一の冬、屋根には雪が降り積もり、吐く息も白くなってきた頃、僕はゆっくりと一冊の本を閉じた。ーー図書館に存在する全ての本を、読破した瞬間である。

 叫びさえしなかったものの、それは感情を表さない僕にガッツポーズをさせる程の達成感を味あわせた。いつも顔を会わせるカウンターのお姉さん達と喜びを分かち合い、約七年間のあいだに出来た友達らと笑い会う中で、万を越える本を読み尽くした今、僕はあることに気付いた。



 裏表ない笑みを、鏡の中の自分は浮かべていた。



 本を読んで、父の言葉に心を折らずにすんだ。本に没頭して、初めて毎日に楽しみができた。本と出会えて、僕はこうして、たくさんの人と会うことが出来た。笑いあうことができた。

 


 本は、僕の人生を変えてくた。


 


 



 

 

◎ 

 

 





 

 ーースパァンッ!

「痛っ!」

「「痛っ!」 じゃないっ、起きろ!」

 後頭部に激痛が走り、悲鳴をあげる僕に、男が怒号を響かせた。朦朧とする意識と視界の中、僕は男が杉林先生だということを理解する。

「……す、すみませぇん」

「いくら点数がよくても、態度が悪けりゃ内心落とすからな!」

 そう、額に青筋を浮かべて、遠のいていく杉林先生を見届けてから、僕は窓の外を見た。鱗雲だ。青い空という海を泳ぐそれは、この教室を影で覆い隠した。「雨が降るな……」そう僕は呟いたあと、何で授業中に寝てしまったのかを思い出そうとする。

 そうだ、授業が退屈で仕方なかったから、人生を振り返ってたんだ。ほら、不意に『何故私は生きているのだろう』とか考えることがあるだろう。それと似たようなものだ。深い思考にはまっている最中、きっと寝てしまったのだろう。

 そう一人で納得し、ノートに視線を落とした瞬間

 

 ーーズキンッ。


「痛っ」

 つんざくような痛みが走った。熱い、熱い、熱い、熱い、頭が、熱い。焼けるような痛みに視界が定まらず、目眩が激しく起こる。

『誰だお前は!』

 叫び声がする。

『屑が!』

 罵倒が聞こえる。

『誰のお陰で生きてると思ってんだ!』

 嫌な記憶だけ残ってて、肝心なところは全く覚えていない。男の嗤う顔が脳裏から離れない。男の怒り狂う姿が、頭から離れない。痛い、熱い、痛い、熱い、痛い、熱い、痛い。

「ーー糞がっ」

 ふざけてる! 痛みは止まず、耳鳴りはしっぱなし。既に何も見えないし、聞こえるのは無数の雑音。ただ熱く、苦しく、痛い。

『生意気だ!』

『本なんて捨てろ!』

 ああああああぁぁぁっ!!

 うるさい、うるさい、うるさい。全部うるさいっ。もう、止めて、止めろっ、止めーー


『全部、お前のせいだ』


 それが、最後に聞いた言葉だった。 



 

 

 

 

 


お読みいただき、ありがとうございました。

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