探偵、開業! その4
夜8時を回った。
事務所のドアを開ける音がした。
「こんばんは。父の居場所、どこでしたか?」
「まあ、まずは座ってください」
僕が緋紗那さんを事務所に呼んだのは、吉充さんの大方の居場所に見当がついたからであった。
「まず、今日の日中の聞き込みの結果、さらに6件、合わせて12件の情報が得られました。これが全てかは分かりませんが、ここからある程度分析ができました。まず、騒動を起こすのは数日に1回。1日に2~5件まで。範囲は自宅から約200m圏内。地図上にプロットしてみると、大体の通り道は分りますが、動き始める前後の居場所は不明。ただ、初日・・・27日の行動を見てみますと、枕元に表れた直後、お隣に出現したのち、北上しています。が、その後200mの円に沿うようにして東に向かっています。この範囲内でしか騒動を起こしていません・・・緋紗那さんの耳に入るように、とも考えられますが、もしかすると出られないのではないでしょうか。私も霊には詳しくありませんが、自宅に縛られ半径200mから出られない、いわゆる地縛霊・・・のようなものだと考えられます。そしてもう一つ、初日の行動ですが、1件目と2件目の脅かし方です。1件目では、民家のリビングの隅でうずくまっていた。2件目はコンビニで首なし幽霊。近所という事で、顔を見られないようにしたのでしょう。三件目以降は寝てる人を起こして首なし幽霊。3件目までは実験で、3件目が1番落だと分かって、それ以降はずっと同じ方法で脅かし続けたのでしょう。幽霊になったばかりで勝手が分かっていなかったという事です。初日に1度北上してから東に回ったのも200m圏から出られないとその時初めて知ったと考えれば自然です。そして何より・・・1件目から2件目の間に気が付いたのでしょうが、首なし・・・首から上が消せるんです。だったら、全身消せても不思議はないでしょう。・・・とまあこんな感じで、最終的な結論ですが、お父様は恐らくご自宅にいます。・・・姿は見えないでしょうが」
緋紗那さんは「なるほど、納得しました。今すぐ父と話をつけてきます」と言ってすぐに帰っていった。
ここからは後から聞いた話だが、帰ってすぐ「いるのは分ってる。今すぐ出てこないと、私も我慢の限界だから、いっそ死にます」と脅したところ、吉充さんはすぐに出てきたらしい。
そして「今でも十分幸せだし、いい相手が見つかったらちゃんと結婚もするけど、時代が違うんだから無理強いしないで。たった1つの気がかりはお父さんが幽霊になってる事なの。お父さんも安心して成仏して幸せになって」と言うと、号泣して、「なんていい娘を持ったんだ・・・」と言い残して消えてったらしい。
僕の想像だが、実は結構気の強い緋紗那さんに口で勝てないから、あんな回りくどい事をしたのではないだろうか。
その後、探偵料を持ってきた緋紗那さんが「ちょろい父親でしたよ、本当に」と言っていたのが印象深かった。